僕の一日  5

薬を探し回ったせいでめちゃくちゃになった部屋の中で包帯を探す。

『もう・・・仕事場に着いたかな・・・』

ひとり呟いて棚から見つけた包帯で手首を巻きだした。
普通の高校の普通科卒業でたいした怪我もした事のない自分が、
簡単に包帯を一人で巻ける事実が少し悲しく感じた。

自分でやって、自分で覚えたこと。

包帯を巻き終わると、床に落ちたままの上着を羽織って玄関へ向かった。
靴を履こうとしたときに、目に入ったのは茶色の紙袋。

何だろう。

ガサッと開けてみると サンドウィッチが入っていた。

『・・・分かってるなぁ・・・』

何も食べないで出かける事を、彼女は分かっている。
それが身体に、どれだけ良くない事かも。
数時間前の酒のせいで頭も痛いし、食欲もないけれど、これだけは食べないと。

袋からサンドウィッチを取り出すと、その下には紙が一枚入っていた。
見てみると彼女からの手紙だった。


“もう少し太ってもいいんじゃない?
 少なくても、朝食はちゃんと食べるように。
 コンビニでもいいんだからね。
 本当は家でちゃんとご飯作って食べるのが良いんだけど。

 一人が好きなのもわかるけど 、
 一人では大変なこともあるから。
 
 今はまだ体調も良くないし、無理はしないこと。
 とにかく自分をもっと大事に。

 料理が上手で優しい彼女を早く見つける事も大事だよ”



『・・・料理が上手で優しい彼女ね・・・』

サンドウィッチに目をやる。
ドコの店で買ってきたのか?と聞きたくなるが、
彼女が作った事は分かっている。

そのまま玄関に座り、サンドウィッチを口にしながら記憶をたどってみた。


これといって何も知らない相手から、「付き合って欲しい」と言われても、 
なんで自分なんかと付き合いたいと思うのかが分からなかった。
その相手と付き合いたいと思った事もなかった。

友達に聞いてみれば、
「お前カッコイイもん。性格も良いし、優しいし、みんなに平等だし。
 そりゃあ、女は好きになるんじゃない?」
そんな返事が返ってきた。


それは違う。


友達の言葉を心の中で否定する。

優しくしているつもりはない。
自分のことすらままならない人間が、他の人にまで気を配れる程、自分が器用ではないと知っている。
それに相手は、本当の俺を見たことない。
ましてリストカットしてるなんて知った日にはどう思うだろう。
勝手に理想像作り上げてる相手に、いきなり言ったら絶対に困惑して後退りする。
もしくは逃げ出すかも。
頭の中でそんな状況を思い浮かべていた。
途端、サンドウィッチをた食べる手が止まる。


逃げ出さない人がただひとり。

彼女は、逃げない。

逃げなかった。



俺が何かを言う前に、彼女は気付いていた。
長袖や時計、リストバンドなど通用しなかった。
俺の行動や目を見て、それだけで分かっていた。

初めて不意打ちをくらった人だった。


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| 「僕の一日」  | 16:12 │Comments3 | Trackbacks0編集

コメント

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2012.10.26(Fri) 00:14 | | |編集

>一人では大変なこともあるから。

ひとりで暮らしたことがある人の言葉ですね。

私も、北海道で一人暮らしをしたことが。
何とも思っていなかった、済んでいた大阪。
朝、何気なく見ていた番組、大阪の空が映っていて。
帰りたいな、と、思ったこと、思い出しました。
独りは気楽、でも、ひとりぼっちは変わらないから。
あんなにも、薄汚れた?青空が急に懐かしくなりましたね。

>逃げ出さない人がただひとり。
彼女は、逃げない。
逃げなかった。

運命の出逢いを感じます。

いつも訪問できずに、すいません。
応援☆彡☆彡

2012.12.21(Fri) 01:25 | URL | 雫|編集

雫さま
あけましておめでとうございます。
いっぱいの書き込みありがとうございます。
太陽は出ているけど風がとても強いお正月となりました。

大阪に住んでいたことがあるんですね。
大阪に行ったことがなくて、
あのワイワイした感じを味わってみたいなぁっていつも思ってます。
おいしい食べ物がいっぱいありそう。
それでも住めば住んだで地元が懐かしいとか思うんですよね。

乗り物酔いがかなりひどいので、
あまり旅行とか行けないのですが、
いつかゆっくり関西や九州にも行ってみたいです。


おそくなりましたが、どうぞ今年もよろしくお願いします。

2013.01.04(Fri) 14:54 | URL | ハル|編集

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