春の一日 26

26

ふいに、無言になった石川が俯いた。

「どうした?」

髪を撫でていた手を止め、
顔を覗き込むと寂しそうな笑みを浮かべた。

「なんでもない」

眉間にしわ、引きつった口元。

泣きそうだ。
さっきまであんなに大声で笑っていたのが嘘のように、
涙を浮かべていた。

「……ごめん、なんでもない」

俺に背を向け涙を拭う仕草をした。
何か傷付けることを言ったか記憶を巡らせたが、
とくに思い当たらない。

ズズッと鼻をすする音を聞いて、
テーブルの上に置いてあったティッシュをとった。

「ごめ……」

ティッシュを受け取り涙を拭いて言った。

「ダメだね、私」

「何が?」

「……なんかもう……」


そう言って息を詰まらせるように泣いた。


寒い季節になると不安になると、以前話してくれたことがあった。
理由は言わなかった。
ただどうしようもなく怖くなる、と言っていた。

その言葉通り、冬になると体調を崩す日が多く、
原因は風邪ではなく精神的なものがほとんどだった。
過呼吸で倒れたのは初めの年だけだったが、
翌年からは倒れる前に休むようにしていただけで、
状態が良くなっていたわけではなかった。
病院には行っていないし、行きたくないと言っていた。

「……石川、もう休もう」

23時になるところだ。
明日もお互い仕事だし、俺も少ししか寝ていない分、
身体は重くだるい。


浴槽にお湯を溜めに行こうと立ち上がると服を引っ張られた。

「お風呂に入ってスッキリするといいよ。
 話したかったらそのあとで聞くから。いい?」

服をつかむ手を離してリビングを出た。


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| 「僕の一日」  | 00:24 │Comments0 | Trackbacks0編集

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