冬の一日 9

9

「さて、次はどうする?」

宝石を買った余韻など微塵も感じさせない雰囲気で、
斉藤さんがぐるりと辺りを見渡した。

「行きたいお店とかある?」

極度の緊張から解放されどっと疲れがでてしまい、
もう何かを見て回る気力もなくなっていた。

「すみません、なんか、少し休みたいです」

プレゼントを買ってもらって疲れたなんて、
とんでもなく失礼なことを口にしたのに、
嫌な顔ひとつせず「カフェで休もうか」と言ってくれた。

斉藤さんの真横ではなく微妙に斜め後ろを歩きながら、
自分のダメさ加減にうなだれた。

これじゃあ、このままフラれそう。


カフェのレジカウンターでドリンクを注文すると、
「先に行って座ってて」と優しく背中を押される。

「え、でも……」

「いいから。座ってて」

財布を持った私の手をそっと押さえた。
何も言えずに頷いて奥の席へと向かう。

一番奥の席のゆったりとしたソファーに腰をおろすと、
ふわっと身体の力が抜けた。

「ふう……」

大きな深呼吸をしてレジへ目を向けると、
女性店員2人が頬を赤くして嬉しそうな顔でドリンクを用意していた。
キャッキャッと聞こえてきそうな様子。
斉藤さんといえば特にそれを気にするでもなく、
カウンター内の壁に書いてあるメニューをただ眺めていた。


どこに行っても斉藤さんは目立った。


このショッピングモールまでは斉藤さんの車だったから、
特に何も気にならなかったけれど、
建物内に入ってふたりで歩いていると、
何処からともなく視線を感じた。

最初は私が地味でダサすぎるから笑われているのかと思ったけど、
「さすがにそこまで酷くない……はず」と、よく回りを見ると、
視線は私にではなく隣にいる斉藤さんに向けられていた。
ほとんどが女性でチラチラと見る人もいれば、
すれ違うタイミングでじっと見つめる人もいた。

あるお店で一緒に商品を手にしながら話してたときも、
近くにいた女子高生が「イケメンじゃない?」と、
ヒソヒソと話す声が聞こえた。

斉藤さんにも聞こえてるはずなのに、
まったく反応を示さず、周囲の視線も完全に無視していた。

きっと慣れているんだ。


うちの店でも仕事をしている最中に女性客の会話から、
斉藤さんのことを話しているのが聞こえてくることがある。
斉藤さんがレジに立てば女性が嬉しそうな顔で会計をするし、
品出ししていれば話しかけられて作業する手を止めることもしばしば。
うちの雑貨屋がやけに若い女性客が多いのは、
斉藤さん目当てなんじゃないかと思う程。
実際、お客さんに斉藤さんの電話番号を教えて欲しいと言われたことも、
連絡先が書かれた手紙を渡すように頼まれたことも何度もある。

直接斉藤さんに番号が書かれた手紙を渡す女性もいるけれど、
そういったものはすべてその日のうちに、
バックルームにあるシュレッターに飲み込まれていることを、
渡した女性たちはもちろん知らない。

仕事を終えて帰ろうとお店を出たところで告白されているのを見かけたときは、
モテるという事は大変なんだと、心底思った。
顔が良ければ人生楽勝ぐらいに思っていたけれど、
あまりにも良すぎるとこれもまた困りものなのだと、
斉藤さんに出会って初めて知った。


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| 「僕の一日」  | 15:14 │Comments0 | Trackbacks0編集

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