春の一日 15

15

泣いたせいで目が真っ赤になってしまったのを気にしている石川を助手席に座らせ、
俺の家に泊まるのに必要な着替えや携帯などをとりに車を走らせた。
助手席に座る姿を見る限りだいぶ落ちつている。
……泣かせたのはオレなわけだが……。

見た目も中身も完璧だね!などと言われることも多いが、
そんな言葉は嬉しくもなんともない。
完璧でいなきゃいけないのか?と言い返したくなる。
他人に大した感心もなく、
ある程度の常識と体裁を気にした態度をとっているだけで何故か完璧扱いされる。
強いて言うなら隙を見せないようにしているだけだ。

当然、機嫌も悪くなるしイライラもするし八つ当たりしたくもなる。
いつもはそれを表に出さないだけで。

ただ、さっきは石川を試したくなったというか、いじめたくなったというか……。
……、いや、違うな、それは言い訳だな。


「部屋に行く前にちょっとニトリに行くよ。閉店ギリギリかな?」

「え?なんで?」

不思議そうに聞いてきた。
声を聞く限り、だいぶ落ち着いたようだ。

「布団一式買おうかと思って。
 俺の分しかないから、泊まるなら必要だかさ」

「い、いいよ!そんなわざわざ買わなくても!」

慌てた様子で手を大きく左右に振った。

「でも夏じゃないから寒いしね。
 ソファーに寝ても疲れ取れないし、
 部屋は余ってるからそこで寝た方がいい。
 それにセットで安いのならそんなにしないはずだから、
 そのくらい別にかまわないよ。
 今度誰か来たときにも使えるし」

「で、でも……」

「気にしないで。いずれ使うものだからさ」

「うーん……」

「悩んでも運転してんの俺だし、
 その格好じゃ石川はお店に入れないだろうから、
 俺一人で買いに行ってくるけどね」

「え?!あ、う、うん。なんか、ごめん」

自分の姿を見て納得したらしい。

部屋着姿に男物の大きなパーカー。
別に外を歩いていけない姿ではないが、
かなり恥ずかしいし、俺もそういう格好で外を歩くのは嫌いだ。

「気にしなくていいよ。
 と言っても、気にしちゃうのが石川の性格なんだろうけど」

「うーん、誰でも気にすると思うよ、布団一式なんて」

「でも、まあ気にしないで。
 俺が買いたいって思うんだから」


信号が黄色になり、静かにブレーキを踏んだ。
隣に座る石川に目をやると、こっちを見て穏やかに笑っていた。

「ありがとう」

無防備な格好で助手席に座り、
そんな風に笑うことがどういう意味があるのかなんて、
きっと考えていない。
運転しているのが俺だから、と安心しているんだろう。

「ほかの人の車に乗って、そんな風に笑わない方がいいよ」

笑い返しながら言った。

「え?」

言葉の意味を理解しかねて首を傾げる。

「男の人の車ってこと」

真顔で言った。
男が運転する車にひとりで乗ることがどういうことなのか、
考えないこともないんだろうけど、
ときどき見せる無防備な姿は「隙」と捉えられしまう可能性がある。
その隙が意図的だと、都合よく相手が考えてしまった場合、
最悪のパターンが想像できる。

「斉藤さんと店長の車以外、2人っきりで乗ったことないし、
 店長のときは後ろに乗ったし、それだって仕事の物を買いに行っただけで……」

「世の中の男なんてだいたいが隙あらばと考えてるからね。
 そのへん君は鈍いから、注意しないとダメだよ」

「はい……」

伏し目がちにうなずく彼女の髪を撫で、緩やかに車を走らせた。


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| 「僕の一日」  | 01:50 │Comments0 | Trackbacks0編集

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