僕の一日 105

俺と石川さんが体調不良から仕事を休み、
なにかとゴタゴタが続いていたが、
12月になってそれも落ち着いていつも通りのシフトに戻った頃から違和感があった。

彼女にも斉藤さんにも。


斉藤さんに関して言えば、俺が長い間休んで仕事に戻ったあたりから。

単純に考えるなら、
俺が何日も休んで迷惑をかけたから怒っている、という感じだと思うが、
どうにもそういうものじゃない気がした。
合わせて彼女の俺への気持ちが薄れているように感じた。

好意ではなく、優しさという意味で。


俺が雑貨屋で働き始めて間もない頃にリストカットがバレてからというもの、
仕事とは関係のないメールが彼女から送られてくるようになった。
内容と言えば俺の体調が悪そうだとか、無理しないようにだとか、
心配するものがほとんどだったが、
いつも彼女の意識の一部が俺に向けられているようで嬉しかった。
具合が悪いときは何も言わなくても気づいてくれて、
時間をみつけては部屋まで様子を見に来てくれた。

彼女の中で俺は特別なんだと、思っていた。

どんな気持ちであれ、俺へ向けられる彼女の気配は優しかったし、
心地よかった。


だからこそ、それが感じられなくなると、どうしようもなく不安になる。




斉藤さんとの買い物を終え、お店に戻っていつも通りに仕事をして、
定時に上がってマンションに帰り、遅い夕飯を食べてシャワーを浴びた。
買い物に行ったこと以外、特に何も変わらない一日だったけれど。

明日も仕事なのだから早々に休もうと思ったが、どうにも落ち着かない。

髪を乾かしながら仕事用の携帯に目を遠し、
いつものように簡単な短い文をそれぞれ返信した。
すぐに返事が来るものもあるが、
よっぽどでなければ続けてメールは送らないようにしている。
メールのやり取りが日課になっても困るし、
初めからあまり返信をしなければ、
意外と客はそんなものだと思ってくれる。
着信がある人にもメールで済ませている。

太客や一部を除いて、店の外での俺の対応は冷たいものだ。
それでお店に来なくなるならそれで仕方ないと割り切っている。
ある程度稼げていればそれでいい。


そう決めたのは2年前。


結構な額のお金も貯まったし、あとは月30万もあれば大丈夫だろうと、
ホストクラブで働く日数を減らして今の雑貨屋のアルバイトを始めた。

当然、金額的にはホストの方がいい。
だけど日中に普通に働けるのが嬉しかった。
朝起きて、夜帰って寝る。
ずっと憧れていた、普通の生活。
一緒に働いてる人たちもみんないい人で、特に彼女は優しかった。

だから……。


『俺のものじゃないのに』


いまはフリーでもそのうち誰かと付き合ったり結婚したら、
俺と連絡を取り合うこともなくなっていくんだろう。

そうなったらまた、ひとりになるんだろう。

寂しくないと言ったら嘘だけれど、たぶん大丈夫。
もう慣れたこと。
とっくに、ずっとずっと前から、寂しさや辛さを我慢することなんて。

見えている世界も感じている空気も共有できないのだから。


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| 「僕の一日」  | 03:09 │Comments0 | Trackbacks0編集

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