春の一日 3

3

石川と一緒に遅い夕飯を食べた。
食べるペースを合わせながら、当たり障りのない話をした。
俺の話に頷くでもなく黙って菓子パンを食べていた。
前もこんな感じだった。
ご飯を食べてしっかり眠れば元に戻るだろう。


彼女が菓子パンとプリンを食べ終えるのを待って帰る準備をした。

「じゃぁ、帰るよ。明日の仕事は大丈夫だから。
 店長も帰って来るし、他のスタッフも出てくれるから」

「有利くん?」

「うん」

「どうだった?」

「大丈夫。元気だったよ」

「そう……良かった」

ホッとした顔をしながらベッドへと横になった。

「石川は……」

言葉を切った俺の顔を見て不思議そうな表情をした。

「いや……なんでもない」

俺がそれを聞く権利はないだろう。
知ったところでどうなるわけでもない。

「なにかあったら連絡くれればすぐ来るから」

「明日は早番?」

「うん。明日は有利くんと俺が早番、
 相沢が遅番で志季が17時に来てくれるよ」

「もしかしてフルで働くの?」

「一応店長が夕方には出張から戻って来れるらしいから、
 そうしたら定時で帰るよ」

「そっか……」

申し訳なさそうな顔をする彼女の額に手をやる。
伝わってくる熱は少し高い。

「熱あるな。何度だった?」

「37度ちょっと……」

「ホントに?」

枕元にある体温計に手を伸ばすと「ダメ」と止められた。

「やっぱり。ホントは何度?」

「……38度」

「ちょっと高いね。顔に出てないから分からなかった。
 明日、病院に送ろうか?
 放っておいて前みたいに長引くとつらくなるんじゃないか?」

「……今回は大丈夫。疲れただけ」

「分かった。明日仕事帰りに寄るから」

テーブルの上のごみを片づけ、ジャケットとカバンを手にし、
「じゃぁ、帰るね」と言って玄関に向かうと、後ろから彼女がついてきた。

「今日はありがとう」

「うん。ゆっくり休んで」


近所迷惑にならないよう静かにドアを開け外に出た。
閉まるドアの隙間から手を振る彼女が見える。
笑って手を振りかえし、そっとドアを閉めた。

足音が響かないよう静かに歩き出し、3部屋隣のドアの前で立ち止まる。

「……」

静まり返った夜の11時。
近くを通る車の音が耳をかすめる。

わずかな時間考えてから、彼女の部屋の前まで戻り、ゆっくりとドアノブを回した。
鍵をかけるために玄関までついて来たと思ったが……。

数センチほど開けた隙間から見えたのは。

「石川!」

玄関前でうずくまっている彼女の姿。
力任せにドアを開けた。

「どうした?大丈夫か?」

ガチャンと音をたてて閉まるドアの音にビクっと肩を震わせた。

「石川?」

呼吸が少し乱れている。
過呼吸だ。

「うん……まずは部屋に入ろう。ほら」

彼女を立たせたあと、肩を支えながら部屋に戻りベッドへ寝かせた。
布団をかけてやり、彼女の手を握り床に腰をおろした。

「ごめん、無理をさせ過ぎた」

俺の言葉に対し首を横に振ると、ぼろぼろと泣き出した。
テーブルの上にあったティッシュを枕元に置いて、状態が落ち着くのを待った。



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| 「僕の一日」  | 02:34 │Comments0 | Trackbacks0編集

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