夏の一日 6

6

アイスティーを持つ左腕につけている時計に目がいく。
幅が4~5センチはありそうなベルト。
どこで買ったのか気になっていると、
「どうかしましたか?」と視線に気づいた彼が聞いてきた。

「え、いえ・・・なんでもないです」

慌てて目を反らすと、レジから送られる熱い視線に気づいた。

「・・・・・・・・・・」

あぁそうか。
座っている場所が悪かったか。


俺が座っているのは店の入り口から入って正面にした奥側で、
女性店員が熱い視線を送る彼が座るのが、同じ入り口を背にした手前側だった。

ようするにレジカウンターから彼の顔は見えない。


申し訳ない。
このきれいな顔を独り占めしてしまって。


お冷を出してくれた店員に心の中で謝罪をしていると、彼がポケットから携帯を取り出した。

「すみません、さっきそのままポケットにいれてしまいました」

「いえ、本当に助かりました」

「寝不足ですか?」

「そんな感じです」

携帯を受け取りながら答えた。


「今から学校ですか?」

「はい、行く途中で・・・」

「そうですか。でも落ち着くまで休んだほうがいいですね」

「色々とありがとうございます」

「いえ、気にしないでください」


それを最後に彼はなにも話さなかった。
長い沈黙も何故か心地よく、ゆったりとした空気に包まれ、穏やかな気持ちだった。

心底、ほっとしていた。


誰かと一緒に居て安心するなど、あまりなかったように思う。

大学でもサークルに入らず、講義が終わればすぐにバイトに行って、
バイト先でも誰かと仲良くすることもほとんどなかった。

とにかくひとりでいたかったし、誰かと一緒に楽しい時間をすごすなんて考えられなかった。
今を楽しむとか、充実した生活を送るとか、そんなのありえない。
生きることを楽しんではいけないと思っているし、他人の幸せを分けてもらおうとも思わない。
自分が協調性のない人間なのだと自覚もしている。
身勝手だということも。

だからこそひとりでいたのに。
だからこそひとりを選んだのに。


「さて」とおもむろに口を開き、
「僕はそろそろ時間なんですが、大丈夫そうですか?」と腕時計を見ながら彼が優しく言った。

「え?あ・・・はい。大丈夫です」


あれ?
なんだろう・・・この感じ。

体中の血がうずく。


「じゃぁ、僕は失礼します。ゆっくり休んでください」と、
空になった容器を手に彼は立ち上がり、軽く一礼した。


「あ・・・色々とありがとうございました」


慌てて立ち上がり深く頭を下げると、「いえ」と小声で呟き出入り口へと向かっていった。

その様子に気づいてか先ほどの店員が「ありがとうございました」と、
残念そうな顔で見送った。


残念?
そんなんじゃない。
そういうことじゃなく、もっと別な。


鞄を手に彼の後を追うように急いで店の外へ出る。
10度以上ある温度差に目眩覚えながらも、覚束ない足取りで走った。

改札口がある方へ向かう彼の背を追いかけ、人目もはばからず声をあげた。

「待ってください!!」


一瞬、周囲の視線が自分に集中したのがわかった。


自動改札口を通ろうとしていた後姿が足を止め、
ゆっくりと振り返ると、すぐに俺の姿に気づいて歩み寄ってきた。


「あ、あの・・・」


息は切れ切れで、震える足には力が入らない。


「大丈夫ですか?」


最初と変わらない優しい声。


「あの・・・・」

「はい?」

「え・・・・っと・・・・・・」


言葉が出てこない。

何って言えば伝わるだろう。


「あの・・・・・・お礼をさせてください!」

「え?いや、別にそんな大したことでもないですし・・・・・・」

「そういうことじゃなくて・・・・・・」


困った顔をして「すみません、ちょっといま時間がなくてお話聞けないので・・・」と、
カバンから手帳を取り出し何かを書き記すと、
「改めてでいいですか?」とそのページを切り離して差し出してきた。

「・・・・・・え?」


目を点にして固まってしまった俺を前に、
「あれ?お話があるんじゃ・・・・」と少し顔を赤らめた。

そこには携帯電話の番号が書かれていた。

「・・・・・いいんですか?見知らぬ人に」

「構いませんよ」


その言葉に口元が緩んだ。


「はい」

「じゃぁ、ここにお願いします」


差し出された紙を受け取り一礼すると
「じゃぁ急いでいるので」と慌てて手帳をしまう彼に言った。


「斯波隆之です」


綺麗な目を細めて彼は笑った。



「有利和哉です」




 

自動改札機を通りホームへと向かった彼の後姿目でを追いながら、
込み上げてくる涙を必死に堪えた。



あの人はどこか自分と似ている。

あの人なら分ってくれると思った。

どうしてかなんて分らない。


分らないけど、彼を知りたいと思った。



吸い込まれそうな双眸の奥にある、その深さのわけを。


紙に書かれている番号が通常使用する携帯電話のものではなかったこと、
そしてその優しい笑顔も上辺だけのものと知ったのは、
それから数ヵ月後のこととなる。



にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 16:05 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

続きが気になります
これは続きがありますよね?
この「彼」初登場なのでしたっけ?
ラストの一文がとーっても気になって、効果的に「続く」って感じだと思います。
こういうのも小説を書く上でのテクニックですよね。
「上辺だけ」どういう人物なんだろうか、って。

うちのフォレストシンガーズは、お粗末ではありますがキャラクター相関図を作りました。
この次にご訪問いただけたら見て下さって、ご意見などもいただけると嬉しいです。

2013.07.08(Mon) 00:40 | URL | あかね|編集

あかねさま
ここの話の主人公は斯波になり初登場ですが、あとで本編の僕の一日に出てきます。
有利目線ではないのと、読まなくても本編を読むにあたって支障がないので、別のくくりにしました。

この話を最初に書いたのはだいぶ前で、そのときは僕の一日にまったく関係ない、1話だけの短いお話でした。
それをいじって話が繋がるようにしたのが、この夏の一日です。
なので「続く」と思って頂けたら嬉しいです。

最近おとなしい有利をどうしてやろうかと考えています(笑

2013.07.08(Mon) 23:43 | URL | ハル|編集

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://harl.blog40.fc2.com/tb.php/629-40c73f5f

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア