冬の一日 11

11


斉藤さんの車の助手席に乗って着いた先は、
どう見ても家族向けのマンション。

私もマンションに住んでいるけれど、あくまでもひとり暮らし向け。
建物も3階建てで小さい。
けれど目の前にある建物は……。

「この大きいマンションに住んでるんですか?」

「うん、ここの5階」

「……ひとり暮らしですよね?」

「うん、ひとり暮らし」

「……」

ゆっくりと地下駐車場に滑り込む車内で、
言いようのない不安に襲われる。

なにか変な趣味があって大量のグッズが部屋を埋め尽くしているとか、
ヘビやトカゲなんかの爬虫類を飼育していて、
専用の部屋があってエサを保管するための巨大な冷蔵庫があって……。
もしくはエサ用のネズミや虫を飼育しているとか……。

ゾクっと背筋に悪寒が走る。


「はい、着いたよ」

「はい……」

引き返すこともできずに促されるまま車を降りて、
後ろをついて行った。


「どうぞ、片づけてないけど」

「おじゃまします」


廊下の灯りを点けて、ひとりで先に奥へと行ってしまった斉藤さんに声をかけられず、
なんとなく上がりづらくて靴を履いたまま玄関でうろうろしていると、
リビングの電気を点けて戻ってきた。

「どうしたの?上がっていいよ」

「は、はい、おじゃまします」

「どうぞ」


コートを脱いで廊下を歩いていくと、
想像とはまったく違ったリビングに通された。

広々とした空間。
大きなソファーにお洒落な木製のテーブル。
壁側には大型のテレビとスピーカーが置かれていて、
テレビボードには複数のプレーヤーが並んでいた。
それ以外の余計なものはなく、さっぱりとした部屋で、
テレビや雑誌で見るような洗練された印象を受けた。

片付けていないというから散らかっているのかと思えば、
テーブルの上に何やら書類がいくつか置いてあるだけ。

「……すごい。こんな広いところに住んでるんですね」

「リビング自体は8畳しかないよ。
 キッチンも含めると広く感じるけどね」

「へぇ、いいなあ」

「新鮮な反応ありがとう」

興奮気味に部屋を見渡す私を見て、
テーブルの上を片づけながら斉藤さんが笑った。


整理したものをテーブルの下に置き、
「座ってて。いまコーヒー入れるから」と言って、
コートをソファーにかけて流しで手を洗い始めた。

「そっちに行ってもいいですか?」

「いいよ」

ソファーの横にカバンとコートを置いて、
斉藤さんのところに向かう。

「広いキッチン」

「うん、流しが広くて便利だよ」

後片付けが楽そうな広い流しに3口コンロ。
ダイニングテーブルに椅子が2脚。
たくさん入りそうな食器棚もある。

「いいなぁ」

はしゃぐ私をよそに、
斉藤さんは水を入れたケトルを火にかけ、
食器棚からカップとソーサーを取り出した。

クリアなガラス戸のむこうに綺麗に並べられた食器の数々。
ひとり暮らしでこれだけの食器はめずらしい。
ペアで揃えてあるようだ。

「インスタントだけどいい?」

「はい、大丈夫です」

オーブンレンジもトースターもひとり暮らしで使うような小さくて安いものじゃなく、
料理好きや家族がいるところで使う大きなタイプのもの。
冷蔵庫に至ってはCMで見るようなサイズだ。

色々、揃っているけど……なんだろう、この違和感。

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| 「僕の一日」  | 03:08 │Comments0 | Trackbacks0編集

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