スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- │Comment- | Trackback-│編集

僕の一日  8

女性の手を引いて再度、満員電車に乗り込んだ。
大学はあと3駅先だった。
たった3駅でも、いまの状態では怖いだろう。
また、今度は別な人が・・・そんなことが頭をよぎるに違いない。

女性が離れないよう、その手を強く握ったまま、
無理やり人を掻き分け、車両の隅まで行った。

『ココなら少しはマシだと思いますよ』

隅に立たせ握っていた手を離し、自分はその前に立って周囲に壁を作った。
こんなとき180cmの身長が約に立つ。

「・・・すみません・・・ありがとうございます」

肩をすくめ胸元で大きなカバンを持ちながら女性は小声で言った。
電車が動き出すと会話は途絶えた。
満員電車の中、会話はなかなか難しい上、なにより周囲に睨まれる。
ただ女性に害が無いことを確認し、ぼんやりと外の景色を眺めていた。

ほどなく女性の目的の駅に着き、また手を握り一緒に降りた。

改札口へ急ぐ人たちを背に、女性が頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

『いえ、これからは気をつけて下さい。それじゃ』

短くそれだけ伝え女性に背を向け、反対側のホームへと向かった。
そのとき。

「あ、あの!」

今までの会話の中で一番大きい声がした。
振り返り女性を見た。

「あの・・・」

女性はそのままうつむいてしまい、続く言葉を失っていた。

『・・・・どうかしましたか?』

「いえ、あの・・・・」

『・・・?・・・もしかして具合でも悪いですか?』

その言葉にパッと顔を上げ「いえ!そうではなくて・・・」と続けた。

女性から離れた分、また近づいて顔色を伺う。
体調が悪いわけではなさそうだ。

『・・・何か僕のことで聞きたい事でもありますか?』

もしかしたら助けたことが逆に、不審に思われたかもしれない。
不安なことがあるなら、答えようと思った。

「・・・あ・・・あの名前を・・・」

『・・・・』

名前か。

『僕の名前ですか?』

分かっていることを確認する。

「はい・・・」

真っ赤になって、またうつむいた。
何となく分かるパターン。
でも名前くらい構わない。

『有利といいます』

彼女はパッと顔をあげた

「あ、ゆ、有利さん。あの・・・本当にありがとうございました」

懸命に彼女は言って、こちらへ頭を下げた。
その時、きれいな音がした。
他の誰にも聴こえない音。
その空気も心地良かった。

『いえ、それじゃぁ気をつけて』

少しだけ笑って、また反対側のホームへ歩き出した。

耳にはまだきれいな音が残っている。


たまには良い事もするべきかな。
こんなにきれいな音が聞けるし。
それに、自分だって、いつも人にお世話になってるから。


左手首を抑えながら電車を待った。


にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 16:17 │Comments0 | Trackbacks0編集

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://harl.blog40.fc2.com/tb.php/585-295958bc

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。