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僕の一日 63

『コレなんですよ』

いつも立ち寄るコンビニに入り、迷うことなく商品を見つける。
2本取り出したついでに、隣に並んでいた紅茶花伝も同じく2本手に取る。

『紅茶花伝おいしいですよね』

半歩後ろに立つ歩さんの表情は、まだ少し硬い。
それでもさっきよりはだいぶ落ち着いているように見えた。

「はい、おいしいです」

『ほかに何か食べたいものとか欲しいものありますか?』

「いえ、大丈夫です」

『じゃぁ、会計してきますね』


こくりと頷くと雑誌コーナーの前で立ち止まった。
レジは男性スタッフなのだ。
ここまでくると、いままでどうやってきたのかと気になってしまう。

共学であるなら席だって隣だとか、授業でグループを作って作業するとか、
色々あると思うけどそれは我慢してなんとかやり過ごしてきたのだろうか。

『お待たせしました。戻りましょう』

「はい」

コンビニを出てから新商品のペットボトルのふたをあけて「どうぞ」と渡すと、
目を丸くして恥ずかしそうに受け取った。
こんな仕事をしているせいか、こういう反応は新鮮だ。
単純にカワイイ、と思ってしまう。
いや、顔はもともと可愛いと思う。
俺が笑いかけるとホッとした表情を見せる姿は、なんとういうか、
失礼かもしれないが犬と重なってしまう。
チワワやトイプードルのような小さくてかわいい犬、みたいな。
さっきの会計のときも、雑誌に目を向けることなくじっと俺を待つ姿は、
「待て」と言われた犬のようで。

きっと歩さんは男性に声をかけられることが多いだろう。
なんというか、守ってあげたくなるタイプだ。

「おいしい」

一口飲んで嬉しそうに笑いながら言った。

『でしょ?紅茶系って期間限定だったりすぐに廃番になったりするから、
 こまめにチェックしないとダメなんですよね。
 コーヒーとかジュースって種類がいっぱいあるからいいけど、
 紅茶は少ないんだからメーカーもその辺考えてくれたらいいのにって思うんですよね』

「紅茶、好きなんですか?」

突然の質問にちょっと驚く。
彼女の方から話題を振ってくるとは。
思いのほか落ち着いた表情をしている。

『お茶好きなんです。紅茶も緑茶も両方。
 ジュースやコーヒーよりもお茶のほうがずっと好きです。
 紅茶好きな人にとって、ランチとかの“コーヒー無料”を見ると、
 “選択肢がコーヒーだけっておかしい”って思うんですよね。
 コーヒー飲めない人だっているわけだし』

「私コーヒー飲めないんです」

『それってキツイときありませんか?
 なにかの集まりのときに有無を言わさずコーヒーが出てきたり、
 待ち合わせ場所がスタバだったり、
 コーヒー飲めないっていうと面倒くさがられたり……』

「します!なんでみんなコーヒーなんだろうって思っちゃいます!」

声のトーンが少しずつ明るくなっていく。

『そうですよねー。
 僕もコーヒー飲めないわけじゃないんですけどあんまり好きじゃないんです。
 でもコーヒー牛乳は好きなんですよ』

「私も!あとミスドの氷コーヒーが好きです」

『あー!分かります、あれおいしいですよね。
 たまに取り扱ってない店があったりして、がっかりする時がある』

「まえは牛乳と氷コーヒーが別々に出てきてたのに、 最近は一緒になって出てきませんか?
 自分で好きな量を入れるのがいいのに、ちょっと残念です」

『そうなんですよね。
 いつの間にかそうなってて、アレっ?って。
 あのガッカリ感は大きかったなぁ』

「氷コーヒーの溶けるタイミングとかいろいろあるんですよね」

『うん、あるある』

はっきりとした口調で普通に会話ができている。
なんだ、普通の話せるじゃないか。
むしろ話しやすいくらいだ。

『……よかった』

「え?」

『普通に話せてる』

「あ、……ほんとだ」

自分でも驚いているようで、目を丸くしている。

『なんか僕だと大丈夫みたいですね』

「……話し方が穏やかだから?かな」

『そうですか?確かにガツガツ話すタイプじゃないですけど』

「あの、あんまり敬語使わないでもらっていいですか?」

『え?』

「普通に話された方が喋りやすいです」

『わかった。じゃぁタメ口で』

俺の隣にぴたりとついて歩く姿は、男嫌いには感じられなかった。
会話も問題なく出来ているし、あとは他の男の人でも平気になれば、
きっと大丈夫だと思った。
けれど。
店が見えてくると途端に歩さんの表情から笑顔が消えていき、そのまま立ち止まった。

大丈夫なのは俺だけか。
やっぱり簡単なことじゃない。
だからといって俺に出来ることもないし、そろそろ京子さんがが来てもおかしくない時間だ。

下を向いてぎゅっとコートをつかむ歩さんと視線を合わせるように身体をかがめた。


『あのね、本当はこういうこと言っちゃダメなんだけど、
 もう少しで僕を指名してくれるお客さんが来るんだ。
 歩さんみたいに初回のお客さんも指名できるんだけど、
 複数の指名を受けると、それぞれのテーブルを回るようになるんだ。
 たとえ歩さんのところにいる時間だったとしても、
 別のお客さんがボトル入れてくれたりすれば席を離れざるを得なくなったりもする。
 そうすると歩さんの隣に入れ代わり色んなホストが来るんだ。
 僕がこんな風に初回のお客にずっとついて、他のホストがあまり近づかないことは稀なんだよ』

ホストクラブで男嫌いを治すのはきっと難しい。
なんでダメなのかが分からない以上、ホストが接客をしたところで良くなるわけはない。

『歩さんて、さっき腕を掴んできた“いかにもホストです”みたいな髪型で、
 勢いのある話し方する男って苦手でしょ?』

「……はい」

視線を落とした目がわずかに潤んでいる。
もうホストクラブには来ない方がいいと言われることを、分かっているんだろう。

『お店の中見て分かったと思うけど、
 ワーワー騒いだりマイク持って大きな声で煽ったり手拍子したり、
 とにかくお金を使わせるために、積極的に勢いのある口調で話す人が多いんだ。
 店内がうるさいからっていうのもあるけど声が大きい人が多い。
 人によっては見下すような話し方をするホストもいる。
 ホストクラブって言ってしまえば女性相手にお金を貢がせる仕事だから、
 初対面でも普通に肩抱いたり、わざと密着して座ったりいろんなことするよ。
 うちの店の場合、初回のお客さんのところには、
 その日出社しているホストが全員あいさつするのがうちの店の決まりなんだ。
 次に来たときには気に入った人を指名する。
 一度指名されれば、基本的にずっと同じ人がつくことになるから、
 ホストたちも自分が指名されるように必死でいろんな手をつかってくるよ』

こんなこと俺が客に言うことではないが、学生には学生として勉強に専念してほしい。
大学生が学校終わりに普通のバイトをした程度の金額で、ホストクラブに通うことはできない。
ハマってしまってお金を稼ぐためにホステスをはじめ、
結局大学を辞めたという話をたくさん聞いてきた。

 『でもさっき二人のホストが来て嫌がったでしょ?
  それを見て髪の長いホストが来て二人を連れってってくれたよね?
  その人が歩さんのテーブルには僕以外の誰も近づけさせないように言ってくれたんだ。
  初回のお客様で指名もしてないのにああいうことをするのは、まずないよ。
  ホストクラブは男と遊ぶ場所だからね。
  僕は歩さんが来た理由も男が苦手っていうの分かったけど、
  だからって特別扱いは出来ないんだ。僕の言ってることわかるかな?』

「はい」

押し出すように吐き出した言葉は震えていて、ピリピリと痛みが伝わってくる。
歩さんに同調するかのように、ピンと張った弦をはじいたような高音が、
耳の奥で鳴った。

『もしも耐えられないようなら、まだ時間前だけど帰った方がいいよ。
 今回は会計も5000円だけだし、誰とも連絡先を交換しなければいい。
 男嫌いを治してあげたいっていう美貴さんの気持ちもわかるけど、
 やっぱりホストクラブはいまの歩さんにとってキツイところだと思う。お金もかかるし。
 僕とは話せたわけだから、まったくダメってわけじゃないんだよね?
 だとしたらやっぱり大学の男友達にお願いして付き合ってもらった方がいいよ』

「……」

『歩さんはどう思ってるの?
 ゆっくりでいいから思ってること話せるかな?』

「……私は……」

『うん』

「私は、やっぱり治したいし、平気になりたい」

『うん』

必死に声を出しているのが、うつむいた姿からも伝わってくる。

「直哉さんなら、大丈夫な気がする」

『……うん。そうかもしれないけど』


俺が言ったことはきっと理解している。
男嫌いを治したいし、俺なら話せるからお店に入りたい。
でも他の男はダメだから一緒にいて欲しい。
たぶん、そう。


『歩さんだけにずっとついているわけにいかないんだ
 指名されればその人のテーブルにも行かなきゃいけない。
 分かるよね?』

「……」

『どうする?帰る?』

「……また来たら会ってくれますか?」

『お店に来てくれれば会えるよ。
 でも次来たときは、想像以上のお金がかかる。
 それに僕が新規のお客さんにのところにずっといることは少ない。今日は特別。
 だから指名されないと一緒にはいられない。そういうの分かる?』

「……」

『大学生なんだし、やめた方がいい。
 遊びたい気持ちがあってホストクラブに来たわけじゃないんだし、
 通うようになれば色んな意味で勉強どころじゃなくなる。
 大学で誰か大丈夫そうな人みつけた方がずっといい』

「……分かりました」

『帰る準備する?』

「いえ、時間まで居ようと思います」

『大丈夫?ずっと隣にいられないよ?』

「頑張ってみます」

こちらちの目を見て、しっかりとした口調で。

『分かった。じゃぁ戻ったらとりあえず僕を指名してもらえるかな?
 他のお客に指名されるまで一緒にいられるから』

「はい」


本人が納得して店にいるならそれでいい。
あとは耐えられなくなれば帰っていくだろう。



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| 「僕の一日」  | 00:49 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

私もコーヒーが苦手です。
ミルクのほうが多いくらいのカフェオレでないと飲めません。
紅茶はおいしいのだったら好きだけど、薄いのが多いからなぁ。
さすがにロンドンで飲んだミルクティはおいしかった。
などと思い出しつつ、読ませていただきました。

私の友人にも男嫌いの女性がいたって、前にも書きましたっけ?
彼女も男嫌いを克服したいとカウンセリングに通ったりしてましたが、あのころは過去に原因を探して、本人も忘れているようなことを掘り起こそうとしたりして、それってどうなの? と疑問に感じたものです。

私も実は城達也さんみたいな低い美声は苦手です。
私のいちばん好きな声は甲斐よしひろ。
歌うのと話すのはちょっとちがうと思いますけど、低い声でも高い声でも、彼は好き、彼は苦手っていうの、ありますよね。

2014.05.14(Wed) 01:17 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます!

気づいたらfc2の仕様が変わっている?なんか変な感じがします・

私はコーヒーを飲むとお腹をこわし、胃もやられてしまいます。
コーヒーの味もダメです。
1:3ぐらいの割合で牛乳が多ければ飲めますが、基本的には飲まないようにしています。

ロンドンで紅茶だなんて、ステキ過ぎます。
想像するだけでニヤけてしまいますw

やっぱり日本のものとは少し違うのでしょうか?
葉っぱの種類や入れ方によって違うと思いますが、
日本よりも濃いめなのですか?

ブログに載っている写真は想像通りの素敵な景色やオシャレなものばかりで、
見ているだけでわくわくしてきますが、
外国と聞くだけで「英語話せない!」となってしまうのですが、
もしかしてあかねさんは英語が平気だったりしますか?
5科目の中で英語が一番苦手だった私は、外国の人に話しかけられると固まってしまいます。
なんとなく言いたいことはわかるのですが、それに対する答えを英語で伝えることが出来ず、
いつもジェスチャーと絵でなんとかして、あとは相手が諦めてくれるのを待ちます。
こんなんでは外国旅行に行けない……と思うのですが、実際はどうなのでしょう?
ツアーなら平気でしょうか?
一度でいいから海外旅行に行ってみたいです。

男嫌いの友達のことは、前に教えていただきました。
漫画のキャラなら平気なんですよね。
原因は人それぞれなんだと思いますが、
その辺歩いていれば男とすれ違うなんて当たり前だし、
混雑しているところに行けばぶつかったりもするから、
出かけるだけでも大変なんだろうと思うのですが、そういうのは平気なのでしょうか。

「城達也を苦手だなんて!あんなに良い声なのに!」と言われていたので、
あかねさんも苦手と聞いてホッとしました。
どんなにいい声でも苦手なものは苦手なのです。
甲斐よしひろはあまり変わらないですよね。
CDを出すと必ず予約する人がいたのを覚えています。

2014.05.16(Fri) 00:58 | URL | ハル|編集

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