僕の一日 110

いつのまにか降り出した雨のせいで、道路には水たまりができ始めていた。

お店に放置されている大量の傘の中から透明のものを2本失敬して、
早歩きで歩さんが待つファミレスに向かった。

お店の前に着き、入り口から店内を見ると、
まえと同じ席に座っている歩さんのところにサラリーマン風の男性2人が座っていた。

『……知り合い?のわけないか』

一瞬考えてから、かぶりを振って店内に入った。

「いらっしゃいませ~。一名様で~」と、
笑顔で言う店員の声を無視して彼女の席へと急いだ。

『ごめん、待たせた』

硬直していた歩さんが俺を見るなり、
反射的に俺の袖口をつかんで何度も頭を横に振った。

「なんだよ~兄ちゃんも狙ってんのかよ~」

場違いな言葉が向かいの席から発せられる。
酔っ払いの中年オヤジ2人に絡まれ歩さんは、すっかり怯えてしまっていた。

『行こう』

歩さんの手を引いてその場を去ろうとすると、
酔っ払いの1人が俺の前に立ちふさがった。

「なんだよ~、ちょっとぐらい良いじゃねーかよ」

『……』

返事もせず伝票を抜き取り、そのままレジに向かった。
「無視すんじゃねーよ」と言いながら近づいてきたが、
怯える歩さんをかばいながら会計を済ませて店を出た。
酔っ払いも一緒についてこようとしていたが、
どうやら自分たちが食べていた分を支払っていなかったようで、
不穏な空気を察した店員に呼ばれた年配の男性スタッフに止められていた。

コートを手にしたままの歩さんに着るようにうながし、
持っていた傘を開いてから差し出した。

「あの、この傘は……」

『お店にいっぱいあるから持って帰っていいよ』

「ありがとうございます」

『ごめんね、来るのが遅れて』

「そんな、私が付き合ってもらってるのに」

『ファミレスは安全だと思ってたんだけどなぁ』

「私もびっくりしました」


可愛いから仕方ない、とは言えない。
知らない人に絡まれるだけでも怖いのに。

『さて、どこに入ろうか?
 カウンター席とか狭い居酒屋は、ちょっと嫌だよね?」

「……すみません」

となる入れる店は限られてくる。
この時間になると閉店し始めるお店が多い。

どうするか考えていると、
向かい側からすっかり出来上がっているサラリーマン集団が歩いてきた。
サッと俺の陰に身を隠す歩さんを見て、
早くどこか見つけなければと、携帯を取り出してネットで調べた。

『うーん……この辺だと個室がある居酒屋か、あとはカラオケとかかなぁ……』

「あの、どこでも……」

申し訳なさそうに呟く。

『とは言っても』

歩さんが一番大変なのかもしれないけれど、
目を離した隙に絡まれたりナンパされるのを追っ払う俺も大変なのだ。
酔っぱらっている人が多いだけに居酒屋は気を付けなければならない。

『個室空いてるか電話してみるか』

カラオケはちょっと話をするにはあんまり向いてないし、
個室のある居酒屋に電話をかけて空いてるか聞いてみることにした。


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| 「僕の一日」  | 02:54 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 109

繁華街の一画にある店の中で、
綺麗に積み上げられたシャンパンタワーを眺めながら隣に座る女性の話を聞いていた。
今日が初めてのホストクラブだというOL。

『そうなんですか』

切れの悪い返事ばかりを繰り返している自分に気づきながらも、
気持ちがついてこないことに苛立っていた。
すり寄ってくるOLを遠ざけたい気持ちを抑えながら、
シャンパンを口に運んだ。

『新しいグラス持ってきますね』

空になりそうなグラスに気づいて席をはずし、
バーカウンターでドリンクを作っている片桐のところへ向かった。

「顔色悪いですね」

グラスを洗う手を止めて心配そうに言った。

『体調が悪いわけじゃないんだけど』

新しいグラスにシャンパンを注ぎながら深いため息をつく。

「あんまり無理しちゃダメですよ」

『そうだね。ありがとう』

ふたつのグラスを手にお客が待つテーブルへ向かおうとすると、
ポケットに入れている携帯が震えた。

『もしもし?歩さん?』

いったんグラスを置いて店の隅へ移動しながら電話に出た。

「あ、すみません!お仕事中でしたか?」

周りの音にかき消されそうな小さな声。
反対側の耳を塞いだ。

『うん。どうしたの?』

「あの、メールすればよかったんですけど……」

『うん?』

「あ、今日、そっちに行っても……」

『え?お店に?』

「いえ!お時間をいただけるなら少し会えないかなって」

『あー……えーとね……』

店内を見回しながら携帯に届いていたメールを思い返した。
そんなに混んでいるわけでもないし、約束があるわけじゃない。

『日付変わってもいいなら会えるけど、電車なくなるけど大丈夫?
 もしかしたら送れないかもしれないよ?』

「平気です。なんとかするので」

『わかった。じゃあ終わったら連絡するか、ファミレスで待ってて貰える?』

「わかりました、それじゃあ」

『うん、あとで』

通話を終わらせ携帯をしまった。
なんだか今日は、気持ちがついてこない。

『はぁぁ』

歩さんに会えば少しは気持ちも落ち着くかもしれないけど、
俺の方が愚痴を言ってしまいそうな気がした。

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| 「僕の一日」  | 06:27 │Comments0 | Trackbacks0編集

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