僕の一日  25

彼女が誰かに助けを求める姿は見たことが無い。
仕事のことであれ、全部ひとりでこなしているように見える。
仕事以外の場でも、彼女の泣言は聞いたことが無い。
そういった感じを顔に出すことも無い。

誰にも頼らない。
弱音も吐かない。
愚痴も言わない。

彼女はひとりで立っていられる人だと思っていた。


「大丈夫?」

突然耳に入った声に驚いて顔をあげると、
ソファーに寄りかかったままで、彼女がこちらを見ていた。

『・・・大丈夫。ありがとう』

携帯をテーブルに置いてソファーに座ると、彼女が毛布を俺の方へ置きながら言った。

「そっか・・・良かった」

思えばあの人とどこか似ているかもしれない。
例えばこの穏やかに笑うところとか。

『・・・わざわざ泊まらなくても良かったのに』

「なに言ってるの。結構ひどい状態だったんだから。
 熱はたいしたことなかったけど、身体がグッタリして大変だったんだから」

『あ、ごめん。俺そのへん覚えてなくて』

「うん。そうだと思う・・・あの状態なら、ね」

『俺・・・そんなにグダグダだった?』

「うん、グダグダだった」

『ホント・・・・・ごめん』


体調がどうあれ、これだけ周囲に迷惑をかけている自分が情けなく思った。


「少しは調子が良くなったみたいだけど、熱測った?」

『いや、測ってないけど』

「ほら、その辺がダメ。ちゃんと測る。
 まだ4、5時間位しか寝てないんだし、もっと寝ないと」

『えーと、もう大丈夫だよ』

少し困った顔になってしまった自分に気づく。
この薄明かりの電球の下、彼女にはどう映るだろう。


「なに言ってんの。ちゃんと測って、ちゃんと寝る」

『は、はい・・・』


押し切られる形で熱を測ることになった。
誤魔化してしまおうと思っていたのに。
やっぱり通用しない。

体温計を脇にはさんだのを確認してから、彼女は台所へと向かった。
パチっと部屋と台所の電気をつけ、やかんに水を入れお湯を沸かしだした。
ぼんやりその姿を眺めていると、ピピッと音が鳴る。
おそるおそる体温計を見ると、休んだにも関わらず熱は38.4まで上がっていた。


「何度だった?」

台所から彼女の声がした。

『・・・えーっと』

まさか今の小さな音が聞こえたとは思えないが、絶妙なタイミング。
なんとか誤魔化そうと小声でブツブツと言ってみる。
こんなとき電子体温計は嘘がつけないから困る。
水銀のタイプなら、適当に下げることも可能なのに。


「ほら濁してもダメだよ」


台所から急須と湯呑茶碗をふたつお盆にのせて持って来る。
テーブルに置いて、茶碗にお茶を注いだ。


「はい、水分とって。体温計見せて」

『あー・・・はい・・・』


観念して彼女に渡し、湯呑茶碗に手を伸ばす。


「熱上がってるじゃない!」

『でも、あんまり気にならないよ。大丈夫』

「気になるとかじゃなくて・・・」

『いやいや・・・このくらい別に・・・意識もあるし』

「だめだよ、そんなんじゃ。ちゃんと休まないと。もう・・・」


一瞬驚いた様子をみせたものの、すぐに肩を落として気の抜けた声で彼女が言った。
熱があっても動けないわけじゃない。
これぐらいなら働くことはできる。
さっき電話で休んでいいと言われたが、この間も突然休んだばかりなのに、
これ以上迷惑はかけられない。

「水分取ったらすぐに寝る。あとお弁当買ってあるから、
 目が覚めたらそれ食べて薬を飲んで、またすぐに寝ること」

『いや、でも今日は・・・』

「今日はもう休みもらってるから」

『でもこの間も休んだばっかりだし、これ以上続けては・・・』

「なに言ってんの!病人は大人しく寝てる!」

『はい・・・わかりました』


観念してソファーの上で丸くなる。
仕事以外での彼女は、少し母親の雰囲気を漂わせている。
世話好きというか、面倒見がいいというか、誰もが安心できる空気をまとう。
穏やかに笑う彼女を見ていると、心が落ち着く。

こんな風に誰かを思って、その人の隣で穏やかに笑っていられたら、どれだけ幸せなのだろう。



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| 「僕の一日」  | 02:38 │Comments4 | Trackbacks0編集

コメント

こんな風に誰かを思って、その人の隣で穏やかに笑っていられたら、どれだけ幸せなのだろう
↑うわあああああ、その通りですね。
彼は、何気に支えてくれる人が周りにいますね。
きっと、そういう人を引き寄せるだけの彼には優しさとか清いものを内に秘めているからなんだろう、と思えます。

おおおお、ここに来ると、なんだか厳粛な気分になれて、fateも少し浄化されるような気になります(^^;

しかし、パソコン、って、かなり寿命短いっすよね。
ああ、分かります~
そういうときの「なんでもないよ」っていう店員の言葉ってけっこう救われますね~。

2012.02.22(Wed) 09:14 | URL | fate|編集

確かに短い…もう少しぐらい使いたかった…
慣れない7は疲れます…

彼みたいに優しい人がいっぱいいればいいのにって、
無理なこと考えて、ならば架空で、って思ってます。

浄化といえば、HPに遊びにいくと新しいのを読まずに、
あの二人の話にいってしまう私も、だいぶどっぷり浸かっているなぁって思います。

2012.02.27(Mon) 16:31 | URL | ハル|編集

無理をしている
人はみんな、大なり小なり無理をしているものなのでしょうね。
それが生きるってことなのかもしれない。

ハルさんのこのストーリィを読ませてもらっていると、そのようなことを改めて考えます。

彼にとっての救いである彼女だって、かなり無理をしてるんですね。
彼女のほうにもきっといろんな事情があるのでしょう。

この前のお返事につきまして。
伏線を張って拾ってって、たしかにむずかしいですよねぇ。
プロの作家さんでも、え? あれ、伏線だったはずなのに、どこに消えた? ってことがたまにありますもの。

2012.12.07(Fri) 12:23 | URL | あかね|編集

あかねさま
鋭すぎますよ、ドキリとしてしまいます。
見透かされてる?!っと、いつもドキドキです。

本を読んでて「あぁ!あれって!!」とわくわくするのがたまらないです。
一気に読んでしまいます。
しかも一度読んで内容知っていりハズなのに、
何回読んでもそれがなくならないっていうところがまたたまりません。
エンドレス!

2012.12.19(Wed) 07:59 | URL | ハル|編集

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