春の一日 1


の一日」  斉藤 葵
 
1

最寄駅が自転車で20分かかるところに部屋を借りた理由をたずねると、
新大学生が引っ越す時期とかぶってしまって、良い部屋がなかったということと、
マンションで2階以上で風呂トイレ別でベランダがあって、
2口のコンロが置ける台所で安い物件を探した結果だという。
それにしても駅まで自転車で20分という物件を、
この都会で探す方が難しいのではないだろうか。
もっといい物件はたくさんあると勧めたが、
妹が大学卒業するまでは引っ越さないと決めているらしい。
確かに彼女の妹が通う大学にはマンションから自転車で行ける距離にある。
妹思いの彼女のことだ。
そこを一番に考えて部屋をさがしたのだろう。
彼女――石川美里はそういう人物だ。


午後9時前。閉店直前に退社した。
店長が出張でいない間は俺が代行として必要な業務をしなければならないが、
あとは有利と奥村に任せておいて問題はないだろう。
有利は別の意味で色々問題かもしれないが、
今はそれより優先しなければならないことがある。
「休ませてください」と早朝に店に電話をかけて石川のことだ。
そろそろ倒れるんじゃないかとは思っていたが……。

ポケットから携帯を開き彼女に電話をかけた。

「もしもし、石川?……大丈夫か?」

「……うん……」

弱々しい声が聞こえてくる。
もともと寒くなると体調を崩すことが多いのに、
有利の世話や連続勤務が重なったせいだろう。
精神的にも肉体的にも負担をかけ過ぎた結果だった。

「いま仕事終わってそっちに行こうと思ってるんだけど、ご飯はちゃんと食べてる?」

「食欲ない」

「うん。でも食べないと。お昼も食べてないんでしょ?」

「……」

「冷蔵庫になんかある?なければお弁当買っていくけど」

「でも斉藤さんが大変だし……」

「それじゃあパン買っていくよ。
 あとは冷蔵庫にあるもので何か作れるようなら作るから」

「……」

返事がない。

「部屋に入っても大丈夫?無理そうならやめるけど」

数秒ののちかすれた声で「大丈夫」という声が聞こえた。
携帯がひろえない程度の小さな息をした後に、
22時頃に着くことを伝え通話を切った。
カバンの中から車の鍵を取り出し、急いで駐車場に向かった。


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| 「僕の一日」  | 00:45 │Comments0 | Trackbacks0編集

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