春の一日 13

13

今どき珍しく髪を染めたことがなく、化粧も最低限しかしていない。
格好もダサイわけじゃないがオシャレともいえない。
いたって普通。悪く言えば地味。
一般的に可愛いと言われる顔ではないが、だからと言って悪い顔でもない。
あくまで普通。

家事全般が得意で料理も掃除も好き。
年配の人に好かれるタイプ。
人見知りが酷いわけじゃないけれど、
初めて会った人と誰とでも仲良くなれるほど社交的でもなく。


9歳年上の俺から見れば、
石川はどこまでも普通でクラスに1人はいるような女の子だった。



初めてふたりで出かけたのは、店長におつかいを頼まれたときのこと。

「明日、出社前に斉藤と石川ふたりで、
 新しいラッピング用のリボンや包装をいくつか買ってきて欲しい」

というものだった。

アルバイトとして働き始めて間もない彼女が、
上手く仕事を出来なくて悩んでいるようだから話を聞いてみて欲しいというのが、
店長の本当の狙いだった。


翌日、大型文具店の開店に合わせて近くの駅で待ち合わせをした。
彼女は約束の時間よりも早く駅で待っていた。
いつも通りの姿で。

女性が俺とふたりで歩くとき、必ずと言っていいほどオシャレをしてきた。
デートとなればそれは当然なんだと思う。
石川とふたりで出かけるのは、店長に頼まれたものを買いに行くためであって、
デートではないのだからいつも通りで何もおかしくない。
いつも通りでいいし普通なのに、
それがなぜか嬉しくなって彼女をみつけるなり笑ってしまった。

「え?なに?どうしたんですか?」とおろおろする姿が可愛くて、
頼まれている買い物を後回しにして最初に話を聞こうと思い、
早めのお昼ご飯を食べに行こうと言うと、
「え?今から食べるんですか?
 買い物終わったらすぐに出社だと思って、お弁当作ってきちゃいました」
と、カバンを指さした。

恋人同士じゃなくてもふたりで出かけたりすると、
一緒にいる時間を少しでも伸ばそうと、
あの手この手を使ってくる女性が多かった中、
どこまでも俺の予想を裏切る石川の反応が新鮮で面白かった。


結局その日は食事はせず、店長に頼まれていたものを購入後、そのまま出社した。
俺たちの姿を見つけた店長が、
「もっと遅いと思って他のスタッフに出勤してもらってるから、
 そのまま社食でお昼食べながら休んでていいよ」と、気を利かせてくれた。

ふたりで社食に行ったことは一度もない。
新人だった石川の教育担当は相沢だったから、
そのままふたり一緒に休憩に行くことが多かったし、
基本的に休憩は1人ずつ行くようにしないと売り場が回らなくなるため、
休憩がかぶることがほとんどなかった。

「今日はいつものとこのお弁当じゃないんですか?」

カバンから財布を取り出し食券を買うと、めずらしそうに石川が言った。

「たまに社食の野菜炒め定食が食べたくなるんだよ。
 食べたことある?すごいおいしいよ」

「本当ですか?今度食べてみます!」

目を輝かせながら嬉しそうに笑うと、
「先に席についてます」と軽く会釈をして俺のそばを離れていった。
注文する列に並んでる間、彼女を眺めていると、
テーブルを拭いてから2人分の水を用意して、
そのあとはお弁当を広げず俺のことを待っていた。
携帯を開いたのもわずかな間。
すぐにカバンにしまった。
純朴そうな子だなぁ、と心底思った。


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| 「僕の一日」  | 01:35 │Comments0 | Trackbacks0編集

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