僕の一日 59



「客の前ではその名前で呼ばないでくださいよ」

『今回は休みすぎた。“貴紘”がいてくれて色々やってくれたから本当に助かった』


この店に来て3ヶ月の貴紘。

“貴紘”は源氏名で本名は斯波隆之。現役の大学生。
彼の仕事はホストではなくウェイターである。
働き始めてまだ日も浅いこともあり、調理補助や片づけ、
ドリンクの準備など雑用が主な仕事となる。

「助かってるのは俺のほうですよ」

『今度の日曜は時間あるかな?
 大学の方の用事がないならお昼でもおごるよ』

「本当ですか?!ちゃんと空けておきます!」

『じゃぁ、あとで連絡するから』

嬉しそうに笑った彼に小さく手を振り、指定されたテーブルに向かった。
学生のような格好をした若い二人組の女性が、落ち着かない様子で店内を見回している。
誰かにキャッチされたのか、自分たちから入ってきたようにはあまり見えない。
ゆっくりとした足取りで二人に近づいた。

『こんばんは』

優しい声であいさつをすると、手前に座っていた女性が身体をビクつかせ、
隣に座っている女性の服を掴んだ。
特に大きな声じゃないはずだけど……。

『ビックリさせてすみません。となり、いいですか?』

腰をかがめてにっこり笑うと、「すみません」と小さな声が聞こえた。

「すみません、この子ちょっと男の人苦手で……」

腕を掴まれた女性が申し訳なさそうに言う。

『お友達ですか?』

「そうです」

しっかりした受け答えをする女性は、
「ほら、大丈夫だから」とつかんだ手を離さない友達に優しく声をかける。
これは、どういうことだろう。
男が苦手なのにホストクラブに来るなんて、何を考えているのだろう。

『……僕、反対側に座りましょうか?』

「いえ、この子の隣にいてください」

本当に大丈夫だろうか。。
ゆっくりとした動作で言われた通り怯える女性の隣に座った。

『どうしてホストクラブへ?』

「この子がどうしても男嫌いを治したいっていうので、
 男友達と一緒にご飯食べに行ったり、遊びに行ったりしたんですけど、
 どうにも駄目で……だったら女性の扱いのプロのところへいったらどうだ!と。
 いろんなタイプの人がいるだろうし!
 ってことで、連れてきてみたんですけど」

『それは…、荒療治ですね』

「男友達が駄目ならほかに手がないかなぁーって」

『うーん……』

「やっぱり無茶だったかなぁ。ねぇ、歩」


歩と呼ばれた女性は少し顔をあげると、またうつむいてしまった。
肩にまで伸びた黒いストレートの髪で表情が読めない。

この空間は男の方が圧倒的に多い。
辛くはないのだろうか。

『歩さん?』

顔をのぞき込むと目に涙を浮かべているのが分かった。

『なにか飲みますか?ソフトドリンクもありますよ?
 今日初めてで飲み放題コースですよね?』

「そうです。なんでも大丈夫なんですか?」

『飲み放題だと焼酎が2本までで、あとはビールとソフトドリンクが飲み放題です』

「へぇー、じゃぁ私ビールがいいです。
 歩はなににする?」

「え……と、私は……」

『……』

「ほら、なにがいいの?」

続く言葉を待ってみたがなかなか返ってこない。
怯えている上に、極度の緊張状態なのだろうか。
言葉がうまく出てこないらしい。

『あったかいのもありますよ?紅茶とか』

「あ、……」

顔を上げ、俺の方を見た。
何かを言おうとしている。

『うん、ゆっくりでいいですよ』

優しく呟くと、少しずつその目を細めた。
友達の腕を掴んでいた手も離し、俺の方を見てぎこちない笑顔を見せた。

迷子になった子供が親を見つけた時にみせるような安心感を表情から読み取ることが出来た。

「紅茶を……」

その言葉に隣に座っている友達も目を丸めた。

『かしこまりました』

ほっこりとした気持ちが自然と笑顔となって表れた。
隣に座っていた友達は「よく言った!」と頭をなでて褒めた。


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| 「僕の一日」  | 00:37 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

私の友達にも男嫌いだと公言している女性がいました。そう言ってるわりには二次元的な男性には恋したりしてましたけど、彼女は同性にでも触れられるのは大嫌いだったみたいです。

彼女は今でも独身ですけど、まあ、男嫌いだって別に悪くないような気もするんですけどね。
だけど、男嫌いの女性と人間嫌いの男性が恋に落ちたりしたら、それもユニークな恋愛小説になるなぁと思いました。

2014.03.19(Wed) 00:44 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます。

ここに出てくる歩は、
男嫌いの人がホストを好きになったらおもしろそう、という発想よりできた人物です。
本当に嫌いな人がホストクラブに行くはずもないんですが、ここはお話ということで・・・。

男嫌いというわけではないのですが、友達がずっと同棲していた人とヒドイ別れ方をしたらしく、
「二度と男なんて信用しない!」と言っていたのに、
一年後には子供が生まれ結婚していた話を聞いて、本当に驚いた記憶があります。
人間どうなるかわからん……と心底思いました。

二次元の人を好きになると自分の都合のいいように想像して、暴走してしまいそうです(笑
私は「付き合いたい」というより「友達になりたい」という意味合いで、
ハチクロの森田さんが好きです。
森田さんの傍は大変そうですが、きっと普通では経験できないことを教えてもらえそうです。

2014.03.22(Sat) 01:15 | URL | ハル|編集

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