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僕の一日 114

薬をもらってから30分ぐらい時間が経つと、次第に痛みがひいていった。
頭痛薬を飲んだことがなかったけれど、ここまで効くとは思っていなかった。
感動ものだ。

バックルームを出るとレジには斉藤さんが立っていた。

「お、大丈夫?」

『はい、もう落ち着きました』

「良かった、効いて」

『びっくりしました。すごい効くんですね』

「うん。でも効くからってあんまり飲んじゃだめだよ。
 逆に頭痛がひどくなったり薬が効きにくくなるから」

『そうなんですか?買って常備しようかと思ってたんですけど』

「念のために買っておくのは良いけど、頻繁に飲んじゃだめだよ」


笑顔で答える姿に、「頭痛持ちなんですか?」と聞けず、
小さな声で「わかりました」とだけ呟いた。

「よし、じゃあ調子が戻ったなら相沢から仕事引き継いでもらえる?
 そろそろ上がりの時間だから」

『はい』


相沢さんのところに向かう前に、
石川さんが作業しているところへ行き、
もう大丈夫だということだけを伝えた。

「そっか、良かった」

いつものように優しく彼女が笑った。

ぎゅっと、胸が締め付けられた。

なんだか泣きそうになってしまい、急いでその場を離れた。
そんな俺を見た相沢さんが困った顔で小さくため息をついた。

「そういう姿を見るたびに切なくなるよ」
 
『……すみません』

「私こそごめん、少し言い過ぎた」

『いえ、正直なところ……言われてやっと気づいたというか……』

「そっか」

『はい……』

あとで電話してもいいかと聞こうと思ったが、やめた。
相沢さんに聞いても状況は何も変わらない。

自分でなんとかするしかない。

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| 「僕の一日」  | 16:47 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 113

「不毛な恋」をしている自覚がなかっただけに、
相沢さんの一言は衝撃が大きかった。

不毛って……。
不毛ってなんだ。
不毛な恋?不毛な恋愛?
俺の場合は恋愛してるわけじゃないから……恋愛って相手と思いあっての言葉だよな。
一方通行は片思いになるし。

辞書にどう書いてあるか知らないけど、
恋愛は相手がいて成り立ってる恋のことを指してるのだろうし、
恋は恋愛のような意味もあるだろうし、一方的に思う意味も含まれてるはず。

恋と恋愛の違いって?
あれ?

違う違う。
そこじゃなくて、
相沢さが言った意味での「不毛な恋」は、
多分、敵わない恋っていう意味。
片思いで終わってしまうっていう……。
だから不毛……。


確かに進展もなく先の見えない関係だし、
今の状況が変わってしまうのを怖がっている部分もある。

でもそれは俺がいまの関係を壊したくないからで、
行動を起こせば何かが変わるはず。


きつく目を閉じて深く息を吸うと、
急にズキズキと頭と目が痛み出した。


『……頭……いてぇ』

「え?」

『え?』

「え?頭い痛いって言ったよね」

『声に出てた?!』

「うん」


いつの間にか隣にいた石川さんに気づかずに、突っ立っていたらしい。
接客を終えてレジに戻ってきていた。

「頭痛いって、大丈夫?」

『あ、うん、ごめん平気平気!』

「……顔色悪いけど」

『いや、ほんとに大丈夫』

「少し休む?」

『いや、忙しいし平気!』

「なにしたの?」


がこん、と台車を立てかけて、
ゴミ捨てから帰ってきた相沢さんが会話に入ってきた。

「有利くんが頭痛いって」

「なに、なんでさっき言わなかったの?」

『あーいえ、多分、片頭痛なんで大丈夫です』


あ、痛みが増してきた。
もうなんだっていうんだ。

「片頭痛って。それって酷いじゃん。薬とか持ってないの?」

『ないです……』

痛い。ガンガンする。
目も痛い。
なんだ急に。

「私レジ入ってるから少し休みな」

相沢さんがレジの責任者番号を打ちかえる。

『いえ、大丈夫なので……相沢さん早番だし』

「なに言ってんの。いいから少し休みなさい。
 ミサ、バックルームで休ませて」

「はい」

『あ、ほんとに大丈……いっ……』

ドクンドクンど頭に響く。
吐き気までしてきた。

「ほら、少し休もう」


バックルームのドアを開けて俺の背を優しく押した。
なるべく頭を動かさないように静かに歩く。

「どうした?」

斉藤さんが俺を見て立ち上がった。

「急に頭が痛いって」

『いや、大丈夫です』

石川さんの言葉にあわてて否定するも、
横になりたいぐらい痛くなっていた。
眉間にシワを寄せてしまう。

「片頭痛か?」

『多分……』

壁に立てかけてある折り畳みの椅子を俺の前に置いて、
「とにかく座れ」と斉藤さんが言った。
静かに刺激を与えないように座ったが、痛みは増す一方だった。

「石川はレジに戻って。相沢ひとりじゃキツイから」

「あ……わかりました」

斉藤さんの言葉に、そっと俺のそばを離れて彼女がバックルームを出て行った。
音がしないように静かにドアを閉めるのを見ながら、痛む頭を押さえた。


「なんだ天気でも悪くなるのかな」

『え?』

「気圧の変化で頭痛くなる人もいるんだよ」

『そうなんですか……』

覇気のない声で返事をすると、斉藤さんが顔を覗き込むようにしゃがんだ。

「熱は?」

『たぶん、ないです』

「ズキンズキン、ガンガン痛い?」

『はい』

「動くと痛みが増す?」

『はい』

「うん、片頭痛だね」

納得したような表情で自分のカバンをロッカーから取り出した。

「頭痛薬があったはずなんだけど」

『あー……少し休めば大丈夫なのでホントに』

「うーんと、あ、あったコレコレ」

手にしているのは見たことのないタイプの包装シートだ。
バファリンかなにかだろうか。

「水なしで飲めるんだよコレ。
 有利くんは普段なにか薬飲んでる?」

『え?』

「飲み合わせが悪いものがあるからこの薬」

『えーっと……』

「……なんか飲んでるのかな」

『……』


彼女以外、誰にも精神科に通っていることは言っていない。
親にすら。
他の人には知られたくない。


「その薬、飲んでからどのくらい経ったかは言える?」

『朝、食後に飲んだので……えーと……』

「よし、じゃあ次。
 今日、別の頭痛薬を飲んでないよね?
 身体のどこかが悪いとかもないよね?」

心臓のあたりを指さしながら、確認するように言った。
なんでそんなこと聞いてくるんだろう。
キツイ薬なんだろうか。
それとも頭痛薬は飲み方を注意しなきゃいけないものなんだろうか。

『えーと頭痛薬は飲んだことないし、
 ……えーと、健康体のはずです』

「よし、じゃぁ大丈夫だ。口の中で溶かして唾飲んで」

プチっと掌に出された薬を言われるがまま口の中で溶かした。

「あとは効いてくるまで少し休んで。その間は俺が出てるから」

『すみません……』

「あ、目を閉じてるといいよ。
 光刺激を与えない方がいいから」

『はい……すみません……』

「じゃあゆっくり、あ!」

『え?』

ドアノブに手をかけたまま斉藤さんが振り返った。

「俺から薬もらったっていうのは誰にも言わないでね」

『わかりました』

「うん、お願いね」

口に人差し指をあててにっこり笑ってバックルームを出て行った。
斉藤さんも頭痛持ちなんだろうか。

『はぁぁ……』

 
痛い。
気持ち悪い。

全部が、嫌になってくる。

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| 「僕の一日」  | 01:54 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 112

斉藤さんの車に石川さんが乗り込む姿を目撃後、
俺からは一度も連絡はとっていないし、
以前はよく送られてきていたメールも途絶えた。
当然、仕事場で会うし話もするが、
以前のように個人的な話をうまく出来なくなっていた。

石川さん自身は特に何も変わっていないよに見えるが……。

「ミサ、最近なんだか元気だね」

積み上げられていた段ボールをレジの横で手早くたたみながら相沢さんが呟いた。
視線の先には笑顔で接客をしている石川さんがいる。

『そうですね、石川さん元気ですよね』

「年明けまで忙しいし、元気なのは良いんだけど」

器用に一つの段ボールに詰め込んで台車に載せた。

「さて、ゴミ捨てに行ってくるよ。ほかにはない?」

『あ、事務所にあるの持ってきます』

急いでバックルームに入ると、
店長の机でパソコンと向き合っている斉藤さんがいた。

「ん?どうした?」

視線に気づいた斉藤さが手を止める。

『あ、いえ、ゴミを持っていこうと……』

「あぁ、ありがと」


机の横に積んである特大のごみ袋を2つ手渡され、
『すみません』と小声で言いながら受け取った。

斉藤さんも特に何も変わった様子はなく、
いつものように淡々と仕事をこなしていた。



あれは単に駅まで送って行っただけなのかもしれない。



自分も同時に仕事を終えて帰るついでに最寄駅まで送った、と、
そう都合よく考えたところで結局は消化不良のまま、
俺は悶々とした日々を送っていた。

気を紛らわすように早番の時は仕事が終わり次第すぐに帰ってホストクラブへ向かい、
勧んで客に連絡をとるようなっていた。
歩さんからはメールはあるが、会いに来ることはなくなった。
冬休み前で忙しいらしい。

バックルームのドアを後ろ手に閉めて、大きく息を吸い込んだ。

「有利はクリスマスの約束ないの?」

俺からごみ袋を受け取り、
段ボールの山の上に無理矢理のせて落ちないようにガムテープで留めながら、
唐突な質問をしてきた。

相沢さんはときどき心臓に悪いことを聞いてくる。

『約束?』

「女の人と」

『あ、えー……残念なことに……』

「そんだけカッコ良くて彼女いないって、逆に疑われない?」

『え?何をですか?』

「ソッチ系なのかとか」

小指を立ててにっこり笑う姿に言いたいことを理解して、
高速で左右に首を振り否定した。

まったくそんな気はない。
一度だって思ったことがない。
それだけは断言できる。

っていうか今までそんな風に思われてたのか……。

『それはないですよ……なんていうか、作ろうと思わないのが悪いんですかね』

「不毛な恋は辛くなるだけだよ」

『……』

少しの間を置いて、
「じゃぁ捨ててくるね」と言って台車を押してお店を出ていく相沢さんに、
返す言葉が浮かばず、無言で後ろ姿を見送った。

相沢さんは何か知っているのかもしれない。

不毛だと言いきってしまえる何かを。


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| 「僕の一日」  | 14:00 │Comments0 | Trackbacks0編集

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