僕の一日 122

しばらくして客数が減ったのを見計らって斉藤さんと一緒に休憩に入った。

『さっきのお客さんは何をしにうちの店に来たんですか?』

「あぁ、一緒に日本に来てる友達にこの店におもしろい雑貨があるって聞いたんだって。
 その友達とは今日は別行動らしくてこのビルの住所だけ聞いてて、
 何とかたどり着いたみたいだけど全然日本語分からないし英語も話せないから、
 1階から全店舗をのぞいて歩いてたみたい。
 それでそれらしきお店を発見して、有利くんに声をかけたんだって」

『へー、何の商品ですか?』

「それがさぁ、去年クリスマスの時だけ仕入れた、
 お金を置くと猫の手が出てくる貯金箱あったでしょ?
 あれを探していたみたいでね、無いことを伝えると頭を抱えて悲壮な顔してたよ」

『えぇぇ?!あれですかぁ?!』

確かに去年、そんなものがあった。
確かにカワイイが、子供向けすぎたのかあまり売れなかった記憶がある。

「ホントに。つい笑っちゃってさ。
 こっちに3~4日ぐらい滞在するなら仕入れられるかもしれないって言ったら、
 明日には八ヶ岳に向かうんだって。
 仕方ないから他に何かないかっていうから、
 店内軽く案内したら曲げわっぱの弁当箱に食いついてね。
 ほかに和柄の便箋に手ぬぐいを買って行ったよ」

思い出して笑っている斉藤さんがあまりに楽しそうだから、
「あとは?」「それで?」とかぶせるように聞いてしまった。
いつもは静かにゆっくりと話すタイプなのに、
ドイツ語で話すときは表情も変えながら抑揚もハッキリとしていたように見えた。
単にそう話すのが普通のことなのかもしれないけれど。

『あの、斉藤さんはドイツ語ペラペラなんですよね?今更ですけど』

自分のことはあまり話さない人だけれど、今なら答えてくれるかもしれない。

「うん。今ドイツに住んでも問題ないよ」

『すごい!外国語ペラペラな人と初めて会いました!』

興奮気味に言うと、くすっと笑って箸をおいた。

「有利くんは日本にはない特有の発音が苦手なの?」

『多分。全部同じようにしか聞こえなくて』

「そっか、うん、慣れないとそうかもね」

ペットボトルの蓋を開けながら、いつもの様に低い声で優しく呟いた。

『……ドイツ語は独学ですか?』

合わせる様にトーンを落として質問した。

「いや、知り合いに堪能な人がいたから小さい頃から教えてもらってただけだよ。
 勝手に身についたようなものだから、ほとんど勉強はしてないんだ。
 普段使わないような難しい単語をやったくらいかな」

『へぇー。親がそうだと勝手に話せるようになるのもそんな感じなんですかね?』

「そうだね」


一口水を飲むと空になったお弁当の容器を持って、
「さてと、相沢たちを休ませないと」と言って斉藤さんが立ちあがった。

「有利くんはあと20分ちゃんと休むこと」と笑顔で言われて、
立ち上がろうと机に着いた両手から力が抜ける。

「休憩はしっかりとりなさい」

ぽんと肩を優しく叩いてバックルームを出て行った。

斉藤さんはご飯を食べ終わると仕事に戻ったり書類を眺めたりと、
1時間しっかり休憩をとっているのを見たことがない。
時間を惜しむように働いている姿をばかりだ。
社員だからって休憩時間を潰さなくてもよさそうな気もするが、
店長もそれを特に気にするでもなく、
自分はしっかりと休むし、俺たちバイトも当然1時間しっかり休憩をくれる。

俺が具合悪くしたときもお弁当を持って来てくれたり病院に連れて行ってくれたり、
とにかくお店の為に、スタッフのためにと尽くしてくれているように俺には見えていた。


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| 「僕の一日」  | 17:21 │Comments0 | Trackbacks0編集

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