僕の一日 101

特に何事もなく夕方になり、元気よく学校帰りの奥村くんが出勤してきた。

「お疲れさまでーす!あ、石川さん!大丈夫っスか?!
 いつ復活したんスか?!マジで心配しましたよ!!」

レジ近くで商品を並べていた俺と石川さんを見つけるなり、
足早に駆け寄った。

「あー、ごめんね、もう大丈夫だから。
 おとといに遅番だったかな?」

「そーかー。でも良かった。元気そうで」

「ありがと」

少し照れながら奥村くんに笑いかけた。

「奥村来たか?」

バックルームから店長が書類を手に眠そうな目をこすりながら出てきた。

「準備終わったら石川早番だから交代して作業引き継いでもらえる?
 あと有利は斉藤と買い出しに行ってもらいたい」

差し出された用紙に、クリスマスで使用するものが箇条書きで書かれていた。

「遠い場所もあるから、
 斉藤の車で行って相談しながら買ってほしいんだ」

『はい、わかりました』

「斉藤が休憩から戻ってきたらそのまま行っていいから。
 俺は残って奥村と店の展開変えてるからさ」

『はい』


斉藤さんの車に乗るのは、あの日以来だ。

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| 「僕の一日」  | 00:53 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 100

石川さんが仕事に戻って来た翌日。
店長と石川さんが早番、俺と斉藤さんが遅番というシフトで、
いつもより緊張した足取りで仕事へ向かった。

斉藤さんは普段と変わりなく振る舞うだろうし、
石川さんも昨日と同様に、元気に仕事をしているだろう。


彼女と出会って2年。

ふたりで遊びに行ったりすることもなくて、友達というのもわけでもないが、
ただの仕事仲間というのも、どこか違和感がある微妙な関係。
俗にいう友達以上恋人未満のような状態。

恋人になって今のような関係ではなくなると考えると、それはそれで怖いと思う。

彼女が恋人として「助けてほしい」と言ったとき、必ず助けてあげられる自信がない。
「辛いからそばにいて」と言われて、すぐに駆けつけてあげると言いきれない。
自分のことで手一杯なとき、自分も不安だと感じているとき、
そばにいることで感じてしまう彼女の気持ちや空気を、
ちゃんと受け止めて内に流して消化させることが出来ずに、
逆に不安を与えたり、余計なストレスを与えて、
ますます不安にさせてしまうかもしれない。

そう考えると、その一歩を踏み出せなかった。

恋愛の意味での好意を俺に抱いているか分からない中で、
斉藤さんとの関係を問うことは出来ない。
自信がない。

彼女が誰を好きだとしても、
誰かが彼女を好きになったとしても、俺は何も言えない。


「おはよう有利くん」


耳に響いたバリトンの声に振り返った。

『あ、おはようございます』

いつもと変わらないように挨拶をした。

「どうかした?入り口で突っ立って」

『え?』


視線を前に戻すと、昨日と同じようにお店の入り口前で立ち止まっていた。
ほとんど無意識だ。

「調子悪い?」

『いえっ!ぼーっとしちゃってて……すみません』

「そ?じゃぁ早く行こう。もう少しで出社時間だ」


俺の横をすり抜け、斉藤さんが店内に入って行った。
レジで作業している彼女が気づいて、斉藤さんに優しい笑顔を向けた。
穏やかな、目をして。

あの笑顔は誰にだって向けられている。
俺だけが特別なわけじゃない。


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| 「僕の一日」  | 01:13 │Comments2 | Trackbacks0編集

冬の一日 4 

4

ピーンポーン。


静まり返った広い部屋に響くチャイム。
さっきよりも大きい音のように感じられた。
あわててモニターを確認すると、郵便配達員の姿があった。


「こんばんは。夜分に失礼いたします」


玄関のドアを開けると40代後半ぐらいのおじさんが、
手にしている封筒に視線を落として言った。

「えーと、斉藤葵、ノエさん?」

「え?」

「え?」

反射的に出た声に、
おじさんも間の抜けた声で聞き返してきた。

「斉藤さんのお宅ですよね?」

「あ、はい……」

「これ、ここで住所あってますよね?」

差し出された封筒に目をやった。

クレジットカード会社の名前が入っている封筒。
住所の下に書かれていた文字は、
「斉藤 葵ノエ 様」だった。

「はい、そうです」

この部屋の住所はわからないけど、
斉藤葵と書かれているものなら間違いはないはず。
夜に書留の配達なら、
一度不在通知が入っていて再配達の連絡をしたということだから、
大丈夫、だと思う。

「フルネームでサインかハンコをお願いします」

小さな紙を受け取り、そこに判を押した。

「こちらですね。それじゃぁ失礼します」

封筒を私に手渡すと、
おじさんは特に何も気にする様子もなく足早に行ってしまった。

書いてある名前をもう一度確認する。


「斉藤葵……ノエ」


のえ?

クレジット会社側の登録ミス?
気づかずにそのまま印刷されてしまった?

でもクレジットで名前の登録ミスなんてあるのかな。
漢字が違うとか読み方を間違って登録するならわかるけど、
名前の後ろにカタカナを余計に打つとか、ありえない。

じゃぁ、サイトウ・アオイノエが本名?

でも、斉藤さんの名前が記載されているものに、
「ノエ」なんて書いてあるのを見たことない。

タイムカード入れに差し込まれる給料明細も、
ショッピングビルの裏口から入るためのセキュリティーカードに書かれている名前も、
さっきの宅配便も「斉藤葵」だった。

バイト先でパソコンを使用する際にログインして表示される名前だって、
「斉藤葵」になっているし、
クレジットのサインだって「Aoi Saito」と書いていたのを見たことがある。

となるとやっぱりこのカード会社の登録が間違っている可能性がある。
もしかしたら斉藤さん自身、
気づいてないかもしれないから帰ってきたら聞いてみよう。
きっと答えてくれる、はず。


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| 「僕の一日」  | 04:38 │Comments0 | Trackbacks0編集

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