春の一日 21

21


頼まれたクリスマスのCDも無事に購入し、
店を出ようとしていたところを呼び止められる。

「ちょっと……」

悪人顔が可愛く手招きをする姿を見て、
有利くんに車の鍵を渡し、先に戻る様に伝えた。
被害者が出てはいけないと本気で思った。


「あのさ、あの子ってお前と一緒の雑貨屋で働いてるんだよな?」

店をあとにする有利くんを目で追いながら彼が言う。

「そうですけど?なんでですか?
 ダメですよ。モデル頼もうとしても。
 本人嫌がりますよ絶対」

「違う違う、そうじゃない」

真面目な顔で言葉を続ける。

「俺、あの子見たことあるんだよ」

「え?」

言葉の意味を理解しかねて聞き返した。

「お前のとこのショップじゃなくて、歓楽街で見た気がするんだ」

「……歓楽街?」

「あぁ。ここから結構離れたところにある×××なんだが、
 たぶんあの子で間違いない」

「×××?
 あぁ、有名ですね……ただ歩いていた、という訳じゃなく?」

「あれは店で働いてるよ。スーツを着ていたし、隣にキャバ嬢っぽい女もいた。
 間違いない。
 髪はきっちりセットしてあったし雰囲気もだいぶ違うけど、
 あんな良い顔した男そうそういない。
 だからこそ覚えていたんだ」

「……まさか」

有利くんは週に5日は出勤しているし、
シフトの希望も特に出していない。

そもそも、ホストだなんて、あの性格で……。

「あの顔なら、毎日働かなくても客はつくだろうよ。
 人当たりもいいし、モテると思うよ」

「……」

「お前んとこもバイト扱いなんだよな?
 だったら他で何してようと勝手だし、
 そっちに迷惑かけてないなら、違法なことじゃなければ構わないだろうし。
 ただ少し気になったから言ってみただけだ」

「そうですか……すみません櫻井さん、あとで電話します」


ホストクラブで働いている?

単にキャバ嬢みたいな女が好きで、
それに合わせるためにスーツを着ていたとか、
もしくはキャバ嬢の送迎ドライバーをしていて、
たまたまコンビニなんかに買い物に行くのに付き合っていたとかではなく?

あれ?
有利くんって車の免許持ってたっけ?
そもそもこの辺から離れたとこでホストやってたら、
帰りの電車もないし、早番のときこっちの仕事に間に合わなくなるんじゃないのか?
それとも終電に間に合うように上がっている?
ホストクラブの寮なんかで休めるシステムとか?

「……」

彼から、水商売の匂いはしない。
酒、煙草はしないし、服も持っている物も高いものじゃない。
住んでいる部屋も普通だったし、
むしろ物は少なくて生活感のない部屋だった。
煙草の匂いが部屋から感じられたが、
おそらく以前住んでいた人の物だろう。
余計なお金は使っていないないように見えたが。


仮にホストをやってるとして、その金はなんのために?

欲しいものがある、借金、貢ぐ為、家族の為。

あの性格から考えるに、自分の借金や貢ぐためとは思えない。
となると、家族の為か、親の借金か。



もんもんと考えながら歩いてる間に駐車場にたどり着いていた。
助手席の窓からキョロキョロと俺を探す有利の顔をみて、小さくため息をついた。
考えても答えは出ない。
本人に聞くしないが、あまり踏み込むのもどうかと思うし、
今のところ仕事に影響が出ていないんだから、そっとしておくのが良いだろう。

……いや、仕事に影響は出ていた。

体力的にキツければ、身体も壊しやすくなる。
先日、休んだのがその影響を受けていないと考えるのは難しい。
だとすると少し調べて……。

調べてどうする?
ホストをやっていたとしても、辞めろと言えるほど迷惑はかかっていないし、
アルバイトだし、かけもちは何の問題ない。

性格的に自分がどれだけ通用するか知りたい、とか、
自分の接客スキルをアップさせるためにホストをしているとは考えにくい。

要するに金の為に働いている。
雑貨屋のの給料や深夜のコンビニではどうしようもない額の金を必要としているということ。

「お金ね……」

少し、様子をみてみることにしよう。


「ごめん、待たせた」

運転席のドアを開けて身体を滑り込ませた。
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 02:01 │Comments0 | Trackbacks0編集

春の一日 20

20


大失態にへこみながらも、シャワーを浴びてひと眠りした。
11時半に起きて、彼女が作り置きしてくれていたごはんを温めて食べ、仕事に向かった。
今度は雑貨屋のほうだ。


出社してすぐに店長から買い物を頼まれる。
クリスマス関連のものを有利くんと買ってきてほしい、とのこと。

「クリスマスソングが入ったCDがどうしても見つからないんだよー」

と泣きそうな顔で言っていたが、店長が物を失くすのはいつものことだ。
どうせ適当にしまって、適当なところに紛れて、適当なところで眠っているんだろう。
前に「俺のタイムカードがない!」と騒いだことがあったが、
翌月に家で読んでいる本に挟まっていたと告白された時には、
開いた口がふさがらなかった。


このあたりでCDショップは一カ所しかない。
知り合いが働いているから行きたくなかったのだが仕方がない。
見た目も強烈で子供が見たら泣き出しそうなぐらい強面でマッチョで地黒の190センチの大男。
とにかく、イカツイ。

休憩中であってくれと、心の中で願っていたが、
あっさりと見つかってしまう。

この人が嫌いなわけじゃない。
一時は仲良くしていたし、面倒を見てもらっていた。
でも、今の俺にはこの人の存在が羨ましすぎて、
自分が情けなく思えてしまうから、連絡を取らないようにしていた。


好きなことを仕事に出来る人は一握りしかいない。

やりたいことを仕事に出来る人が羨ましかった。
俺もあんな風に好きなことを仕事にしたいと思った。


決心したのは28歳のとき。


期限付きではあるが、念願の販売の仕事に就けた。
それだけで嬉しかった。
そのときの気持ちを忘れたことは一度もない。
だからこそ、この先もずっと好きな音楽に関わる仕事を続けるだろうこの人に、
会いたくなかった。

にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 17:04 │Comments0 | Trackbacks0編集

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア