僕の一日 107

話が進まない歩さんの言葉に相槌を打ちながらお茶を入れ、
乾いていた喉を潤した。


『歩さんは……』

「あ、はい」

『お茶飲む?緑茶』

「飲みます。パックですけど」

『紅茶もおいしいけど、緑茶もおいしいよね』

「はい」

『こんな話で平気?それとも何かある?』

携帯越しに感じられる空気が緊張したのが分かった。

『無理にとは言わないけど話したいなら聞くよ』

「…………」


会話が完全に途切れ、沈黙が続いた。

大事なことを言おうとしているのは伝わってくるものの、
顔を見て話していないぶん、相手の状態がよくわからい。
何か言おうとしたところに、俺が口を挟んでしまうのは少し怖かったが、
あまり長い沈黙も負担だと思い、話題を変えた。

『歩さん、俺ね』

「はいっ」

ビックリした声がした。

『緊張しないで聞いてくれていいから』

「はい」

『さっき、歩さんから電話がかかって来る前ね、ちょっと滅入ってた』

「滅入ってた?」

『うん。いろいろあってね、考えてるうちにどんどん悪い方向に考えちゃって、
 駄目な方に気持ちが向いてた』

「大丈夫ですか?」

『もう大丈夫。
 歩さんが電話をかけてきてくれてよかった』


この電話がなかったら、多分、やってた。


『ありがとう』


歩さんの声を聞いた途端、頭の中にあったもやが消え、
ついさっきまでの自分が嘘みたいに心が軽くなった。


『ほんとに、ありがと』


こうやって素直に言えるのも、相手が歩さんだから。


『歩さん、聞こえてる?』

「……はい、聞こえてます」

声が震えていた。

『……なんで泣いてるの?』

「どうして、かな……嬉しかったから?」

『嬉しかった?』

「迷惑ばっかりかけて、なにも出来ないのに、
 そんなふうに言ってもらえるなんて、思っていなくて……だから、嬉しい」

『……ねえ、歩さん』

「はい」

『俺たちは似てるね』


数秒の間のあとに、「うん」と小さく呟いた声は、喜びと愁いを帯びていた。


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| 「僕の一日」  | 01:51 │Comments0 | Trackbacks0編集

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