スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- │Comment- | Trackback-│編集

僕の一日 104

俺が車に乗ってから5分としないうちに斉藤さんは戻ってきた。

「ごめん、待たせた」

『気にしないでください。もういいんですか?』

「うん、あと電話で話そうってことになったから」

シートベルトを締めてエンジンをかけながら斉藤さんが言った。

「あとは店内の装飾品だっけ?」

『はい。この辺だとどこで売ってますかね?』

「あー、おもちゃ屋はないしなぁ。うーん……」

カーナビ画面を見ながら斉藤さんが唸った。

「インテリアショップに行けばかなりあるんだけど、
 少し遠いんだよなあ……あー……でも、まぁいいか、行こう」

手早く目的地をカーナビに入力し、最短ルートを調べた。

「有利くんは車の運転しないんだっけ?」

『免許持ってないんです』

「そうか……うーん、じゃぁ大きい買い物なんかは大変だよね」

『大きいもの配送してもらってます』

「そっか」

いつも通り斉藤さんから話題を振られて、いつものように答えていた。
でも。
なにかがいつもと違う。

『……どうか、しましたか?』

もしかしたら、強面のCDショップの店員になにか言われたのかもしれない。

「あー、いや、大したことじゃない」

『もしかして、さっきのP.Vがどうのって話ですか?』

「違う違う。それじゃないよ。そのことは忘れて。
 有利くんがやりたいっていうなら、別だけど」

『いえ!嫌です!』

「でしょ?気にしないで」


メガネのフレームを抑え、いつも通りに笑いながら、静かに車を走らせた。

「有利くんて仕事ないときはいつも何してるの?」

『休みのときはほとんど家のことをしてます。
 洗濯とか掃除とか、たまっちゃうんで』

「そっか」

『なんでですか?』

「うん?なんとなく、有利くんの休日は謎だなぁって思って」

『そうですか?普通ですよ』

「だよねぇ」

笑顔で運転をする斉藤さんの隣で、
プライベートなことを聞かれるのは2度目だ。

「俺も休みの日はなんだかんだで忙しくて、
 洗濯もまとめてするし、掃除はルンバにまかせっきりだし、
 買い物も週1でまとめ買いするんだよね。
 よく雑誌で休日に出かけて買い物して映画見て、なんてあるけど、
 そんなの無理だってツッコミ入れたくなるんだよねー」

『それはわかります。
 休みの日ぐらい寝ていたいですよね』
 
つい先日そんなプランを立てて、結局ダメだったばかりだ。

「そうそう、たまに丸1日眠り続けたいとか思うよ」



笑いながら話す姿に、感じた違和感は消えて行った。


斉藤さんがどこまで考えて俺と会話をしているのかなんて、
深く考えたこともなかった。
単に洞察力や記憶力が普通より良い、という程度にしか思っていなかった。

にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 00:58 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 103

『すみません、じゃあコレからお願いします』

斉藤さんから渡された1万円を手渡した。

「葵と同じ店で働いてんの?」

『はい』

「そうか、アイツ忙しい?」

『俺よりずっと忙しいです。
 お店のこと全部していますし……』

「ふーん、そうか……」

領収書を書きながら少しだけ寂しそうにつぶやく。

『あの、斉藤さんは音楽に詳しいんですか?』

「え?」

手を止めてこっちを見る目に、心臓が鳴る。
強面だが真っ直ぐで綺麗な目をしていた。

「知らない?
 葵は音楽好きだし、たまにだけど知り合いのバンドに参加していたんだよ」

『え?!』

「正式なメンバーじゃなかったけどね。
 インディーズではそこそこ有名なバンドだったんだが、
 もう10年以上も前の話だから、若い君は知らなくて当然かもな」

領収書とお釣りをカルトンにのせると、
ポケットからスマホを取り出した。

「ほら、これがその頃の葵」

差し出されたスマホの画面には金髪の青年が、
こちらを射抜くような強い目で見つめていた。

真っ青な瞳に光に透ける金色の髪。
艶のある女性のような白い肌。

「俺がやってるバンドのジャケットになってもらった時のものだよ。
 アイツが高校のときだ」

真正面の顔のアップ写真。
それだけ。

「驚くだろう?
 加工は一切していないし、
 その写真を撮ったのも俺の知り合いのただのカメラ好きなヤツなんだ。
 インディーズだから金もかけられなくて、
 でもインパクトのあるジャケにしたくて、アイツにお願いしたんだ」

『……すごい、ですね。この髪や目は?』

「髪はそのとき染めて、目はカラコン入れただけだよ。
 なのにその完成度なんだ。
 アイツのおかげでジャケ買いしてくれる人もいたし、
 いろんな人が目をつけてくれるようになったんだ」


初めて会って自己紹介されたとき、
店長からモデルの仕事をしていたと聞いたけれど、
それを見るのは初めてだった。
なんでモデルの仕事を辞めたのか理由は分からないが、
周囲がそれを止めただろうことは容易に想像出来た。

「ジャケットは大事だから、いまでもあいつにお願いしたいって何度も思うけど、
 モデルの仕事はやらないって断られ続けてさ」

『そうなんですか……』

画面に映る高校時代の斉藤さんを食い入る様に見つめていると、
眉間にシワを寄せてジッと顔を覗き込まれた。

『……え、っと……』

「君さ、前髪で隠してる風だけどイケメンじゃない?」

『え?』

「ちょっと前髪上げてみて」

『え、いや、ちょ……』

失礼かもしれないが、人を平気で殺しそうなぐらい怖い顔で近づかれると、
フリーズしてしまうのは俺だけじゃないと思う。

「あまりにフツーの髪型だからわかんなかったけど、
 君もかなりのイケメンじゃないか。
 肌も白くて綺麗だし髪もサラサラだ」

『あの……』

「うちのスタッフに手を出すのやめてもらえます?」

ゴツゴツした大きく太い手で前髪を上げられ、
あと数センチというところまで顔を近付けられたところに斉藤さんの声がした。
この時ばかりは斉藤さんの声が天使のものに聞こえた。

「まったく……だから見つからないようにと思っていたのに……」

「この辺でCDショップなんてうちだけだからな」

俺の髪から手を離し、
斉藤さんが持って来たCDを受け取った。

「カッコイイ人見つけて自分の商売に使うのやめてください」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし」

呆然と斉藤さんを見つめていると、
ため息をついて呆れた声で言った。

「この人の言ったことは無視していいから。
 自分がこんなんだから女受け良さそうな顔した人を、
 ジャケやプロモーションビデオに使おうとするんだ。
 まったく詐欺もいいとこだよ」

「あ、テメー!詐欺じゃないだろう!
 P.Vでなにを使おうとそれはその人の勝手!
 商売としてなんら問題ないはずだ!」

俺の頭をポンポンと優しく触りながら斉藤さんが言い返す。

「何を言ってるんですか。
 本人怯えてるとこにそんな話して適当にうなずかせて使おうとしたんでしょ?
 嫌でも頼まれごとを断れないタイプの人間がいることを頭に入れてください」

「おまえ、相変わらずだな……友達できねーぞ」

「間に合ってるので結構です」

相手の言葉にかぶせ気味に話す斉藤さんの表情が、
はっきりと拒絶の表情を示していた。
かなり珍しい。

「まぁ、いいさ」

急に興味を失くしたかのように、フイっと視線をはずし、
斉藤さんが持って来たCDをレジに通した。

「お前がいま何に必死になってるかわからねーけど、あんまり流されんなよ」

「わかっていますよ」

さっきまでの攻撃的な言葉が嘘のように、
親しみを込めた笑顔をみせた。


斉藤さんの会計も終わり、「それじゃあ」と軽く頭を下げ、
店を出ようと歩き出すと強面店員が斉藤さんを呼び止めた。

「葵!」

「はい?」

財布をカバンにしまいながら振り向いた。

「ちょっと……」

手招きする店員を見て、斉藤さんが俺に車の鍵を渡してきた。

「ごめん、先に車に戻っててもらえるかな?」

『はい』

断る理由もなく、鍵を受け取ってお店を出た。
何を話すのか少し気になるけれど、
俺には関係ないことだし、詮索するのも野暮というもの。
車の中で大人しく待つことにした。

にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 02:15 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 102

店長に頼まれたおつかいは、
クリスマスのときに使用するラッピング用のリボンや包装紙に、
店内で流すCDを2~3枚、店内を飾り付ける小物を適当に買ってくること。

「CDはどっかいっちゃて見つからないらしくて、
 小物は一応あったんだけど、あまりに汚いから新しくするんだって」

斉藤さんの車で向かった先は、大手CDショップ。
音楽をほとんど聞かない俺は、
いま流行っているアーティストは誰なのかよくわからない。
斉藤さんもあまり音楽の話はしないし、
イヤホンを耳にしている姿も見たことがない。
そんなふたりが店内で流すCDを探すなんて……大丈夫だろうか。

『俺、あんまり音楽のこと分かんないですけど、
 斉藤さんは何聞くんですか?』

「俺?うーん、実を言うと最近のは俺もわかんないや」

CDショップが入るビルに車を滑り込ませながら、いたずらっぽく言った。

「去年に何枚かクリスマスのオムニバスCD買ったからそれを使うと思ってたんだけど、
 どうやら失くしたみたいなんだよね、そのCD。
 俺も探したけど見当たらないからさぁ……まぁあの通りの人だし、
 すぐにモノを失くす人だからさぁ、店長さぁ……」

『……今年は分かりやすいところにしまった方がいいですね』

めずらしく愚痴る斉藤さんに同調しながら、
車を降りてお店へ向かった。



CDショップなんていつ以来だろう。
俺が学生の頃に流行っていた人たちは今も歌っているのだろうか。

『何を目安に買うんですか?』

「うーん、この時期だと各ジャンルのオムニバスのコーナーに、
 いくつか置いてると思うからそれを買おうと思うんだけど」

そう言いながら店内を見渡すと、
クリスマスソング関係のCDをまとめて展開している平台があった。


そして俺も斉藤さんも凍りつく。
オムニバスCDだけでも種類がたくさんあって何が何だか分からないのだ。

「邦楽と洋楽とそれぞれ1枚ずつでいいかな?」

『いいと思います』

「でもどれがいいと思う?有名どころしか分かんないんだよ俺」

『俺は全然わかりません』

「見比べると結構かぶってるのが多いんだよね」

『曲数と値段とを比べるとか』

「うーん、そうだな……」


ふたりでCDを手にしながら唸っていると、
店員がこっちを見ていることに気づいた。

「葵?」

一度見たら忘れられないぐらいインパクトのある髪型をした強面の店員が、
驚いた顔で斉藤さんの名前を呼んだ。


「こんにちわ。お久しぶりです」

斉藤さんが強面の店員に挨拶をする。

「最近さっぱり連絡よこさないじゃんかよ。
 元気にしてんのか?」

「おかげさまで、忙しくしてますよ」

斉藤さんの知り合いらしい。

それにしてもすごい強烈な個性が体中からにじみ出ている人だ。
身長も190センチ以上ある。
横にも大きく筋骨隆々。
ドスのきいた声。
目は細く切れ長で、肌は真夏のサーファー並みに黒い。

この店で、万引きはできない。きっと無理。

「店内で使うクリスマスのCD探してるんですけど、
 いいのってどれですかね?」

「あぁ、去年も同じようなことでウチの店来たよな。
 あれで十分間に合うと思うんだけど、ダメなのか?」

「店長が失くしたんで、また買わなきゃいけないんです」

「それはまぁ、面倒だなー」

「ウチは儲かるけどな」と笑いながらCDを選んでくれ、
社販にしてあげるよと言ってくれた。

「そーいえば紗枝は元気か?」

「元気だと思いますよ。最近連絡してないですけど」

「なんだよ、みずくさいな」

「自分で連絡取ったらどうですか?
 携帯の番号は変わってないですよ」

「俺が電話して旦那さんに勘違いされんのが嫌なんだよ。
 そういったので痛い目に合ってるからな。
 用事がないときは連絡しないようにしてるのさ」

CDを3枚手に取りレジへ向かう店員の後ろを俺と斉藤さんはついて行った。

「この前出た新曲聞いたか?」

「誰のです?」

CDにつけられているタグをはずし、
バーコードを読み込ませながら聞いた店員の言葉に、
少し冷たい口調で斉藤さんが聞き返した。

「……お前、ほんと音楽から離れたなあ……。
 アイツら新曲だしたんだよ」

ため息交じりの声で、寂しそうに言った。

「それじゃぁ、買うかな。
 有利くん、このお金でお会計しててもらえる?
 領収書の但し書きは備品代にしてもらって」

『あ、はい』

その場を逃げるように俺へ1万円を握らせて、
邦楽の売り場えと向かって言った。

ふたりの会話の中に気になる部分がいくつかあったけれど、
俺が首を突っ込んでいい話じゃない。
きっとこの2人はずっと前からの知り合いなんだろう。
斉藤さんのぶっきらぼうな態度は心を許してる証拠に思えた。

にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 02:37 │Comments2 | Trackbacks0編集

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。