僕の一日 93

痴漢から助けたとはいえ、犯人を捕まえたわけでもなく、
ただその場から連れ出しただけ。

強いて言えばこの人から音が聞こえたら助けただけのこと。
感覚が似ているのかもしれないと思ったから。
それだけだ。

だから見返りなんて求めていないし、ましてや出会いが欲しくて助けたわけじゃない。

『本当に気にしないでください。
 このあと用事があるので、すみませんが……』

話をまとめようとすると、「ちょっと待ってください!」と、止められてしまう。

「いまお忙しいなら、今度空いている時間にでも!」

『いえ、大丈夫ですので……』

「じゃぁ、せめて連絡先だけでも!」

『えー……と……』

こんな風にぐいぐいと来られたのはいつ振りだろうか。
この手の人は苦手なのだが……。

「助けてもらったからとか、そういうんじゃなく、
 あの……だから……」

「だから」とはいえ、連絡先を教える理由にはならないし、
この手の人に番号を教えて、俺にとって良いことは何もない。

『今日まで僕を探してくれてたというだけで、
 お礼をしたいという気持ちは伝わりました。
 それだけで十分ですので、これ以上はすみません』

はっきりと拒否の態度を示した。
――のだが。

「あの……好きです。付き合ってもらえませんか?」

そう言って頭を下げたまま動かなくなった。

なんの繋がりもない人に呼び止められて、
突然告白されたことは何度かあったけれど、正直言って困る。
その一言に尽きる。

『……顔、上げてください』

俺の顔を見上げたその頬は真っ赤で、
この人はこの人なりに勇気を出して言ったことなのだと、冷静に考える。

それでも心が揺れることはない。
誰に告白されても、好意を寄せられても。

昔からずっとそうだった。

『すみません。そういうつもりはまったくありません。
 あの時の僕の態度が何か期待させてしまったのなら謝ります。
 でも僕はただあの状況をなんとかしようと思っただけで、 
 それ以外のことはなにも考えていません』

女性の表情が歪み、わずかに目が潤んだ。
うつむいたその姿に申し訳なさを感じるけれど、
傷付けてしまってるかもしれないけれど、俺にどうしろというのだ。
このまま言われるがまま告白を受け入れればいいと言うのか。

『1ヶ月も待っていただいて申し訳ないのですが、
 それはお受けできません……すみません』

「……そう、ですよね」

ぱっと顔を上げてぎこちなく笑った。

「突然すみませんでした……1ヶ月だけ待ってみようって決めてて……。
 もしも会えたら言おうって決めてたんです」

ドラマチックな出会いにあこがれる気持ちを分からないわけじゃないけど。

「お忙しいのに呼び止めてすみません」

『いえ、こちらこそすみません』

「あ、お名前、ゆりさんでしたよね?
 ゆりさんて名字ですか?」

『はい、そうです』

「ステキな名字ですね。
 あ、すみません、名前を言っていませんでした。
 私、里奈といいます。
 先日は助けていただいて本当にありがとうございました」

深々と頭を下げて礼を言う姿を見て、俺も頭を下げた。

『いえ、こちらこそわざわざありがとうございました』

1ヶ月も探してくれたことにお礼を言ってその場をあとにした。
振り返らず、いつもより早歩きで病院へと向かった。


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| 「僕の一日」  | 00:48 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

告白するってものすごい勇気が必要ですよね。
普段から交流があり、どんな人間なのかをある程度知っていてもむずかしいのに、ゆきずりのひとに告白って、すごいと思います。

男性からでも女性からでも、相手が何者なのかもひとつわかっていないのに?
ヤクザと関わっていたり、実はテロリストだったり。
結婚詐欺師だっり、借金いっぱいあったり。

そこまでじゃなくても、ワケありのひとかもしれませんものね。
それでも告白する、やっぱり有利くん、魅力的なのですね。外見だけではなく、内面からにじみ出るなにか……ひとことで言えないなにか?

寂しさのオーラってものも、人を引き付けるのかもしれませんよね。

先日は二代目貴志駅長になったニタマに会ってきました。
電車の中ではたまとニタマの写真展もやってました。

ニタマはなんだか太ったような?
あの子は泰然悠然、なにごとにも動じない猫のようですね。
SUNたまたまのことを書いたブログにアップしていますので、よろしかったらまた見てやって下さいませ。

会津鉄道のバスの二代目も育てているそうですよ。
いつかは私もバスにも会いにいきたいです。

2015.10.08(Thu) 15:03 | URL | あかね|編集

あかねさま
一目惚れの経験がないので、その気持ちの正直な話わかりません。
かっこいいなあ、と思ってもその先の感情ない、という感じです。
なので
「駅で毎日会うけど名前も知らない人にバレンタインにチョコをあげる」
なんて聞いた日にはどうしてそんな勇気がでるの?と言いたくなります。
そこからはじまる出会いもステキだと思いますが、
私には無縁の話だと思っています。

有利くんはアレですね、哀愁が漂ってるから、
そういうのが好きな人に好かれちゃいますね。
基本目立ちたくないタイプなので自分ではオーラは消してるつもりです。


会津のバスはテレビで何度か見たことがあります。
地方の番組で特集されていて、ついに東北にも猫駅長が!と感激しました。
でも2代目がいるとは!
しかももふもふ!
らぶ、最高だよ!

2015.10.13(Tue) 00:49 | URL | ハル|編集

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