春の一日 2

2

石川のマンションの近くにあるコンビニで菓子パンと翌日分の食パン、
自分が食べる分のお弁当とペットボトルのお茶を2本買った。
もちろん彼女が好きなプリンも忘れずに。
<「あ、着いたから鍵開けてもらえるかな」

マンションの2階にある彼女の部屋の前で、
チャイムはならさず小声で電話を掛けると静かにドアが開いた。

顔が半分見える程度に開いたドアの隙間から、
部屋着姿の彼女がうつむいたまま立っているのが見えた。

「……入っても大丈夫?」

返事はなかったが小さく頷いた。
それを確認してからドアに手をかけ、部屋に入った。

こちらの顔を見ることなく、足を引きずるように歩いてベッドに倒れ込む姿を見て、
思いのほか重症なことに気づく。
色々無理をしすぎたらしい。

「冷蔵庫開けてもいい?」

綺麗に片付いている台所に買ってきたものを置きながらたずねると、こくりと頷いた。
あまり音をたてないように静かに冷蔵庫を開け、中身を確認する。
キャベツ、トマト、ニンジン、ピーマン、卵、 豚小間……。
冷蔵庫の横にある食器棚の上にはジャガイモや玉ねぎなどもある。
ひとり暮らしでこれだけ食材が揃っているのも珍しい。
材料は豊富にあるが、今から切って料理するとなると時間がかかってしまう。
が、体調悪いときは栄養をあるものを食べるのが一番だ。

「野菜炒め作ろうか?」

ベッドの上でぐったりしている彼女に声をかけると、
「大丈夫」と力のない小さな声が聞こえた。

これはさっさと食べさせて眠ってもらうしかないようだ。
ペットボトルのお茶をマグカップに入れレンジで温めている間に、
テーブルをベッドのそばに移動させ、菓子パンとプリンを置いた。

「少しでもいいから食べて、あとはすぐに寝た方がいい。
 明日は休みにしてあるから」

「……でも……」

「大丈夫。仕事のことは気にしないでしっかり休んで」

「……うん」

ベッドからと起き上がるとペタンとテーブルの前に座った。
温めたお茶が入っているマグカップを彼女の前に差し出すと、
うつろな目で俺を見ながら口を開いた。

「……斉藤さんは食べないの?」

「お弁当買ってあるけど帰ってから食べるよ」

「お腹すいてるでしょ?」

「まぁ、お昼から何も食べてないからね」


俺の返事を聞くなりマグカップを受け取らずに台所へ向かったかと思うと、
冷蔵庫を開け食材を取り出し始めた。

「どうした?何か食べたいものでも?」

近寄って声をかけると首を横に振った。

「なにか作ろうかと……」

まさかと思ったが確認してみる。

「俺の分?」

「うん」

今の今まで自分が食べる分すら作れずにいた人が……。
そういうことには頭が回るし身体も動く。

いつだって他人のことばかり考える。
自分がどんな状態か分かっていながら。
悪い癖だ。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。
 毎食ちゃんと食べてるし、元気だろ?」

冷蔵庫に食材をしまい、彼女の手を引いてテーブルの前に座らせた。

「いまお弁当あっためるから、そしたら一緒に食べよう」

優しく笑うと彼女も少しだけ穏やかな顔をした。


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| 「僕の一日」  | 01:18 │Comments0 | Trackbacks0編集

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