僕の一日 58

時間は21時30分を回ったところだ。
アパートからだいぶ離れた場所にある歓楽街。
いつのもように狭い階段を上って2階のドアを開ける。

「久しぶり」

出迎えてくれたのは今日もずブランド品で身を固めていた社長。

『長い間すみませんでした。もう大丈夫です』

「それはよかった。 どうして連絡がとれないのかと客からの苦情もかなりきていてね。
 体調が悪いとだけ伝えて頭を下げたよ」

『本当に、すみませんでした』

「さぁ、挽回を期待しているよ」

『はい』

「それと京子さんに連絡を入れてほしい。あの客だけは逃すな」

差し出されたメモを見ると、そこには見慣れた番号。
客の携帯番号をわざわざ覚えたりしないけど、
この番号だけはすっかり暗記してしまった。

「携帯をすぐに買い直さず、あげくアドレス帳データを全部失くして、
 前もって連絡もしないで突然の番号の変更。
 そしてこれだけ連続で休んだんだ。
 いくらお前でもペナルティのひとつでもなきゃ、ほかのスタッフに示しがつかない」

『分かっています』

機種変更をすればこちらにデータがなくても、客から連絡がくればなんとかなるもの。
なのに新規で購入し、アドレスを変えたのが問題なのだろう。
きちんとしている人はデータのバックアップぐらいやっているだろうし。

一定の売り上げがあれば、ほかの仕事をしていいし毎日出勤しなくても構わない。
その代りホストを辞めるまで他の店に移ったりしない。

それを守ってくれれば店側も俺が働きやすいようにするし、
細かいことに口出しもしない。

社長との約束。

他のスタッフは決められた時間を働かなければいけないが、
俺はある程度なら自由にしていいことになっている。
とはいえ連続で欠勤の上、もともと出勤日数も時間も少ない。
ラクに売り上げを保つためにも、太客の彼女を逃すわけにもいかないのだ。


誰もいない非常階段で京子さんへ電話をかけた。


『もしもし……直哉です。ご無沙汰してしまいました』

「どうしてすぐに連絡くれなかったの?!携帯つながらないってどういうこと?!」

『すみません、いろいろありまして。
今日は出社してるんです、来れませんか?』

「ホントに?!行く行く!!
 でも今から行くと11時過ぎちゃうよ」

『なにかおごりますよ。
 お店が終わったら食べに行きませんか?』

「ホントにー?!絶っ対行くから待っててね!!」

『はい。気を付けてきてくださいね』

特別扱いしているように感じさせると、怒りの言葉もなくなる。
扱いやすいといえば扱いやすいが……。
ため息をつきながら通話を切り、ポケットへと入れる。
もしかしたら今日は部屋に帰れないかもしれない。
明日は午後からバイトだから早々に帰って休みたいところだけど、
ここで適当にあしらったら、もう来てくれなくなるかもしれない。

『これは仕事だからね……』

ぽつりと言って、非常階段をあとにした。


フロアに出たが今のところは自分の客がいない。
いつもだったら出社すればほぼ指名されているが、ここのところまともに出勤していなかったし、
携帯を壊された後、客の誰とも連絡をとっていなかった。
客が離れるのは当然で、指名変更されても文句は言えない。

仕方ない、今日は久しぶりにヘルプに回って、あとは新規で来た客を相手にするか。

大量のグラスをきれいに磨くウェイターに、
京子さんが来るのでそのとき俺が接客中だった場合の対応に注意して欲しい旨を伝えた。


「ちょうど今、初めてっていう二人組がきてるので、お願いできますか?
 さっきまで真さんが対応してたんですけど指名入ったみたいで……今日人手が足りないんです」

『分かった』

「直哉さんに最初に対応してもらえるなんて、幸せな客ですね。
 体調がすぐれないときはすぐに言ってください」

グラスを拭く手を止めることなく優しい言葉をかけてくれた。

『いつもありがとう、斯波くん』

にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 00:40 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

こっちの世界になってくると、有利くんという人物までが変わってしまうように思えますね。彼、なにが本当なのだろう。
どこにいてもいつも、なにかしら演技しているような? 疲れる人生だろうなぁ。今後、救いはあるのかなぁ。

あ、「はちみつとクローバ」三巻ばかり読みました。
けっこうエキセントリックな人物がたくさん出てきますね。若いっていいなぁ。若いときにはいろいろやったらいいよ、なんて気持ちになりました。

「失恋ショコラティエ」もレンタルしてすこし読んだのですが、ちょっとだけ似たところがありますよね。
人間、普通に生きてりゃ常識に縛られるのだから、まんがでくらいは常識離れした世界で遊びたい、なんて感じで流行るのもあるんでしょうか。

「はちみつとクローバ」のDVDももうじき見るつもりです。楽しみです。

2014.03.04(Tue) 13:22 | URL | あかね|編集

あかねさま
いつもありがとうございます。

有利くんはちょっとかわいそうな人生を送っています…そんな風に決めたのは私ですが、
書いていて不憫に思う時があります。。
キャラを追い詰めるのが好き、なんてことはないですが、
ハチミツとクローバーの森田さんのような人をかけない私は、
どうしてもマイナス思考のキャラが多くなってしまいます。

森田さんみたいな人が実際いたら絶対友達になりたいデス。
でも恋人としては付き合えないです、あんな破天荒な人・・・。

ハチクロは過去に友達のいなかった作者の「こうだったらよかった」という妄想から生まれたそうです。
「こうだったら」という部分がで共感する若者が多かったのか、ハチクロブームのとき、
モデルとなった武蔵野美術大学への志願者数が急増したそうです。

失恋ショコラティエおもしろそうです。
yahooの電子書籍で試し読みしただけですが、
主人公がオモシロイ・・・君の感覚は間違ってない!

映画では一味違った感じで、なによりキャストがすごいです。
本当にハチクロのメンバーが学校に行っていると思えるぐらいピッタリです。

2014.03.07(Fri) 01:50 | URL | ハル|編集

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://harl.blog40.fc2.com/tb.php/648-26e97eee

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア