僕の一日 65


突然父が亡くなり、当たり前のように楽しかった毎日は一瞬で崩壊した。

小学6年生のときだった。

残された母と弟は自分が守らなくちゃいけないと思い、
それからずっと母の支えになろうと子供なりにがんばってきた。
良い大学に入って有名な企業に就職して、母と弟に楽をさせてやろうと思った。
単純だったが、それが自分にできる家族の守り方だと思った。
しかし高校に入り、大学に進学するには大金が必要なことを知る。
ひっ迫した生活だったわけではないが俺が大学に行けるだけの金はなく、
進学は諦めなければならなかった。

朝から晩まで働きづめの母に代わって家事をこなし、歳の離れた弟の面倒をみた。
母が休みの日曜にはコンビニでバイトをし、少しずつお金を貯め、
わずかな貯金を手に高校卒業と同時に家を出てホストの仕事を始める。

それ以後、体調を崩して働いていない時期もあったが、毎月20万の仕送りを欠かさなかった。
まとまった金が出来れば弟の大学費用として別に送っていた。

こんな風にホストとして働けるのは一時のこと。
ある一定の年齢になればホストとして働けなくなる上、
学歴も職歴もない自分がいい仕事に就けるはずもない。
今のうちに出来るだけ稼がなければいけない。
それがいまの自分にできる家族の守り方。

そう信じて働いてきたが、現実離れした世界は子供の俺には辛かった。
ズレた金銭感覚を持つ人たちを相手に、
少しでも金を貢いでもらうためにどんなことだってした。
毎日夜を必死で生き、ついこの間まであった普通の日常から離れていった。

そうしてホストとしてひたすら働いて1年間No.1で居続けた。

胸が重く息をするのも苦しく感じるようになったのが、その頃だった。

きっと疲れているからだろうと休みをもらって一日中寝てみたりしたが、
一向に良くなる気配がなかった。
19歳だった俺は酒を飲んでいないため、
病院に行っても身体の機能に問題はなく「疲れがたまっているんでしょう」と、
点滴をされてちゃんとした食事をするように言われるだけだった。

歩いているだけで苦しくて座り込んでしまいそうになる。

そんなことを客に話したことがあった。



相手は俺より15歳年上の人妻だった。名前は井浦。
知性が表情に表れていて、品のある女性だった。

医者であるその人は同じく医者の男性と結婚。
それを機に専業主婦となった。

けれど仕事で忙しい夫は家に帰ることも少なく、
週に1度着替えを取に戻ってくる程度で、あとは病院に泊まり込む毎日。
つい最近まで自分も同じような現場で働いていたのに、今は広い一軒家に一人きり。
朝起きて、ご飯を食べ掃除をし、午後には自分の分だけの食材を買いに出かける。
週に一度、大量にでる夫の洗濯物を洗うのが一苦労だが、
それさえ終われば特にすることはなかった。

時には夫の仕事の資料を片づけるときもあったし、雑用は進んで手伝った。


「医者だった頃の忙しさから比べれば今は幸せだろう?」


かけられた言葉は欲しかったものとはまるで違った。 

お金に不自由はしていない。
欲しいものは買える。
でもモノが欲しいわけではない。

理解のある妻でいたい。
そんな思いから本当の気持ちは言えず、
気を紛らわすためにホストクラブ通いを始めたという。


初めて店に来た時から俺を指名してくれ、いつも高価なボトルを入れてくれた。

無茶な要求をしてくることもなく、穏やかにおしゃべりをするだけ。
隣に座って会話することが心地よくさえ思えていた。


ある日、出社する前に一緒に食事をしたときだった。
フレンチレストランに行こうとしたところ「ファミレスかスタバがいい」と言われ、
お店からほど近い場所にあるファミレスに行った。

ドリンクしか頼まなかった俺に優しい言葉をかけてくれた。

「最近元気がないけど大丈夫?」

この人はもしかしたら分かってくれるかもしれない。
医者だし、いろんな人を診てきたんだから、
何か知っているかもしれない。


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| 「僕の一日」  | 18:07 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

よりどころになれそうな女性とめぐり会い、そして? 裏切られたの? このあとはどうなるのか、ひとつ読んでは想像しています。

ハルさんの描かれる人物像はいつも繊細で傷つきやすく、深いですよね。

運動……私も苦手です。
走るの、大嫌い。団体競技は大嫌い。
中学生のときには器械体操をやっていましたので、そういうのは好きです。身体はやわらかいほうみたい。でも、走るのと球技が嫌いですから、学校でやる運動は駄目でした。運動会なんか大嫌いだぁ!!

大人になってスポーツも自分のペースでやれるようになったので、たまにプールに行ったり、勝手にストレッチやダンベル体操やバランスボールで身体を動かしたり。

あとはウォーキングやってます。
とにかく、ひとりで好き勝手にやれることだったら続くみたいですね。

2014.06.19(Thu) 16:41 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます。

運動会に関して「なんでこんなものがあるんだろう。しかも年2回も……」と本気で考えていました。
しかし運動神経抜群の人からすると「こんなに楽しいものはない」と感じるそうです。
公開処刑のような行事はせめて年に1回にして欲しいと、
運動音痴はみんな思っているはず……マラソン大会も地獄でした……ビリ争い……。
マット運動も苦手で苦労しました。
平衡感覚がものすごく悪いので、前転をして立ち上がると目まいがしてフラフラ……。
平均台に乗ればすぐに落ちる……もう救いようがない程、酷かったです。

有利くんは主人公なのに大変な人生を送っています。
これからそれが少しずつ明かされていきます。
明るくて笑えて読んでて楽しい!というお話ではないのですが、
心の機微が伝わるよう頑張りますので、お付き合いください。

2014.06.22(Sun) 00:18 | URL | ハル|編集

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