春の一日 9

9

眠りに落ちそうになったところに足音が聞こえ、反射的に飛び起きた。

「石川?眠れないのか?」

わずかに緊張した声でドアの向こうに呼びかける。

「……うん」

しょうがないと心の中で呟いて、
枕元に置いておいた携帯をポケットに入れ、毛布を手に部屋を出る。
心ここに非ずといった表情でぽつんと立っている石川の頭を軽くなで、
「俺もそっちで寝るよ」と言いながら部屋に鍵をかけた。

「……この部屋はまだ入っちゃ駄目なの?」

「ダメ。俺以外は入れません」

鍵をポケットに入れ、
背中を押しながら「さぁ、やすみなさい」と、ソファーに寝かせ布団をかけてやる。

「ごめんね」

「いいよ。ここがいいならいつでもおいで。
 休みの日は居ないことがほとんどだけど、
 この部屋以外は好きに使っていいから」

「……知り合いのお手伝い、まだしてるの?」

「うん」

「何の仕事?」


言ったら俺のことを信用しなくなるのではないか。

そう思うと何も言えなかった。
だから何度聞かれても、いつもはぐらかしている。

「さぁ、もう休みなさい」

彼女が――石川が、俺がしていることを知ることで、
言い寄って来たりするような女性ではないと分かっている。

その真逆だ。

記憶にあるそのイメージは良くないものだと、なんとなく思うから。
だから何も言わない。



嫌いになったわけじゃなかった。
面倒だったわけでも煩わしかったわけでもない。

あまりに俺が忙しすぎて時間を作れなかったせいで、
寂しい思いばかりさせてしまった。

石川は落ち着いていて大人びたイメージをもたれることが多いが、
本当はとても寂しがり屋。
それを満たしてあげることが出来なかった。
何一つ我がままを言わない、その優しさに甘えて。

「おやすみ」

石川がここにいたいなら好きなだけいればいい。
それを彼に知られなければ。

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| 「僕の一日」  | 02:46 │Comments0 | Trackbacks0編集

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