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冬の一日 10

10

「おまたせ」

トレイを持った斉藤さんが私のところに来ると、
女性店員はふたりで私の顔を見ながらコソコソと何かを話していた。
今日これで何度目か。

きっとこんなカッコイイ人にあんな不細工がなんで?とか話しているんだろう。
……辛い。

私の視線に気づい斉藤さんがレジの方を振り返る。

あわてて視線を逸らし、
何事もなかったかのように作業する店員を見て、
斉藤さんが呆れたようにため息をついた。


「ごめん、疲れるだろう」

「いえ、そんな……斉藤さんは悪くないですし」

私の前にアイスカフェオレを置いて、また「ごめんね」と呟いた。

「……斉藤さんは平気なんですか?」

「慣れたかな」

アイスコーヒーが入ったグラスを口に運び、
一気に半分ぐらい飲み干して、
「それでも疲れるといえば疲れるけどさ」
と、ため息交じりに言った。

「そうですよね」

「仕事中もさ、まさかここまでとは思わなくて、
 最初の頃はかなり疲れたけど、この頃落ち着いてきたから」


私たちが働く雑貨屋がオープンして7ヶ月。
最初の5ヶ月を私は知らないけれど、
オープンして間もないころは当然お客さんの数も多かったし、
口コミや噂で「超イケメンがいる雑貨店がオープンした」として、
雑誌の取材が来たほどだったと相沢さんから聞いた。
斉藤さんへの取材はすべて断り、
お店の紹介の場合のみ受け付けたという。

「石川にも迷惑かかってるだろ」

「私は別に……」

「ごめんな」


今まで付き合ってきた彼女たちは、どう思っていたんだろう。
やっぱり一緒に外を歩くのは疲れると感じていたのかな。

あんまり人が多くないところでデートしていたのかもしれない。


「すみません…まさかここまでだと思わなくて、
 ショッピングモールに行きたいなんて言って。
 仕事中のことから考えれば分かったことなのに」

「石川が謝ることはないよ。
 まあ、なんか今日はいつもより見られている気はするけど」


……それは多分、隣にいるのが私だから。


「今後はそういうこと、気を付けます……」

仮にこの先があるならばこれからはそうするのが良いと思って、
真剣な顔で言うと、驚いて顔をして手にしていたグラスを置いた。

「私、なんか変なこと言いましたか?」

「いや、そんなこと言われたの初めてだから」

くすくすと笑いだす姿を見て「え?なに?」と慌てだした私に、
「ごめんごめん」と謝りながらも、声を殺しながらお腹を抱えて笑った。

「ごめん、なんだか新鮮でさ」

「え?」

「いや、いままでそんなこと言ってくる人いなかったから」

「……どういうことですか?」

「うん、あのね」

腕組みをして思い返すように話した。

「俺のこと気にして人が少ないところに行こうなんて言う人、
 いままで付き合ってきた人の中で言ったのは石川が初めてだよ。
 どっちかっていうと俺と一緒に歩くことで目立つのを嬉しがる人が多かったし、
 ピアス買ったときみたいに、あんなにプレゼントを遠慮されたのも初めてだよ」

目立つのを嬉しがるってどういう事だろう。
斉藤さん本人は嫌だと思っているのに。

「だって記念日以外に高額なもの買ってもらうなんて、
 そんな申し訳ないと思わないですか?
 誕生日なら相手のときに返せばいいし、
 記念日ならお互い交換っていうふうになるけど、
 なにもないときにもらったらお返しをどうしたいいかって悩んじゃうし」

素直に感じたことを言うと、また驚いた顔をして数秒後に笑い出した。

「なんで?変ですか?」

「石川はやっぱり石川だな」

何を言いたいのか分からず困った顔をすると、
私の頭にぽんぽんと優しく触れた。

「それじゃあ、飲み終わったらピアッサー買って穴開けるか」

「え?!怖い!」

「大丈夫だよ、一瞬だし耳は鈍いから、たいして痛くないよ」

「ピアスしていたことあるんですか?」

「うん、大学生の頃ね。もう塞がったけど」

「似合いそう」

「そう?ありがと」

残りのコーヒーを飲む姿を見ながら、
どうしてこんな人が自分みたいなのとデートしてくれるのか、
なにか特別な理由があるんじゃないかと考えてしまった。
あまりに不釣り合いすぎて……。
こんなの女と一緒に居て恥ずかしくないのかな。

「どうした?」

心を読まれた気がして、首を横に振った。

そんなこと思うことが相手に失礼なのに、
何を考えてるんだろう。
そう思うなら私自身が変わらなきゃいけないのに。

「いえ、なんでもないです」

「そう?じゃあ、ピアスだけど」

「すごい怖いです!……大丈夫かな」

恐怖の表情で会話を遮ると、ちょっと困った顔で笑った。

「そんなこと言ったって開けないとピアス出来ないだろう?
 開けた後も1ヶ月ぐらいはピアス変えられないし」

「そうなのんですか?」

「うん、穴が安定するまで時間がかかるんだ」

「へー。そんなに」

「個人差はあるけどね。開けるのは一瞬だよ」

「は、はい」

買ってもらったのだ。
覚悟を決めなければ。

「さてどこで開けるか。消毒液が必要だし」

「ティッシュで拭けば平気です」

「いやいや、化膿したりすると一度閉じてからまた開け直さなきゃいけなくなるよ」

「……それは嫌デス」

「だろう?じゃあウチに行くか」

「…………え?」

テンポよく進んでいた会話が途切れる。

「うちって、斉藤さんの?」

「うん」

斉藤さんはひとり暮らしのはず。

「……」

「なんか問題?消毒液あるし」

「いや、その……」

デート初日にひとり暮らしの男の人の家に行くのは、私にはハードルが高すぎる。
それにまだちゃんとした形で「付き合う」と言われていない。

変な緊張感がこみ上げてきた。


「ああ……うん、そうか。それは平気。大丈夫」

私の言いたいことにすぐに気づいて、声のトーンを抑えて言った。

「そういうのは嫌なら言ってくれればしないし、大丈夫だよ」

「……はい」

「よし」


私がカフェオレを飲み終えるまで時間がかかってしまったけれど、
斉藤さんは急かすことなくゆったりと待っていてくれた。
そのあとはピアッサー2つ買ってショッピングモールを出た。

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