僕の一日 103

『すみません、じゃあコレからお願いします』

斉藤さんから渡された1万円を手渡した。

「葵と同じ店で働いてんの?」

『はい』

「そうか、アイツ忙しい?」

『俺よりずっと忙しいです。
 お店のこと全部していますし……』

「ふーん、そうか……」

領収書を書きながら少しだけ寂しそうにつぶやく。

『あの、斉藤さんは音楽に詳しいんですか?』

「え?」

手を止めてこっちを見る目に、心臓が鳴る。
強面だが真っ直ぐで綺麗な目をしていた。

「知らない?
 葵は音楽好きだし、たまにだけど知り合いのバンドに参加していたんだよ」

『え?!』

「正式なメンバーじゃなかったけどね。
 インディーズではそこそこ有名なバンドだったんだが、
 もう10年以上も前の話だから、若い君は知らなくて当然かもな」

領収書とお釣りをカルトンにのせると、
ポケットからスマホを取り出した。

「ほら、これがその頃の葵」

差し出されたスマホの画面には金髪の青年が、
こちらを射抜くような強い目で見つめていた。

真っ青な瞳に光に透ける金色の髪。
艶のある女性のような白い肌。

「俺がやってるバンドのジャケットになってもらった時のものだよ。
 アイツが高校のときだ」

真正面の顔のアップ写真。
それだけ。

「驚くだろう?
 加工は一切していないし、
 その写真を撮ったのも俺の知り合いのただのカメラ好きなヤツなんだ。
 インディーズだから金もかけられなくて、
 でもインパクトのあるジャケにしたくて、アイツにお願いしたんだ」

『……すごい、ですね。この髪や目は?』

「髪はそのとき染めて、目はカラコン入れただけだよ。
 なのにその完成度なんだ。
 アイツのおかげでジャケ買いしてくれる人もいたし、
 いろんな人が目をつけてくれるようになったんだ」


初めて会って自己紹介されたとき、
店長からモデルの仕事をしていたと聞いたけれど、
それを見るのは初めてだった。
なんでモデルの仕事を辞めたのか理由は分からないが、
周囲がそれを止めただろうことは容易に想像出来た。

「ジャケットは大事だから、いまでもあいつにお願いしたいって何度も思うけど、
 モデルの仕事はやらないって断られ続けてさ」

『そうなんですか……』

画面に映る高校時代の斉藤さんを食い入る様に見つめていると、
眉間にシワを寄せてジッと顔を覗き込まれた。

『……え、っと……』

「君さ、前髪で隠してる風だけどイケメンじゃない?」

『え?』

「ちょっと前髪上げてみて」

『え、いや、ちょ……』

失礼かもしれないが、人を平気で殺しそうなぐらい怖い顔で近づかれると、
フリーズしてしまうのは俺だけじゃないと思う。

「あまりにフツーの髪型だからわかんなかったけど、
 君もかなりのイケメンじゃないか。
 肌も白くて綺麗だし髪もサラサラだ」

『あの……』

「うちのスタッフに手を出すのやめてもらえます?」

ゴツゴツした大きく太い手で前髪を上げられ、
あと数センチというところまで顔を近付けられたところに斉藤さんの声がした。
この時ばかりは斉藤さんの声が天使のものに聞こえた。

「まったく……だから見つからないようにと思っていたのに……」

「この辺でCDショップなんてうちだけだからな」

俺の髪から手を離し、
斉藤さんが持って来たCDを受け取った。

「カッコイイ人見つけて自分の商売に使うのやめてください」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし」

呆然と斉藤さんを見つめていると、
ため息をついて呆れた声で言った。

「この人の言ったことは無視していいから。
 自分がこんなんだから女受け良さそうな顔した人を、
 ジャケやプロモーションビデオに使おうとするんだ。
 まったく詐欺もいいとこだよ」

「あ、テメー!詐欺じゃないだろう!
 P.Vでなにを使おうとそれはその人の勝手!
 商売としてなんら問題ないはずだ!」

俺の頭をポンポンと優しく触りながら斉藤さんが言い返す。

「何を言ってるんですか。
 本人怯えてるとこにそんな話して適当にうなずかせて使おうとしたんでしょ?
 嫌でも頼まれごとを断れないタイプの人間がいることを頭に入れてください」

「おまえ、相変わらずだな……友達できねーぞ」

「間に合ってるので結構です」

相手の言葉にかぶせ気味に話す斉藤さんの表情が、
はっきりと拒絶の表情を示していた。
かなり珍しい。

「まぁ、いいさ」

急に興味を失くしたかのように、フイっと視線をはずし、
斉藤さんが持って来たCDをレジに通した。

「お前がいま何に必死になってるかわからねーけど、あんまり流されんなよ」

「わかっていますよ」

さっきまでの攻撃的な言葉が嘘のように、
親しみを込めた笑顔をみせた。


斉藤さんの会計も終わり、「それじゃあ」と軽く頭を下げ、
店を出ようと歩き出すと強面店員が斉藤さんを呼び止めた。

「葵!」

「はい?」

財布をカバンにしまいながら振り向いた。

「ちょっと……」

手招きする店員を見て、斉藤さんが俺に車の鍵を渡してきた。

「ごめん、先に車に戻っててもらえるかな?」

『はい』

断る理由もなく、鍵を受け取ってお店を出た。
何を話すのか少し気になるけれど、
俺には関係ないことだし、詮索するのも野暮というもの。
車の中で大人しく待つことにした。

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| 「僕の一日」  | 02:15 │Comments0 | Trackbacks0編集

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