春の一日 4

4

石川の調子が良くないことは分かっていた。

兆候はあったのだ。

有利が飲み会で倒れる前から、様子がおかしいことに気づいていた。
それは他の人は気づかない程の小さな変化だったし、
おそらくそれだけで体調を崩すことはなかったのだと思う。

けれど有利が10日近く休んだのと店長の出張が重なったことで、
その穴を埋めるため俺と石川と相沢3人でお店を回さなければならず、
当然休日などなく、1週間以上続けて働いたことが、
肉体的に大きな負担となってしまったのだ。
身体への負担が大きければそれに比例して精神的にも疲れやすくなる。

「……誰の、せいでもないから……」

苦しそうにかすれた声で吐き出した言葉は、きっと有利に向けてのものだったのだろう。
俺はその言葉に返事はせず、一回だけ彼女の髪をなでた。

そのあとは酷く呼吸が乱れることはなく、ゆっくりと元通りの状態に落ち着いていった。
のどが渇いたという彼女にお茶の入ったマグカップを差し出しながら言った。

「石川は、優しすぎるんだよ」

自分に酔ってるだとか悪い方に受け取る人もいるだろう。
優しさが人を追い詰める時があると有利には言った。
確かにそれもあるが、あくまでそれは彼から見た場合の話だ。

見落としてはいけないのが、彼女自身が無意識に他人へ逃げているということだ。


他人の問題に首を突っ込み、他人の感情を自分のものとして捉え、
相手が起こしたことの責任を取ろうと夢中になり、自分のことはおざなりになってしまう。
相手にありがたがられたり、好意を寄せられるなどの報酬を、
無意識に期待している自分がいることを知らず。


共依存、という言葉を、きっと彼女は知らない。



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| 「僕の一日」  | 01:29 │Comments0 | Trackbacks0編集

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