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僕の一日 117

指定した場所は5つ隣の駅。
俺自身はほとんど利用したことがない場所だ。

『こんばんは』

俺より先についていた歩さんが改札口付近で待っていた。

「こんばんわ!あの、突然すみませんでした」

『大丈夫だよ。それよりどこかお店に入る?
 寒いし、ご飯がまだなら一緒に食べようか』

「いいんですか?」

『うん、終電まで間に合えば時間は大丈夫だよ』

俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑う歩さんの手に、
バッグのほかに小さな紙袋が握られてるのに気づいたが、
すぐに視線をはずして駅近くの飲食店を探しに歩き出した。


駅をから数分のところにある居酒屋に個室があったので、
その店で夕飯をとることにした。
居酒屋だというのに2人が注文したのはいつも通りジュース。
きっと店員は「なんで居酒屋にきて酒を頼まないんだ」って思っているだろう。


「今日はお休みですもんね」

『え?』

「格好が普通だから」

『ああ、そっか。そうだね』


歩さんは俺が日中普通にバイトしていることを知らない。

「ちょっとびっくりしました。ホストのときとの差があって」

『お店では黒っぽいスーツ着てるけど、普段はああいう格好じゃないよ』

「さっき駅で会ったとき、最初誰かわからなかったです」

『そんなに?』

「だって、前髪もおろしてるし」

『あ、そうだね』


ホストクラブで働くときはきっちり前髪は上げているが、
普段はなにもつけずにそのままだし、
今日の格好と言えばジーンズにロンTにカーディガン。
歩さんと会うときはいつもホストクラブで働く前か後だったから、
お店で働いているときの格好しか見たことがないのは当然だ。

「別人みたいですね」

『変?』

「いえ、今の方がいいです」

『働いててなんだけど、ああいうスーツは好きじゃないんだよね』

「でもホストの服も似合ってます」

『ありがと』


素直に感謝の言葉を述べると、
顔を真っ赤にして小さな声で「いえ」と呟いた。


運ばれてきた料理を食べながら、
いつものように歩さんの話を聞いた。
大学のこと、買い物に行ったこと、
最初にホストクラブに来たとき一緒にいた友達の美貴さんと遊んだこと。
おそろいの来年の手帳を買ったこと。

充実した毎日を送っている姿が目に浮かんだ。

『美貴さんは歩さんと俺が会ってること知ってる?』

「はい、いつも話聞いてもらってます」

『そう』

「あ、でもほとんど私が思ったことだけで、
 その、直哉さんが話していたこととかはあんまり話してないです」

『うん、ありがとう』

「あ、あの!」

『うん?』


お腹が空いていた俺は運ばれてきたお茶漬けをサラサラと流し込み、
アジの開きをつついていた。
歩さんの話は聞いているけれど、気持ちは食べる方に向いていた。

「あ、あの私……」

『…どうしたの?』

視線を向けると小さな紙袋を手にしてた。

「これ……いつもこうして会って頂いてるお礼ですっ !」

勢いよく差し出された紙袋には、
有名なブランドの名前が印刷されている。

『ありがとう』

ホストとしてではなく知人として普通に相手をすると決めたのだ。
ここで拒否しては失礼になってしまう。
あくまでお礼として素直に受け取った。

「いえっ!」

『開けていい?』

「は、はい……」

袋の中には小さな箱が入っていて、
その中にはシンプルで細い2重巻のレザーブレスレットが入っていた。

学生には高い買い物だっただろう。

幅の広いレザーブレスレットをしている左手ではなく、
何も着けていない右腕につけた。

『どう?』

手を動かすと恥ずかしそうに笑いながら小さな声で、
「似合ってます」と呟いた。

「どんなのが好きなのかよくわからなくて、
 いつも左手にレザーブレスレットをしているのが見えたので、
 そういうのが好きなのかなぁって……」

予想外の言葉に少し驚いた。
絶対に袖口はボタンをはずさないし、
シャツ自体も細身のものを着ている。
なるべく手首が出ないようにしているのだけれど……。
そもそもそんなところに気をつける余裕なんてないと思っていた。

『うん、こういうシンプルなのが好き』

ブレスレットをながめ呟いた。

「あの……」

『ん?』

「指輪はめてるの、めずらしいですね」

右手薬指にはまっている指輪を見つめながら歩さんが言った。

「いままでしていたことないですよね?」

『あぁ、これは……』


雑貨屋の商品であまり売れ行きが良くないからと、
スタッフ全員がはめて仕事をすることになっていた指輪だ。
今年いっぱいはしているようにと言われている。
ロッカーに置いてくるのを忘れてしまったから、
明日忘れないようにと、はめたままにしていた。

『ちょっとね』

一言だけで言葉を切ったのを気にしてか、それ以上何も聞かれなかった。

『歩さんは指輪はしないの?』

「え?えーと、指輪はひとつしか……」

『あんまり好きじゃない?』

「というか、ちょっとハードルが高いっていうか」

『ハードルが高い?』

「自分で買うのに気が引けちゃうって言うか、恥ずかしいっていうか」

『そうなんだ、似合うと思うけどなぁ』

「そ、そうですか?」

歩さんの声が上擦る。

『うん、シンプルなのもいいけどこういう大きめの石がついたのもいいと思うよ。
 はめてみる?』

「いいんですか?」


薬指から指輪をとって歩さんに渡すと、
緊張した表情で右手の中指にはめた。

『うん、似合ってるのになんだろう、サイズが大きすぎるね、ごめん』

「いえ!そんなこと」

『俺も細い方だけど歩さんも細いね』

「そうですか?」

『うん。指輪似合うから気負わずつけてみるといいよ』


指輪をはめた手を見つめながら小さな声で「はい」と呟いて嬉しそうに笑った。



運ばれてきた料理を食べ終えて、
もう少ししたら店を出ようとしていた時。

歩さんがストレートの綺麗な黒髪を耳にかけた。

『あ……』

「え?」

『ごめん、なんでもない』


今までイヤリングもしたことがなかった石川さんが、
10日位前に突然ピアスをしてきた。

だから何だ、という話だけれど、
なんとなく彼女の中で変わっていっているものがあるよな気がした。


『あのさ』

「はい?」

『今までイヤリングをしたことなかった人が、
 急にピアスをつけるって、なにか意味があると思う?』

「ピアスですか?」

『うん』

「うーん、ピアスだと穴開けるのが怖いけど、
 イアリングよりピアスの方がお洒落だし色々つけらる感じもするし、
 落としたりして失くす心配がないっていうのはあると思いますけど……」

グラスの中を見つめながら歩さんが言葉を続けた。

「でも好きな人からプレゼントされたら、
 怖くてもそれをつけたくて穴を開けるかもしれないです」


いつも彼女はネックレスやブレスレットを服装に合わせてつけてきているけど、
一度だってイヤリングをしてきたことはなかった。



『そうだね、そういうこともあるよね』


彼女の変化の理由を知るのが怖い。


明るく元気になっていっているなら良いことのはずなのに、
どうしてだろう。

その理由が斉藤さんだって思うのは。


彼女を変えているのは、斉藤さんかもしれないって。

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| 「僕の一日」  | 03:21 │Comments0 | Trackbacks0編集

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