春の一日 11

11


この部屋から追い出す理由をいろいろ考えていたが、やっぱり無理だ。
こんな素直に泣かれてしまっては。

「そんな顔、あんまり人に見せるものじゃないよ」

「……他の人の、まえで、泣かないもん……」

「泣き止んだら一度石川のマンションに行こう。
 携帯も置きっ放しだし、着替えも必要だろう?」

「いいの?」

「うん、さっきはごめん。ちょっと意地悪したくなっただけ」

頭を撫でるとまたぼろぼろ泣いた。

「あー、ごめんごめん、結構キツイこと言った」

「ううん、違う……私が悪いんだから……」

自己肯定が少し低いと普段の行動を見て分かっているけど、
何においても「私が悪い」の言葉で片付けてしまう癖は、あまり良くない。
何度かそのことを言っているが、今のところ治る気配はない。

「まだ8時過ぎたとこだから、その辺の店も開いてるだろうし、
 テイクアウトしてあとはコンビニでプリン買ってゆっくりテレビでも見よう」

「あした早番じゃない?」

「だったけど遅番と交換してもらったから大丈夫」

「そっか……」

「うん。だから安心しなさい」

「……うん。ありがと」

「おいで、部屋に入ろう」

前もってシフトを有利に交換してもらっていて良かったなんて一瞬思ったけど、
こうなることを予想していたからだ。
確信があった訳じゃないが石川は俺になら甘えてくれると心のどこかで思っていたし、
彼女の為になら貴重な時間を削っても構わないと思える。

家族以外の誰かのために時間を割くことを、
マイナスに考えないでいられる相手は石川が初めてだった。

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| 「僕の一日」  | 12:15 │Comments0 | Trackbacks0編集

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