冬の一日 6

6

勝手に想像して気分が落ち込んでしまい、
そんな顔を見られたくなくて外ばかり眺めていると、
家電量販店の看板が見えた。

「着いたよ。酔った?」

「ううん、平気」

「そう?」


笑って声をかけてくれる。
優しい声。


「じゃあ、さっさと決めて夕飯食べに帰ろう」

「うん」


お店の中に入り、暖房器具が置いてあるところに向かって歩いていると、
突然後ろから声をかけられた。

「すみません」

べたっとした嫌な感じがする声に振り返ると、
そこに居たのはスーツを着た若い男性。
パーマのかかった髪は金色に染められていて、
チリチリと痛んでいるのが目についた。

斉藤さんの知り合いかと思い隣を見ると、
顔色一つ変えずに男性を見つめていた。

「なんでしょうか?」

威嚇にも聞こえるトゲのある口調で斉藤さんが言うと、
少しうろたえながらも男性はポケットから名刺を取り出した。

「わたくし○○芸能事務所の者ですが、突然すみませーん」

私の方は見向きもせず斉藤さんに向かって名刺を差し出しながら言った。

どうやらスカウトらしい。
しかもこんなところで。

「いま駐車場で見かけて。
 モデルや芸能界に興味はありませんか?
 アナタなら間違いなく……」

「結構です」

営業スマイル全開で話し出した男性の言葉を遮るように、
斉藤さんが強く言った。

「あ、えぇーと……○○という大手の事務所ですので、
 そのあたりがご心配なら……」

「興味はありませんので」

名刺に視線を向けることもなく、
目を見つめたまま不機嫌そうな顔で答える姿に圧倒さたのか、
男性がたじろぎ始めた。

一瞬、不気味に笑うと、すぐに頬を引きつらせて困った顔をしたので、
引き下がるのかと思いきや、逆に喰らいついてきた。

「一度うちの事務所に来ていただけないですか?!
 すぐ手配しますから!」

「結構です」

手を合わせて懇願する姿にわずかな動揺も見せず、
キッパリと言い放った。

苛立ちを見せ始めた斉藤さんに、
男性はあきらめたのか肩を落とした。

「わかりました。呼び止めて申し訳ございません。
 ですがこれだけは受け取ってください」

すっかり落ち込んだ声で頭を下げ、
斉藤さんの胸元に名刺を差し出した。

斉藤さんがそれを無言で受け取るとジロリと私を睨み、
ビクッと身体が反射的に硬直したのを見て、
半笑いで足元から舐めるように視線を動かした。

目が合うと憐れむような顔で笑った。


あ……。


見下され、馬鹿にされているのがわかった。

「彼女がなにか?」

私の手を握り、斉藤さんが言った。

「いえ、なんでも」

男性は私に一瞥を投げたあと、
ニヤつきながらお店の出口へ向かって歩いて行った。

こんな女が彼の隣にいるのは滑稽だと言われた気がした。


ぎゅっと締め付けられた胸のせいで、
相手が居なくなってもうまく息が出来なかった。

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| 「僕の一日」  | 15:28 │Comments0 | Trackbacks0編集

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