僕の一日  3

ガラス越しに見える空は青く、きれいだった。

何で空は青いんだろう。

ふと疑問に思った。
調べればすぐにでも答えが出てくるような、そんな簡単な疑問。

でも、科学的な根拠は聞きたくない。
そんなもの、いらない。

証明されたことなんて。

もう一度目をつぶって、両手で耳を塞いだ。
かすかに、キーンと耳鳴りのような高い音が聴こえてきた。

『これだけなら今日は大丈夫かな』

昨日よりはずっといい、そう思った瞬間。
耳を貫いた音。


遠くから聞こえてくる救急車のサイレン。
現実の音。

『っ・・・・』

口元を抑えて、その場にしゃがみ込んだ。
なんの制御もなく耳に流れ込んでくる。
どんどん近づいてくる。

『はぁ・・・はぁ・・・つっ・・・』

一気に呼吸が速くなる。
脈が乱れ打つ。
心臓の音が耳を打つ。
血がザワザワする。


『・・・はぁ・・・やめろ・・・』



思い出したくない。
やめてくれ。
触れないでくれ。
その記憶はダメなんだ。
その記憶だけは。

思い出させるな。
勝手に触るな。
人の中に入ってくるな。


自分では止められないんだ。


『うぁっ!!・・っ・・・はぁ・・・ぁ』


両耳を力任せに塞いで、部屋の隅に転がり込んだ。

身体の震えが止まらない。
見開いた目には何も映らない。
迫ってくる、言いしれない恐怖。

『違・・・っ・・・俺は・・・』


あぁ。薬を飲まないと。
そうすれば治まる。
眠れる。
この状態から解放される。

薬はドコに。
ドコに置いた。


部屋中を探し回る。
テーブルの上も、引き出しの中も、床の上にも、
手当たり次第、ひっくり返した。

ドコにも無い。

薬がないと ダメなんだよ。
薬が・・・。

ぎゅっと強く目を瞑ったとき、反射的に思い出す。
きつく閉じた目をゆっくり開きながら、ゴミ箱の方へ向ける。

沢山の薬の飲んだ跡。
そうだ。一気に飲んだんだ。

『・・・・はぁ・・・・・・』

薬はない。

この衝動を抑えないと、壊れてしまいそうだ。

呼吸は荒れたまま、テーブルに視線を戻し、歩き出す。


散らかったテーブルの上にゆっくりと手を伸ばす。

手にしたそれは色んな意味で使い慣れてしまった。
切れ味が悪くなって、何度かそれの刃を折った記憶がある。
そもそも仕事先で使おうと買ったはずだったのに、
今では別の目的のためにこんな部屋のテーブルの上に放置されている。

チキチキチキ。

刃をスライドさせる音。

ポタリ。ポタリ。そんな音が聞こえてきそう。 
血が床に落ちた。
その光景をただ見つめた。

だんだんと焦点は合わなくなっていき、その代わりに呼吸が落ち着いてきた。
こんなことをしても何の解決にもならない事は、よく分かっている。
分かっているけれど、これ以外の方法をまだ知らない。

どうやったら自分を保つことができるのだろう。


自分を維持するのに、何かの代償無しには無理なんだ。
今の自分には。



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| 「僕の一日」  | 16:09 │Comments0 | Trackbacks0編集

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