僕の一日 48

休んでいたぶん、知らない商品が店頭に陳列されていた。
それらを頭に叩き込んで、笑顔で仕事をこなした。
落ち着かないまま時間は過ぎ、仕事を切り上げる時間が来た。
レジの隣においてあるノートパソコンで、商品データを必死に打ち込んでいると、

「ホラ、もう時間だよ。あとはやっておくから今日はすぐに帰って休みなさい」

そういいながら相沢さんがレジの担当番号を俺から自分の番号へ切り替えていた。

『でもあとちょっとでコレ終わりそうなんですよ』

本当にあと5分あれば終わりそうな感じだ。
これさえ終わらせればキリもいいし、自分自身もスッキリする気がする。
そんなことを思いながらまたパソコンを打ち始めると、マウスをダブルクリック音が聞こえた。

『え?』

驚いて隣を見ると、相沢さんが少し怒った顔でマウスに手を置いたままこっちを見ていた。
パソコンの画面は商品データを打ち込むページからログアウトされ、
「パスワードを入れてください」と表示された商品管理の最初の画面に戻っていた。

「ほぉらぁ・・・さっさと帰る!そして寝なさい!自分が体調不良で休んでたこと忘れてない?!」

『す、すみません・・・・』

眉間にシワを寄せ、「これ以上ここにいるのは許さん」と言わんばかりの表情でにらまれた。
もはや1分も残業することを許されない。

「ミサもいいよ、途中まで一緒に帰ってあげて」

カウンター前の商品整理をしていた彼女が「わかりましたー」と笑顔で返事をした。


いつもと変わらない彼女の笑顔。
変わらないと思うけれど。


「何を見つめてんの?」

からかう様な声が隣からして慌てて振り返る。
その顔で逆にバレてしまう、なんて気づいた時には、すでに遅く。


「なんていうか、分りやすいよね。色々と」

『え゛・・・・・何がですか?』

急に変な汗が出てくる。
いいやいや、落ち着け自分。

「まぁ、大変だろうけど頑張りなさい」

『だから何のことですか!』

反射的に声が大きくなってしまう。
どうしたんだろう?と首をかしげながら、彼女がこちらを見ていた。

「ホラホラ、帰りなさいふたりとも」

バシッと背中を叩かれ、「仲良く帰りなさい」とバックルームの方へ促された。
バツの悪い顔を見られたくなくて、俯きながらバックルームのドアに手をかけると同時に、
ドアが勢い良く自分の方へ開き、思いきり顔面をぶつけてしまった。

『い・・・・って・・・・』

驚きと痛さのあまり、顔を両手で覆ったまましゃがみ込んでしまう。

「わぁーっ!悪い!!大丈夫か?!」

頭の上から聞こえた声に驚いて顔を上げると、両手で大きなダンボールを抱えた斉藤さんがいた。

「あれ?いつ来たの?今日は休みだった気がしたけど?」

「ごめんごめん!」とひたすら謝る斉藤さんに、相沢さんが少し離れたカウンターから声をかけた。

「あー、そうなんだけど、ひとつ仕事やらなきゃいけなくてー、って相沢サン、
 このダンボールをバックヤードに持っていってもらえる?」

「はい、いいですよ」

俺の頭の上でダンボールを受け取った相沢さんが軽そうにダンボールを抱えてお店を出て行く。
そのやりとりを呆然と見ていた彼女がカウンター内へ来た。

「ちょっと、大丈夫?すごい音がしたけど・・・」

その声に心臓が大きく鳴りながらも、「大丈夫」といいながらゆっくりと立ち上がった。
額と鼻を強打したらしく、その痛さに押さえた手を離すことができない。

「ごめん、ホントに・・・ちょっと見せて」

そう言いながら斉藤さんが顔を覗き込んできた。

「石川、悪いけど相沢が戻るまでレジお願いしていいかな」

「わかりました」

俺の顔を凝視しながら彼女に声をかけた。
こんな至近距離で斉藤さんの顔を見たのは初めてで、
ドキドキしている自分になんでだよと突っ込みを入れたりした。

「ドア閉めるから中入ってもらっていい?」

『は、はい!』

慌てて返事をする俺を見て、「うーん」と小さく呟いた。

『どうかしましたか?』

バックルームのドアを閉めながら聞くと、思いもしない言葉が返ってきた。


「そんなに緊張する?一緒に働いて2年も経つのに」

『えー、そ、そうですね……前もこんな話しましたね』

「俺のこと好きだとか言い出さないでね。そっちの方の人じゃないから」

『ち、違います!!』

「うん。よくわかってる。だからちょっと顔みせて」

そう言うと、息がかかるほど近いところで顔を覗き込まれた。

5センチぐらいしか離れていないんじゃないかというぐらいの距離で、その端整な顔を見る。
艶のある髪に色の白いきれいな肌。
水分の多い瞳。
そして耳の奥に響く低い声。



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| 「僕の一日」  | 01:45 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

いやぁ、つい私も誤解を……。
先日も失礼なことを書いたのに(扱いづらそうとか)、今回もまたで、有利くんに嫌われそうなので自粛しておきます。

男性が男性の美しい顔と接近したらどんな気分になるのか?
私が美人に顔を近づけられたときと似た気分かな?
遠くから見たら綺麗だけど、あ、毛穴が、こんなところに吹き出物が、と意地悪な目で見てしまいそうな気がします。(^^;

有利くんの周囲には親切な方が多いですよね。ありがたいけど、時としてそれがうっとうしい。鬱気質のひとにはそうなんだろうなぁ。

2013.08.28(Wed) 14:43 | URL | あかね|編集

あかねさま
いやぁ、私もついそっちの方向にもっていきそうになって…。
というのは冗談です。
美形と美形が顔を近づけたら、そこから先は……禁断の世界!! なんて。
きっと普通に「かっこいいなぁ」って思うと思っています。
キレイな人を見ると、じーっと見てしまうのは私だけでしょうか。
つい見とれてしまいます。
いつも行く美容室にとても美人な人がいるのですが、
その人に髪を触られるとなぜか緊張してしまいます(ハッ!もしや私はそっちの……

有利は親切で気が利く人が好きですが、細かいとウザったいと思うときがありますよね。
わが道をゆく!っていうタイプであまり他人に対して関心がないというか、
自分の世界が強い人を見ると羨ましくなります(私は周囲に飲まれやすいタイプなもので
そういう人には石川さんみたいな人は鬱陶しいと感じてしまうんでしょうね。

2013.08.29(Thu) 23:40 | URL | ハル|編集

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