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2008-06-22(Sun) 18:19
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彼女はいつも 音楽を持ち歩いていた
イヤホンをし 音楽を流し込む事で 外の世界の音を聴かないようにしていた そうしなければ 下手に街中など歩けなかった
けれど 言った
「あなたが居てくれるなら イヤホンはいらない イヤホンをしたら あなたの声が聴こえなくなる」
どれだけ自分の声が彼女の安定を図っているかは分からなかったけれど 街中の 沢山の人間の声や色んな音 音楽に ラクでいられるわけはなかった
そしてよく 具合を悪くしていた
両手で耳を塞ぎ 外の世界から 自分そのものを遮断するかのように
涙目になりながら彼女が言った
「何か話して」
彼女が具合が悪くなる度 静かな場所を探し 彼女の髪を掬い上げ 直接聴こえるように
「大丈夫」
を 繰り返した
自分には それしか出来なかった 彼女の世界を 共有することは 出来ない それが 苦しかった
彼女の苦しみを少しでもラクにしてあげたくて 学校では席替えをしても休み時間になれば 彼女の隣へ 帰りはいつも一緒に帰った
そして 蒸し暑い 夏を迎えた
彼女は春にも増して 辛そうだった
“暑い” “マジで何とかしてくれ” “お前が暑苦しい”
そんな言葉が増えたせいだろう その言葉たちに 優しさが含まれていないのは自分でも分かる
『大丈夫? 屋上でも行こうか?』
昼休み 彼女に声をかけた
「・・・・んー そんな気力もないかも・・・・」
暑さと 人の声音にぐったりしていた
『保健室行かない? あそこならクーラーあるし 静かだし 保健の先生しかいないし』
「ん・・・・ごめ・・・・あの先生ダメなんだ・・・・」
悪びれた声で答えた
『そっか・・・・』
下敷きで彼女を扇ぎながら ひたすら昨日見たドラマの話をして 昼休みを過ごした
ようやく迎えた放課後
『すぐ帰ろうか?』
いつもより ぐったりとしている彼女が心配だった
「うん・・・・」
購買で冷たいジュースを買って 下駄箱で待っていた彼女の元へ走った
彼女が笑って 下駄箱に寄りかかっていた
「何で そんなに優しいの?」
『え・・・なんでって・・・・』
このとき 正直に
“好きだから”
その言葉を彼女へあげれば良かった
けれど そのときは恥ずかしくて何も言えず俯いたところに
「ジュース もらっていい?」
彼女が言った
帰り道は比較的 元気だった
静かな裏道を いつも歩いて帰っていたため 彼女が 眉間にシワを寄せる事は少なかった
それに 安心していた
「ねえ 聴いたことある? 空の音」
突然 彼女は言った
『空の音?』
怪訝そうに聞き返した
「そう この空から音が聴こえるの」
そう言って彼女は空を見上げた
『空からも聴こえるの?』
「うん 漠然とだけどね 気持ちがいいよ」
そう言って 彼女は髪を耳にかけた
「耳を開放するって 気持ちがいいなぁ」
もう カラになっているジュースの空き缶を手に 目を瞑り 空を見上げ 笑いながら言った
その姿を ただ見ていた
『・・・・耳の開放?』
静かに聞いた
「うん 完全に耳を外に出して 完全に素の状態で 全部の音を聴くの」
『・・・気持ち良い?』
自分にはまるでその感覚が分からなかったから聞くしかなかった
「うん 最高」
満面の笑みで答えた
その笑顔を見て嬉しくなり 暑いというのに 彼女の手を握った
そして 裏道を 二人 ゆっくりと歩いていた
彼女は笑っていた
僕も笑っていた
二人 笑っていた
その時の自分には聞こえていなかった
気が緩んでいたことには変わりはない
何も見えていなかった
何も聞こえていなかった
彼女の声以外
彼女が ラクだと感じていることに 喜びを感じていただけだったのかもしれない
手をつないで歩く帰り道 突然 彼女がつないでいた手を 一瞬強く握り 突き飛ばすように 僕を後ろへと回しながら
手を離した
『え?』
声になっていたかは分からない
ただ その彼女の行動で後ろへと転んだ自分に驚いているところに
音がした
本物の音がした
音が 見えた気がした
次に目に映ったのは
血を流しながら 目の前で倒れている 彼女の姿だった
何が なんだか 理解が出来なかった
転んでいる自分
その目の前に 血を流して倒れている彼女
そして 右を見て気付く
一台の車
運転席から出てきたのは 若い男の人だった
彼女に 何か声をかけているのが分かった
彼女は 反応しなかった
僕は道路に転んだまま その光景を見ていた
男の人は携帯電話で どこかに連絡をしていた
僕は手の伸ばした
手を伸ばせば 彼女は握ってくれる
それはいつもの事
けれど 今は握ってくれない
彼女から流れ出ているものは 赤い液体
そして理解する
彼女が 僕を庇って 車に轢かれたこと
その 開放している耳で 遠くの音を聞き 僕よりも 誰よりも早く 車が高速で向かってくるのを聴いた
『サヤカ!!』
我に返って 彼女の名を呼ぶ
返事はない
『おい!!サヤカ!!』
彼女を抱き上げた手を見て 頭が真っ白になる
真っ赤になった 自分の手
『サヤカ!!』
その声に 彼女が反応した
わずかに 眉間にシワを寄せた
『! サヤカ!! しっかりしろ!!』
「・・・・・」
うっすらと目を開き 僕を見たものの 声はなかった
彼女の口が 何かを言っている 動いている
自分には聴こえない 分からない
自分には聞こえない音を聴く耳がない
彼女のように 感情を聴くことも
しゃべらない空の声を聴くことも
それでも 彼女は何かを言っている
分からない
『サヤカ・・・分からないよ・・・・』
泣きながら 彼女を抱きしめる
一瞬でいい
彼女と同じ世界を共有させて
彼女と同じ 耳を 下さい
想いだけが 空回りする
彼女を もう一度見る
もう一度 名を呼ぶ
「・・・ぁ・・・・・・」
彼女の声が聞こえた
『サヤカ?!』
「・・・・・・・」
『おい!!』
大きく揺すっても反応のない身体
どんなに呼んでも反応もない
血まみれの彼女は もう動くことはなかった
ただ 静かに笑っていた
やっと暑さが和らぎだした
9月の夕暮れ
学校の帰り道
無機質な建物が並ぶ街の中
僕はまだ
彼女の恋人だった
 
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