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僕の一日  7

サンドウィッチを食べ終わると上着のポケットに手紙を入れた。
重い身体を引きずりながら立ち上がり、玄関を開けると太陽が目に入ってきた。

朝日は苦手だ。

最近こそ減りはしたものの、ここ2年ぐらい気だるい身体にその朝日を浴びている。
その度に追い込まれる気がしてならない。
何に追われているのか、それは自分でも分からないけれど。


朝のラッシュ時に病院まで電車を乗り継ぐ。
人混みの中、他人だらけの中で他人のフリをしてる自分。
他人なのだから意識などしないでいいのに、くだらない何かが他人であることを演じさせた。
1ミリの隙間もないんじゃないかと思えるぐらい、人が詰まった電車に揺られながら病院へと向かう。
朝に聴こえた小さな音も、ここでは聴こえるはずもない。
雑音と大量の人の空気と全てが混ざって、居心地の悪い空間を作り出している以外の何ものでもない。

そんな状態の中で「ピン」と糸を弾いたような音が耳に入った。
身動きとれない電車の中で、顔だけ音が聴こえた方向に向ける。

女性がうつむいてて立っている。
同い年ぐらいだろうか。
うつむいたまま硬直している。
その後ろにはサラリーマン風の30代位の男性がピッタリとくっついている。
男性は落ち着かない様子で周囲を気にしている。
その視線は挙動不審でしかない。

あぁ。そうか。
さっきの音は。
彼女の。

どんどん身体を小さくさせていく女性は、俺が気づいている事に気づいていない。
周囲の人もこの人込みに同化したサラリーマン風の男性が何をしてるかなんて、気づいていないだろう。
気づいていたとしても、きっと知らぬ顔をしているのだろう。
女性はひたすら自分の身体を縮めていた。
もともと小さいだろうその身体を限界まで縮め、なんの抵抗もできずにいた。


目の前にいたら、すぐに助けられるけれど、手の届かないところにいる。
身動きの取れない車内で、見知らぬ女性の所まで人込みを掻き分けて行くほど、
いまの自分は優しくもないし、意識も半分どこかへ飛んでしまっていて現実味が沸かない。
あくまで自分とは関係のない、切り離された世界での出来事でしかない。
正直なところ、どうでもいいと思った。

視線を戻すと目的の駅のアナウンスが流れた。

降りないと。

ガコンと音をたてて電車のドアが開くと一気に人が外へと流れ出した。
その流れる中に自分も紛れ、電車を降りる。


結局、みんな、他人さ。


その感情は変わる事は無い。
でも。

それでも、自分の耳に聴こえた音。
それは大事にしたい。

『・・・・』


電車から降りる人の中を逆流して、女性のところへと足を向ける。
無理矢理人をかき分けて、うつむいたまま動かないでいる女性の手を取り、強引に電車を降りた。
その最中、周囲からは俺に押されただろう人たちの敵意が向けられたが、
そんなものは無視して、女性の手を離すことなく足早に電車から離れる。
女性の方は見もせず、改札口とは逆方向の人の少ないところへと向かった。

ホームの端の方まで行くと、人の数は満員電車が嘘のように少なかった。
歩く速度を落とし女性を見ると、何が起こったか分からないような顔をして、
俺に引きずられるように歩いていた。
何も言えず、抵抗も出来ず、ただ耐えていたせいか、うまく足が動かないようだった。

歩きを止めても、女性はぼう然と俺を見ていた。
電車の中で思ったとおり、小柄な人だった。
俺はつかんでいた手を離しながら言った。

『相手は電車から降りてないので、もう大丈夫です』

安心させようと言ったものの、反応がない。
ただ目を丸くさせてこちらを見ている。

『あの男の人・・・いつもあの電車で?』

なるべく怖がらせないよう、優しく聞いた。
女性は我に返ったように真っ赤になった。
視線を地面に落とし、女性は小さくうなずいた。

『今度は違う車両か、時間帯を変えた方が良いと思いますよ』

そう言うと、電車に乗っていたときのように、どんどんうつむいていった。
少し身体を縮こませながら、持っている大きなカバンを両手で強くつかんだ。

「・・・何も言ってないのに・・・何で・・・」

そう言った身体は震えていた。

『・・・何となく』


この耳の中に直接音が聴こえた事は喋らない。
所詮は、誰も信じないだろう事だから。


「わ・・・私、恐くて、何も喋れなくて、動けなくて、それで・・・」

感情がやっと戻ったのか、涙が地面へこぼれ落ちた。

『うん。次は別の電車に乗りましょうか』

普通に喋った。

「・・・はい」

女性は小さく頷いた。

『ところで仕事に行く途中じゃなかったんですか?』

「あ、えっと、大学に行く途中で・・・」

『そうですか。じゃぁ、あんまり遅刻は気にしなくても大丈夫ですよね』

「は、はい・・・」

『このラッシュが少し落ち着いてから乗った方が良いと思いますよ』

「えっと・・・はい」

まだ彼女の頭の中は混乱しているようで、ひとりで放っておくのも気が引けた。
なにより自分でここまで引っ張り出したのだ。

『僕はココの駅なんですが、一緒に休みますか?
 怖いなら目的地まで一緒に乗っても構いませんが』

うつむいていた彼女の目が俺の目を見た。
助けを求めた気がした。
けれどその口からは、うまく言葉がでない。

「・・・・えっと その・・・」

助けてくれた人とはいえ、俺だって赤の他人。
わざわざ電車に乗るのに、付き合って欲しいとは言えないのだろう。

『駅は何処ですか?このラッシュはまだ続きますから、一緒に乗りますよ』

その言葉を聞いた女性は、ホッとしたように少しだけ笑った。

「ありがとうございます」

女性から張り詰めていた空気が解けた瞬間だった。


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| 「僕の一日」  | 16:14 │Comments2 | Trackbacks0編集

コメント

繊細なひとなのですね
彼と彼女にはそんな事情があったのですねぇ。
なんとなく女性と男性の立場がさかさまみたいな感じもありますが、そういうのも素敵です。

そして、主人公さんは他人には聞き取れない音を察知し、それによってものごとを知る体質なんですね。

ハルさんは絶対音感の持ち主でいらっしゃったりするのでしょうか。
主人公さんもとっても繊細なだけに、ハルさんもそんなタイプなのかなぁと想像しています。

2012.09.16(Sun) 11:05 | URL | あかね|編集

あかねさま
色んなことに神経をつかっちゃって、すぐに疲れてしまう、
世の中に生きにくさを感じてる人っていうのを軸として作ったのが彼で、
それを近くで見て支える人っていうのを彼女としました。

些細なことに過敏になってしまう、っていうのを考えていたときに、
普通の人は聞こえないものが聞こえるって、すごく辛いだろうなぁって思って彼をそうしてみました。

今になると少し可愛そうな気もします。。

10年以上前ぐらいまでは確かに耳はよくて、
完璧とは言えないですが、それなりの音感がありました。
でも最近は、半音くらい外れてしまったり音程をとるのが難しくなりました。
歳をとるとは怖いですね・・・・というか、そういうのから離れたためかと思ってます。
耳はよくても、小さい頃からオンチでした・・・酷!!っていうほどではないですが・・・。

2012.09.22(Sat) 00:14 | URL | ハル|編集

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