僕の一日  32

「うわっ!駄目だ見つからないっ。誰か知らないのか?」

焦りながら必死に書類を探す店長。
かれこれ10分は経った気がする。
さっき2時締めと言っていた気がするけど、大丈夫だろうか?
もう1時30分過ぎてるけど。

「店長がハンコ押してから、どこにしまったかなんて誰が知ってるっていうんですか」

「だよなー、あぁ、どこだよー。男ってこういうのダメだよね」

「いや、男が全員片付け出来ない訳じゃなくて、店長がただ片付けられない人なだけです」

「…そうかな」

「そうです。…石川に聞いてみますか?」

「あ、いいね。知ってるかも」


そう提案し、『葵』という名前がとても似合う『斉藤』さんがポケットから携帯電話を取り出した。
電話をかける仕草まで絵になる。
この人、モデルでもしているんだろうか?

「あ、石川?休憩中に悪いね」

低い声で携帯の向こうに話しかける。
落ち着いたはずの心臓が、呼んだ名前を聞いてまた速くなる。

「今日締めの返品伝票しらない?店長もわからなくてさ」

返品伝票?
このダンボールの山は返品商品か。

「わかった。うん・・・あそこね。ありがとう。じゃあ」

「知ってるって?」

通話を切るのと同時に店長が言った。

「はい。こんなことになるだろうと、昨日のうちにこの山の中から探しておいたみたいです」

「さすが石川。デキるね」

「いや・・・店長が片付けられないだけだと思いますよ。ねぇ・・・和哉くん」

『え?』

突然呼ばれて少し声が上ずった。
ビックリする。

「待たせてごめんね。すぐ後ろにあるタイムカードの隣に、封筒ない?黄色い」

そう言われて振り返ると、そこにはタイムカードが並んでいた。
全部で6枚。
そこに混ざって黄色い封筒があった。
取ってみると大きく赤ペンで“要返品”と書いてある。

『あります。返品て書いてあります』

「よし・・・これで大丈夫だ。ごめん、それくれる?」

『あ、はい』

ダンボールの山をよけながら机越しに封筒を手渡した。

「ありがとう」

細めた目が優しい。
強い空気だけど心地いい。

「その返品終わったら店出られる?相沢呼んできて欲しいんだけど」

机の上の書類を整えながら店長が言った。

「わかりました」

柔らかく返事をしながら机の横にある複合機のボタンを押す。
なんというか、動作ひとつひとつが滑らかだ。

「じゃぁ、俺フロアに戻りますよ」

黄色い封筒に伝票を戻して店長に渡すと、店へ戻って行った。
ドアの向こうを見つめてしまっていると、それに気づいた店長が笑った。

「いや、そんなに見つめなくても。確かにかっこいいけどさ」

『モデルみたいですね。ビックリした』

「学生の頃、少しやってたらしいよ」

『やっぱり。雰囲気が違うっていうか』

「うん。顔もあるけど、あの雰囲気にみんなやられるんだよね」

業務とはまったく関係ないことで盛り上がっているところにドアが開いた。


彼女だ。


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| 「僕の一日」  | 11:21 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

自分の中で特別と思う人がいなかった
↑ふと過去記事を読み返させていただき、再度、心に留まりました。

これ、こういう感じ、よく分かります。
誰にでも優しくて、怒らない人ってのは、実は興味・関心の欠落なんだよな、ってことが。
それを超えて、ヒトは本当の優しさを身に付けられるのかも知れないけど、人当たりの良い人って実は傷ついている可能性もあるんだよね。

それでも、人は人と関わらずにはいられなくて、そして、そういうモノクロの世界に不意にカラーを伴って登場する光を放つ存在に、憧れる。
それは‘恋’にも似た光で。
そして、人は他人の存在を知るんだ。
そして、他人がいることが分かってから、ようやく自分を見つけられる。
彼女はきっとそんな風に彼の心に飛び込んできた‘ひかり’だったんだろうなぁ。

2012.05.13(Sun) 08:07 | URL | fate|編集

fate様
うわぁ・・・そこまで考えられるなんて・・・←そこまで文字で考えられなかった自分・・・

昨日ひさしぶりに会った知り合いと話していて、
その人はとても人に対して気を配り、親切で優しい人なのですが、
ときどき色んな意味で疲れてしまって、
ずーん、とひとりで重くなってしまっているときがあるんです。

他人の分まで感じちゃって気づかぬうちに背負ってしまってるのかなって。

優しい人はその分、色んな思いをしているんだなぁって思いました。

2012.05.15(Tue) 15:08 | URL | ハル|編集

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