僕の一日  34

耳の奥に声が響く。
心地よいバリトン。

そうだ。

彼女のことを心配していた。
電話で聞いた、あのときの声。


「…もしもーし…起きてる?寝てる?どっち?」

『・・・ん・・・』

「俺にそんな声出しても、何も出ないよ」

『・・・・・うん・・・・』

「和哉くん。大丈夫?ちょっと心配なんだけど」


そう。
心配してた。
あの人。


『あ…れ?』

「お・・・気づいた?」

『えー…と…』


ズキズキと痛む頭を押さえる
まだ熱がありそうだ。

「起きた?」

その言葉でやっと目が覚める。
無意識に電話に出ていたらしく、ちゃんと携帯を耳にあてていた。


『うわっ!斉藤さん?!…っつ…』


勢いよく起き上がると、目の前がぐるりと回った。
そのまま倒れこんでしまう。

「そう。体調どう?動ける?」

落ち着いた声が頭に入る。
耳元で直接喋ってるみたいだ。
携帯を耳に当てなおす。


『あの・・・俺・・・』

「うん。まだ駄目だね。今日も休んでいいよ。俺がでるから」

『・・・え?』

「・・・大丈夫?・・・今日が何日で何時か分かってないかんじだなぁ」

『え?・・・今日?』


時計に目を向けると、9時50分をさしていた。
カーテンからは外の光が漏れている。

まさか・・・朝。
出社時間だ。
ざぁっと血の気が引くのが分かった。
あのあと眠り続けていたんじゃ…。

「もう飲み会から二日目だよ。全然連絡ないから心配だったんだけど、
 聞いたとおり今日も無理だね。ゆっくり休んでて」

『ま、待ってください……俺早番ですよね?』

「うん。だけど大丈夫。俺がもう出社してるから」

『・・・斉藤さん、今日休みですよね?』


彼女が始発で帰ったあと結局昼まで眠れず、お弁当を食べたあともソファーのうえで熱にうなされていた。
夕方になってやっと眠くなって、そのまま…。
そのまま目覚ましもかけず、眠り続けていた。


「うん、俺が休みだから大丈夫。人数は足りてるよ。安心して休みなさい。
 明日出社できるようなら一度店長に電話して。
 電話がなかったらダメってことで休みにするから。いい?」

『はい』

とんでもなく迷惑をかけている。


「石川も心配していたよ。だいぶ調子悪そうだって」

『…そう、ですか』

彼女に連絡を入れてない。
あんな姿を見たあとで、どう話していいか分からなくて、そのままにしてしまっていた。

「…お、噂をすれば、石川サンだ、おはよう」

『え?』

「ん?石川も早番だよ。いま代わる」


今日、早番で一緒だったのか。
もう休み過ぎてて分からなくなってきた。

「もしもし?大丈夫?連絡ないから気になっていたんだけど」

心配そうな彼女の声が携帯から流れてくる。

『ごめん、寝てて・・・』

「うん。こっちは大丈夫だからゆっくりしてね」

『うん…』


彼女も少しは休めただろうか。
かなり無理をさせてしまった。


「だって。じゃあ、お大事にね」

『あ、はい…すみません…』


低く優しい声を最後に通話が切れた。
もう10時。
本来なら店にいなきゃいけないのに。
情けない。
前回の病院のときといい、仕事を休むことが一番ダメなのに、
今月に入って何度目だろう。

このまま自分が駄目になっていくようで怖い。
これ以上、堕ちるわけにはいかない。
しっかりしないと。


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| 「僕の一日」  | 15:03 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

支えられてますなぁ!
周り中がいい人で、なんだか、それだけで嬉しくなる。
ここに来るとなんだか癒される。

類友って本当にあるらしいからね。
同じものは引き合う。

これから、こうやって優しい人たちに囲まれて、良い運命も引き寄せられると良いと祈る。

生き物は弱っているとそこに付け入る悪いモノが寄ってくるから、気をつけないと!
でも、強力なバリアが張り巡らされていて、今は安心。
そして、彼は、そうやって受け取ったものを温めて培養して、きっと強くなって、今度は大事な人を助けられるんだろうと、なんかそう思えた。

2012.06.05(Tue) 09:49 | URL | fate|編集

昔・・・
なぜか「類は類を~」と覚えていました・・・・・・恥!

私もひとりすごい人を知ってるんです。
その人が特にすごい人だとか、そんなんじゃないんですけど、
なぜか素敵な人たちがたくさん集まる人。

その人も別に愛想が言い訳でもないし、ずば抜けて顔が良い訳でもないし(ごめんなさい)、
でも何でかいつも人がいて、なにかあればみんなでその人を心配して。

そんな関係を素敵だなぁって思って、ちょっと苦しい彼を、
そんな人たちで囲んでみました。

2012.06.09(Sat) 17:35 | URL | ハル|編集

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