僕の一日 73

『こんばんは』

笑顔であいさつをしながら頭の中で今まで接客してきた客の名前をめぐらせる。
とはいえ一度対応しただけの客の顔や名前まで覚えていはいない。

『体調を崩してしまって、長く休んでたんです』

「へー、そうだったんだー」

女性はおそらく20代後半。
長い爪には派手なマネキュア、大きく開いた胸元には金色のネクレス。
全身シャネルで覆いつくしたその姿は、誰が見ても夜の人の恰好だった。
シャネル好きのホステスらしき客……結構いるような気がする。

「直哉くんって幸薄そうなグンソクって感じだよね」

『え?グンソク?』

こっちの思考とは全く関係のない言葉に少し鈍い反応になってしまった。
しかも幸薄そうってどういう……。

「グンソク知らない?チャン・グンソク」

『あ、チャン・グンソク。韓流アーティストですよね』

「そうそう、マッコリのCMに出演してた人」

『似て…ますか?』

「顔がそっくりとかじゃなくて、肌の白くてキレイなとことか、
 背格好とかが なんか似てるなーって思う。
 でもあの明るい笑顔とか元気な話し方とかは全然似てない!
 ってか、ちょっと影がある!
 イケメンなんだけど男らしくてカッコイイとはちょっと違うんだよね。
 キレイな感じ?女装したら美人になりそうっていうか……ってか美人だよね。
 中性的なとこあるよね。と言っても女っぽいわけじゃないし。
 佐藤健みたいに女装似合いそうなイケメンっていうのかな。
 でも佐藤健に似てるわけじゃないし、っぽいわけでもないんだよね。
 松潤やキムタクみたいなのは絶対違う。
 なんとなく三浦春馬に似てるとこあるけど、あんなキラキラしてないし、
 人懐っこい感じじゃないよね。
 高良健吾っぽい感じもするけど、あーゆー男らしイケメンじゃないし、
 かといって岡田将生みたいな感じでもないよね。
 あ、でも清潔感あって貴族っぽい血が流れてそうな感じは似てるかなー。
 ストイックそうな雰囲気は西島秀俊っぽいかも。
 そうそう、kennっていう人がいるんだけど、その人にちょっと似てるかも。
 んー、でも雰囲気がちがうかな…….。
  山田涼介?……あーゆー可愛い感じじゃないか。
 犬で言うとチワワとか柴じゃなくてシェパードとかコリーっぽい感じかな」

どこで息継ぎしているのか分からないぐらいの早口とその長さにに圧倒されて、
用意していた回答はすべて消えてしまった。
 
途中からは誰だかわからないし、最後は人じゃなくなってる。
まぁ、そんな自分もさっき歩さんを犬みたいと思ったが……。
一度の会話の中にここまでたくさんの人名が出てきたことがあっただろうか。


『えー、うーん……そうなんでしょうか……』

返答に困っていると、隣で会話を聞いていた片桐が火にかけた鍋に視線を落としたまま答えた。

「俺は初めて会ったとき、若いころの安藤政信に似てるって思いましたよ。
 雰囲気や目の感が特に似てるなぁって。
 話し方や声も少し似てると思います。」

『安藤政信?』

「誰それ?」

女性客とふたりで片桐を見やると、あれ?という顔をした。

「知りませんか?デビュー作でその年の映画賞総なめにしたんですよ。
 北野監督のキッズ・リターンっていう映画です。
 有名どころだとバトル・ロワイアルとかサトラレですかね。あとはさくらんかな」

『あの生徒同士で殺し合いする映画?』

「そうです。主人公じゃないんですが、まぁ存在感はハンパないですね。
 あの人が……」

「うわっ!!超イケメンなんですけど!!」

片桐が話している途中にも関わらず、スマホを手に女性客が大きな声を出した。

「何この超イケメン!知らなかったんだけどー!」

スマホをタッチしながら興奮気味に話す女性客を見て、
かすかに笑った片桐が言った。

「安藤政信は男から見てもカッコイイって思いますよ」

「うわー。こんなにイケメンなのになんでテレビ出てないんだろう」

「最近は映画だけですね。
 ドラマの出演も断ってるみたいですよ。
 たまにCM出てるくらいですかね」

「へー。今度DVD借りて観てみよう!」

客の意識は安藤政信という俳優に向かったらしく、俺の話はどこかに消えていった。
助かる。正直こういう客は苦手だ。
自分の担当じゃない限り避けたい相手だ。

ところで指名されているホストは誰なのだろう。
ホストが足りないとはいえ、カウンターで客を一人にしてしまっているのはまずい。
キョロキョロと店内を見渡す俺に気づいた片桐が笑顔で言った。

「大丈夫ですよ。俺が担当です」

『え?』

「そうだよ!さっきはお店に飾ってあるお酒を見に行ってただけ。
 ずっとこのカウンターで飲んでたんだよ。
 潤がお酒作ってるの見るのが好きで、いつもこんな感じで飲んでるの」

『あ、そうだったんですか。よかった』

「あんまり周りを気にしすぎるとまた具合悪くしちゃいますよ。
 それが直哉さんのいいところでもあるんですけどね」

そう言いながら耐熱グラスに温めた牛乳を注いで、
「どうぞ」とソーサーの上にのせた。

『ありがとう』

手にしていたスポンジを綺麗にし、そばに置いてあるタオルで手を拭くと、
新しいグラスと作ってもらったホットミルクを手にその場を離れた。


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| 「僕の一日」  | 03:47 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

今回はいつになく、有名人が実名でいーっぱい登場するのですね。
私は知らないひともいますけど、こうして具体的に書かれていると、有利くんの外見はイメージしやすいです。

チャン・グンソク、三浦春馬。
このふたりをはじめて見た時には、えー、女の子? と思ったぐらいです。
春馬くんはすこしいかつくなりましたけど、グンソクくんのほうはあいかわらず中性的かな。

ハルさんは韓流、お好きですか?
私は韓流のスターだったら、イ・ビョンホンが好みです。

私のもうひとつのブログのほうにアップしようと、猫と出会うと写真を撮ります。
先日、よそのおうちの前に出ていた猫がいまして。

「逃げないで、なんにもしないから」
といつものようにお願いしながらそぉっと近づいていきました。

するとなんとなんと、逃げるどころか寄ってきて、ごろんごろん、すりすりってしてくれたんですよ。
もうー、感激。

首のあたりをさわられるのが嫌いらしく、噛まれたのですが、それさえ嬉しかった。
怒ってる猫も多少だったら可愛いですよね。

2014.10.21(Tue) 01:29 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます。

急激に寒くなりジッとしていると鼻水がずるっと……。

韓流のドラマや映画はあまり見たことがないのですが、
私の頭の中の消しゴムを見た時は泣いてしまいました。

韓流の中だとウォンビンですかね。
優しそうな顔が好きなんです。


最近寒いせいか猫を見かけなくなり寂しい限りです。

野良にスリスリされるなんて、うらやましすぎます。
街中にある猫カフェに行ったら、
どの子も触られるのが嫌みたいで、
抱っこどころか頭を撫でることもほとんど出来ませんでした。
見てるだけ、といった感じです。

ジッと同じところに座っていた子の首を触ったら、
プイッと嫌そうな顔で避けられ、
まさに「ガーン」となったのを覚えています。
猫は首のところを触れるのが好きなものだとばかり思っていたので。


子供の頃、野良猫がスリスリしてきたので少し遊んだあと帰ろうとしたら、
急にガッっと足を引っかかれたことがありました。
爪が食い込んだようで、今でも痕がのこっています。

今だったら「なんだまだ遊びたいの?」なんて、良いように考えるのですが、
なんせ子供だったものでショック&痛みで半泣きになって帰ったことを思い出しました。

2014.10.29(Wed) 01:07 | URL | ハル|編集

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