秋の一日 2

2

駅のホームで電車を待っているとき、いつもの男がいないことを確認する。
見た感じただのサラリーマン風だから、この人ごみの中にいるとわかりにくい。
なるべく女の人が多いところに乗り込もう。

OLさんらしき人の後ろからなんとか乗り込んだ車内でカバンを抱いて、
ただ早く駅に着くのを待つ。
アイツがこないように祈りながら。

けれどそんな祈りなんて、誰に届くわけもなく。
いつもの手が背後にあることに気づいた。

「!!」

声を出さないと。
うつむいちゃだめ。
助けを呼ばないと。

誰か、助けて。


耳にかかる荒いな息遣いが気持ち悪い。
その手が自分を触っているかと思うと吐き気がする。
なのに、声がでない。


まだ電車に乗って数分なのに、
昨日とは違う車両なのに、なんで居るの?
どうして私が来るところがわかるの?

なんで?

触らないで。

誰か。

誰か。



電車が減速するとともに、男の手が一瞬、離れた。


もしかして、誰かが気づいてくれた?
次の駅で降りて、一度ホームを出よう。
時間を置いてから、また乗りなおしても講義までは間に合う。

もうすぐホームに着くというところで、また手が伸びてくる。

今度は両手。

イヤ。

助けて。

ヤダ。


誰か!


カバンを持つてにに力が入ると同時に電車が止まり、いっきに人が吐き出された。


私も、降りなきゃ。
そうすれば、この手から逃げられる。

歩き出そうとしたとき、男の手が胸を押さえる。


一瞬で凍りついた身体。
力が入らない。
歩けない。
どうしよう。

みんな降りていく。

誰か気づいてよ。

助けてよ。

お願い!!


心の中で助けを呼ぶと予期せぬ力でドアの方へ引っ張られた。。


「ぇ……」


つかまれた腕の先には、長身の影。

うまく身体が動かず、そのまま引きずられるように電車を降り、ホームの隅を歩いて行く。


誰、この人。

歩くの、速い。

待ってよ。


骨ばった細く長い指が私の腕をつかんだまま、離そうとしない。
細い、腕。

その手に連れられるままホーム端の方へ行くと人の数も少なくなり、歩くペースもゆっくりになる。

ふいに振り返ったその人は私の顔を見て、少しだけ目を細めた。


きれいな顔。


その整った顔を見たら、なぜだか安心した。


この人が、助けてくれた。
もう大丈夫。




「相手は電車から降りてないので、もう大丈夫です」


優しい声…きれいな顔をしている人は声もきれいなんだ。
自分の置かれている状況を忘れて見入ってしまう。
その優しい声の主はつかんでいた腕をゆっくり離し、すこし困った顔をして笑った。


「大丈夫です。安心してください」


背が高いのに威圧感がまるでない。
少し猫背だから?


「あの男の人……いつもあの電車で?」


あの男?

あ…、私…。

急に現実に引き戻されて、また怖くなってうつむいてしまった。

やだ、怖い。
アイツ。
なんで。
もうイヤだ。


「今度は違う車両か、時間帯を変えた方が良いと思いますよ」

「…何も言ってないのに…何で…」

「…何となく」


この人は私を助けてくれた人。

大丈夫。


軽く深呼吸をし、心を落ち着かせた。
落ち着いたらその分だけ恐怖心が戻って、
この2週間され続けたことがすごく怖くて、恥ずかしくて、
誰にも助けてって言えなくて、腹が立って、悔しくて、苦しくて、
こんな風になってしまったことをどうしたら消化できるのか分らなくなった。


「わ……私、恐くて、何も喋れなくて、動けなくて、それで…」


もう大丈夫だから。
この人が、そう言ってる。


涙がやっと零れてきて、のどで詰まっていた異物が取れた気がした。


「うん。次は別の電車に乗りましょうか」


笑った顔が、安心をくれた。


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| 「僕の一日」  | 16:00 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

この男性って斎藤さんなのかな?
なんとなくそう思ってしまいましたが、別人でしょうか?

私も若いころはね……高校へは徒歩通学だったので満員電車に乗る機会がなくて、はじめて満員電車で痴漢に遭ったときのショックといったら。

いい歳になってから遭ったときには、なんで私? もっと若い子がたくさんいるんだから、そっちに手を伸ばせば? などと、不埒なことを考えてしまいました。
すみません。

あ、chikanなんて書くと、またタブーにひっかかりますかね?

さて、今年もいろいろお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
よいお年を~<(_ _)>

2013.12.31(Tue) 01:29 | URL | あかね|編集

あかねさま
年が明けて2014年になりました。
そして大晦日からの2日間で1.2キロ増えた体重・・・・・・・・・・・。
ど・う・し・よ・う。
早々にダイエットをしなければ後で大変になってしまいます。

斉藤さんはきっとダイエットとは無関係です。
したことないし、悩んだこともないと思います。
世のダイエットしている人々を見て
「少しぐらい太っててもいいじゃない」とか笑顔で言いそうです。
普通なら反感を買うところですが、斉藤さんの素晴らしい笑顔でみんなイチコロです。

この男性は斉藤さん、ではないです。
でも「痴漢にあったらカッコイイ人が助けてくれて恋が芽生えた」みたいな話だったら、
斉藤さんがハマリ役だと思います。

高校の時、電車通学だったのですが、満員電車というほどの混み具合ではなく、
座れない程度であまり大変な思いをしませんでした。
なので痴漢にあったことはないのですが、駅近くの公衆電話で家に電話をしようとしているときに、
かなり気持ち悪めの人に声をかけられ、あわてて駅の中に逃げたことがありました。
「ねぇねぇ~今何時~?時計みせて~」と…キモ…年明け早々スミマセン。。

去年は大変お世話になりました。
どうぞ今年もよろしくお願いします!
乾くんもよろしくお願いします!!

2014.01.02(Thu) 00:43 | URL | ハル|編集

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