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僕の一日 86

午前0時を過ぎたファミレスの店内は、客の数も減り、
程よい雑音もあって、うたた寝をするにはちょうどいい場所だ。

よれたワイシャツのボタンをはずし、パソコンに必死に何かを打ち込んでいるサラリーマンに、
楽しそうに話をしている恋人たち。
店内を眺めながら、歩さんが話すのを静かに待った。

歩さんに仕事用の携帯でも連絡先を教えれば、この場は素直に帰ってくれるだろう。
あとでメールが来たとしても適当に返事をすればそれで満足するのかもしれない。

でも俺があくまで相手に優しくするのは、その人がお客様だから。
それ以外に優しくする理由はない。
歩さんと連絡を取り合っている余裕があるなら、
確実に店に来てくれる客にメールする方がずっといい。

それはお金に繋がるのだから。

しばらく沈黙が続き、カップに入っていた冷めたミルクティーを飲み干して、
別のドリンクを取りに席を立ちあがると、はじけるように歩さんが顔を上げた。

泣きそうな表情を浮かべて。

『ドリンクを取に行くだけだよ』

「あ……すみません……」

すぐにうつむいてしまったその姿に、気持ちが揺れる。

人に対してこう思う気持ちは悪いものじゃないと分かっているけど、
俺は他人に気を配っている余裕がない。
自分以外の人のことであれこれ考えたりする余裕がないのに、
小さなことをいちいち気にしてしまう癖を、大人になった今も治せずにいる。
だからこそ仕事関係以外の人と滅多に連絡もとらないようにしているのだ。

分かっているはずなのに、こうして時間を作った理由は。

音がしないよう静かに、歩さんの前に温かいミルクティーが入ったカップを置いた。

「あ、ありがとうございます……」

『うん』

座りながら返事をし、自分の分のミルクティーを口に運んだ。

「あの、私……」

艶のある綺麗な黒い髪を耳にかけ、口を開いた。

「美貴にも言ってないんですが、この間まで付き合っていた人に……」

言葉が途切れる。
続けようと口を開くが、声になっていない。
溢れ出てきたのは言葉ではなく涙だった。

『暴力を振るわれていたんでしょ?』

友達の美貴さんにも言えず、きっと親にも言えず、ひとりで抱え込んでいたんだろう。
俺の言葉に無言でうなずく。

『そういうお客さんに会ったことがあるから、
 彼氏がいたって話を聞いてなんとなくそうなんだろうと思ってたよ』

「……」

『男を受け付けないというより、怯えているように見えたから、
 嫌なことがあってダメになったんだろうなって思った』

「わたし……変でしょうか?」

『そう思うなら今ここにいないよ。変だなんて思ったことない』

そう言うと、歩さんの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
あぁ、「つかえ」が取れたんだなと思った。

両手で顔を覆って肩を震わせる姿を見て自然と動いた手が、歩さんの髪に触れようとした。
瞬間、自分のとった行動に驚き、気付かれないよう伸ばした右手をそっと引いた。


何をしようとしたんだ、俺は。


声を殺して泣いている姿を見て、「可哀想に」と思ったのは間違いない。
辛い思いをしたんだろうと。
だけど触れようとしたのは……。

頭をなでるのは簡単だが、
男嫌いと言っている人に対してやっていいことじゃないし、
なにより相手は客だ。
いまこの瞬間はそうじゃなくても、客だった人なのだ。
そんな人に対して、俺はどうしてこんな普通の……。

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| 「僕の一日」  | 14:32 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

俺は人に優しくできない、と言いながら、ほんとは優しいから優しくしてしまって、むしろ悪いことをしたような気分になって。

繊細すぎるひとは生きづらいですよね。

若かったころ、自分は悪くない、自分は正しい、と思ってやっていたことが、だんだんと年を取ってくるにつれて思い出すと、私ってイタイ奴だったんだ、とわかるようになったりね。

若いってことはうらやましくもありますが、生きるのはしんどいだろうなぁとも思います。

大阪梅田にしかないデパート、阪神百貨店。
ここのスナックコーナーのイカ焼きは有名だったのですよ。昔は天王寺(ハルカスのある「あべの」です)にもおいしいイカ焼きの店がありました。どちらももうなくなってしまったのですが、町中にはイカ焼きの店もけっこうあります。

小麦粉を溶いて薄く焼いた中に、イカと卵が入っているのが正統派で、お好み焼きと似たソースがかかっています。

安くて美味なのですが、滋賀県あたりにはないそうで、ほんとに大阪限定らしいんですよね。
大阪限定といえば、蓬莱551のブタまんもありますね。
京都よーじやの脂取り紙もそうですが、そこに行かないと買えないということで、お客を呼ぶためもあるのかもしれませんね。

私の目撃した猫話。
とあるおうちのガラス戸の中に三匹、仲良く並んでいました。
白と黒とキジトラ長毛と、三匹もいていいなぁ、でした。

2015.05.13(Wed) 00:56 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます。

なんというんでしょう、思い出したくないですよね昔の自分。
封印したいですよ……。
少し年が離れてると「あぁ、若いな」と思って相手を見ることがあって、
可愛くもあるし目を逸らしたくもなる、といった感じでしょうか。


さすが大阪ですね、もう羨ましすぎます。
しかも豚まん大好きです、肉まんもあんまんも(こしあん派です)
あぁぁぁ、おいしそう、よだれが……。
女子が好きそうな「マカロン」や「○○シェフが作った○○チョコ」よりも、
たこ焼きや肉まんとかの方が好きなんですよね。
あぁ、たい焼きも大好きです。ちまきも大好きです。
私は大阪の食べ物が合ってるのかもしれません。
仙台に来るとみんな「ずんだ」と言いますが、個人的には普通に枝豆が一番おいしいです。


その店でしか手に入らないっていうのがいいんですよね。
マダムシンコのバウムクーヘンが好きなのですが百貨店のイベント時しか店頭では手に入らず、
それがまた「ここ逃したらまたいつになるか!」と、ついつい買いに行ってしまいます。
大量に作って全国で売ってはダメなんですよね。
ときどき売るから「はう!買わねば!」と思うんですよね。


窓辺に猫3匹並んでたら写真撮っちゃいますよぉぉぉ。
たまらない、もう可愛すぎる。

私の猫話しはペットショップの出来事。
子猫がタオルをちゅうちゅうしながらエアもみもみ。
恍惚の表情でちゅうちゅうもみもみ。
はぁはぁ言いながらその子猫をかぶりつく様に見ていたので、
きっと店員さんは後ろから白い目で見ていたと思います。


野良猫で新人がやってきまして、茶色のハチワレというのでしょうか。
ちょっとおバカなのか気配に対して鈍いのか、
るんるん歩いているのですが、こちらに気づくのが遅く、
自分で近づいてきてるくせに突然「びくぅぅぅ!」となって走って逃げるっていう……。
それもまた可愛いんですけどね。

2015.05.17(Sun) 00:58 | URL | ハル|編集

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