僕の一日  24

メールの履歴から、バイト先のスタッフたちと飲み会があったことを思い出した。

でもなんで彼女がココにいるのかが分からない。
そもそもどうやって帰って来たのかも思い出せない。

ベランダへとつながる窓をゆっくりと開ける。
まだ暗い。
外へ出て窓を閉めた。

ひんやりとした風が肌に触れる。


着信履歴からバイト先の人へ電話をかける。
昨日の夜11時以降、2人からの着信があった。
そのときにはすでに家に帰ってきていた可能性が高い。

通話ボタンを押してみるも空しくコール音だけが鳴る。
携帯の画面に表示された時間を見て、普通は寝てる時間だと気づく。

夜に仕事をしているせいか、感覚がズレている。

履歴から2人目へ電話をかける。


「はーい・・・どちらさん?」

10コール後、気の抜けた声がした。
起こしてしまったようだ。

『あ、すみません有利ですけど』

「あー、大丈夫?」

起こされたというのに、怒る様子もない。
この人はいつも・・・。

大人の、男の人。


『すみません、起こしてしまって・・・。
 今日の飲み会の事、途中から覚えてないんですが、俺どうしてました?』

「んー。そうだねぇ・・・」


ゆっくりと話すこの口調はいつも変わらない。
聞いていて気持ちがいい、低い声。
こういう人と話すのは嫌いじゃない。


「急に後ろにひっくり返って・・・少ししか飲んでないのにさ。
 酔っ払ったのかと思ったら、熱あって。倒れたんだよ」

『・・・それは・・・すみません・・・』


言われればお酒を口にした気もする。
特に好きでもないけれど飲めないわけじゃない。
飲み会のときは周りに合わせて飲むようにしている。


「それで家に送ろうとしたんだけど、誰も住所わかんないってなったら、
 石川が分かるからって言って、タクシーで送ってくってなったの」

『・・・・そう・・・・だったんですか』


そのあたりの記憶がない。
彼女が送ったということは、自分の足で歩いて部屋まで来たはず。
薬だって飲んでいる。
この程度の熱で、記憶が飛ぶとも思えない。
なんで覚えてないんだろう。


「で、何で彼女はお前の家を知ってんだ?付き合ってんの?」

『ないです!』

「ムキになるなよ。冗談」


子ども扱いされたような気がするのはいつものこと。
ムキになったこっちの姿を見て、優しく笑う。
「ごめん、悪かった」と、全部まるめて呑み込んで、
それでいて嫌味が無く、場の空気を和ませてくれる。

この人にかかれば、俺はまるで子ども。
本当に、大人になりきれていない。


「俺も含めて、誰もお前の私的なこと、知らないからさ」


耳に届く声音が変わった。
めずらしく感情をのぞかせた声。


「彼女がこの会社で頼りにできる人なら、それでいいんだけどね」


カチッ、とライターの音が携帯越しに聞こえた。


「まぁ・・・ゆっくり休んで。今日は他の人が仕事出るから」


タバコの煙を吐き出す音が聞こえる。
灰が落ちる瞬間が見える気がした。


「それからさ、彼女・・・石川。
 もともと今日休みなんだけど、とにかく休むように伝えておいて。
 最近、無理してんのバレバレだからさ」

『・・・ぇ?』


わずかに出た声が、相手に聞こえたかどうかは分からない。
こっちの状況なんて分かるわけがないのに、何かを察したのか、
少しの間、無言状態が続いた。

携帯を持つ手に力が入る。

気付かなかった。
なんかあったんだろうか。
いつもと変わらない気がしていたけど。


『・・・わかりました。伝えておきます。じゃあ』


通話を終わらせ、部屋へと戻った。


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| 「僕の一日」  | 02:05 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

彼女…
何もない人なんていないけど。
ヒトはやはりどこかしら無理して、気負って生きていくもんなんだろうか。

良いね、こういう大人の人がいるって。

そして、心の支えになってくれる人の気配が傍にあるって。

それだけじゃない。
そんな単純なことじゃないけど、弱っているときって、単純なことで良いよね。

そんな気になりました。

2012.02.17(Fri) 10:27 | URL | fate|編集

パソコンが壊れてしまってました・・・
ネットにつながらなくなってしまって。
新しく買いなおしました。
でもなんだか使いにくい・・・XPでいい・・・

すっかり弱っていた私に電気屋の店員さんは
「そろそろ換える時期なんですよ」
と一言。

救われました・・・。

2012.02.21(Tue) 21:55 | URL | ハル|編集

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