僕の一日  45

コーヒーの匂いで満たされた車の中は程よく暖かく、運転席には4時間以上も待たされたというのに、
疲れた様子も見せず優しく笑う斉藤さんがいた。
ドリンクホルダーにはスターバックスの容器がふたつ並んでいる。
このあたりが斉藤さんというか、なにをしてても「ソツがない」というか。


「うん、顔色が良くなったね」

『待たせてすみません』

「いいのいいの。気にしない」

シートベルトを締めながらひたすら謝る俺を横目に、医者と同じようなことを言いながら、
メガネのフレームを押し上て笑った。


彼女に、似ている。

いつも穏やかに笑うところとか。

隣にいると、いつもそう思ってしまう。



『斉藤さん、俺あと歩いて帰れますから、適当に降ろしてもらって大丈夫です』


病院を出て間もなく、知っている道に入った。
ここからならひとりで帰れる。
これ以上、この人の時間をつぶすわけにはいかない。

「何を言っているのかな。数時間前まで真っ青な顔していた人が。
 周りのことは気にしないで、今は自分のことを一番に考えて。
 俺は大丈夫だよ。ちゃんと休んでるしね」

赤信号につかまりブレーキを緩やかにかけながら、気持ちのいい声でやんわりと言う。
そういう返事がくることは分っていたけれど、迷惑をかけまくっているこちらとしては、
口にしなければ気がすまなくなっていた。
もっとうまく色んなことに気を向け、立ち回ることができていたら、
斉藤さんもこんなに世話をやくこともなかったんじゃないかと、
考えても仕方ないことを、頭の中でぐるぐると回転させてしまっている。

ダメだ。
もっと良い方向に、プラスの方にものごとを見ないと。
いまはまず斉藤さんのことを・・・・・・。


・・・・・・あれ?えーっと・・・・・・なにを考えていたんだっけ・・・・・・。


「無理が積もり積もってこういう形で身体にガタがきたんだよ。
 少しは身体の言うことを正直に聞こうよ」


思考が滅茶苦茶になってしまい考え込んでいると、タイミングを見計らったかのように、
にっこり笑いながら彼が言葉を続けた。


「大丈夫」


耳の奥で聞こえる、自信に満ちた声。

彼女が言うように、優しくおだやかに、心地よい響きで。




「大丈夫だから。安心してお休み」



ヘッドライトに照らされたその顔は、安堵の表情と少しばかりの喜びをうかべていた。


あぁ、そうか。
俺は、休んで大丈夫なんだ。

彼女も同じようなことを言っていた。


大丈夫だよ。

大丈夫。



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| 「僕の一日」  | 14:48 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

斉藤さん
ハルさんはやはり、絶対音感に近いものをお持ちなんですね。
前から読ませていただいている小説にはたいてい「音」の記述、繊細な感覚の記述がありますから、そうじゃないかと思っていました。

私にはまったくないものですので、うらやましい気もしますけど、音符になって聞こえてくるって、どんな感覚なのでしょうか?
しんどかったりもします?

それはそうと、斉藤さん。
このひとはなにを思ってこんなにも親切なんでしょう?
純粋な親切? 下心(男性同士ですし、あれではないんだったら……妄想がふくらみますが)は本当にないのか。
なんて、下世話な想像をしてしまってすみません(^^

2013.04.17(Wed) 00:42 | URL | あかね|編集

あかねさま
ドーレーミー♪って聞こえます(笑
意識しなくても音階になって聞こえてくるぐらいです。
でも私の場合は全部が全部そう聞こえるわけじゃないので、
辛いというのはないですよ。
私の場合は、変な音程で気持ち悪いなぁ、ぐらいはありますけど、特に大変じゃないですよ~

斉藤さん、よからぬ妄想がふくらんでおりますよ(笑
そっち方面は書いたことも考えたこともないんですよね。
なんというか、どんなものなのかよく分からなくて。
ほら、どっちが女なのかとか、そういう場合どうなるのかとか。

うぅーん…これから斉藤さんをどうしましょう??

2013.04.18(Thu) 12:43 | URL | ハル|編集

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