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冬の一日 3

3

宅配業者から受け取った段ボールの箱はさほど大きくないがずっしりと重かった。
伝票には「本」と書かれている。
いったい何冊の本を注文したのか。

私が使わせてもらっている部屋も、
お店で使っているよな大きい本棚が置かれていて、
色んな本がぎっしり詰まっている。
ジャンルは問わず文芸作品から美術画集まで、
何百冊あるかわからない。

あの人の頭の中に、あれが全部はいっているのかな。

すごいなあ。
世界がまるで違う。
次元が違うというか、見えているものが違うように感じる。

ただそこにいるだけで周囲の目を惹いてしまうバランスのとれた顔。
日本人離れした長い手足。
耳の奥に響く、深く甘い声。

一緒に働いてるなんて嘘みたい。

ああいう人は営業したらすごいことになるんだろうなぁ。
仕事いっぱいとってきそう。


全部がすごい人だから、私なんてまるで釣り合わない。



艶のない重たく真っ黒でごわごわした髪の毛に、特徴のない平凡な顔。
スタイルも悪くてステキな服も、私が着るとウソみたいに似合わない。
何を着たって可愛くない。
そんな人間が化粧したって逆に変になるだけだから、
最低限しかしない。
街に出たら誰の視界にも入らないんじゃないかと思える程、
地味で流行に馴染めない女。

そんな自分があんな人の隣にいるなんて。
部屋に泊まってるなんて。

でも斉藤さんは優しいから、
体調を崩したひとり暮らしの私を放っておけなかっただけ。
有利くんにだってそうじゃない。
毎日部屋にお見舞いに行っていたし、
誰が休んだって、いつも気にして電話したりして。

私が特別なわけじゃない。

だから期待なんてしちゃだめ。


「……期待?」


期待なんてしてない。
仕事仲間だから優しくしてくれるだけ。
分かってる。
勘違いなんてしてない。
そんなもの……でも……。

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| 「僕の一日」  | 17:33 │Comments0 | Trackbacks0編集

冬の一日 2

2

自分のことでいっぱいいっぱいになっていたけれど、
有利くんはもう大丈夫なのかな。


いつも優しいはずの斉藤さんが、なぜか責めるようなことを言っていた。
体調が万全ではなかったこともあったんだろう有利くんは、
斉藤さんの言葉に固まってしまっていた。

結局、仕事はせずに斉藤さんと有利くんはふたりで帰って行って、
そのあと何を話したのか、私は知らない。
そもそも休みに何をしに斉藤さんはお店に来たのか……。
電話口での有利くんの声を聞く限り、
あの話はもうしていないだろうし、
ふたりの関係にも問題はないんだろう。

私が悩んだところでどうにかできることではないと、
分かっているけど。


ぐるぐると回りだした頭の中を停止させるようにチャイムの音が鳴って、
反射的に身体が震えた。

言われていた通りインターホンの画面で相手を確認すると、
見慣れた服装の宅配業者がいた。

渡されていたハンコを手に、玄関の内鍵をはずしてドアを開けた。


「宅配便です。斉藤葵さんですか?」


心の中で『いえ、私は石川です』と呟きながら、小さく「はい」と頷いた。


「こちらにサインか印鑑をお願いします」


某宅配業者は厳しくかなり体育会系で、
肉体的にも精神的にも辛く逃げ出す人が多いと何かで読んだことがあった。
たくさんの家を回って疲れているはずなのに、
微塵も感じさせないさわやかな笑顔を向けられ自分もつられて笑顔になった。

当たり前だけど“石川”以外のハンコを押すのは初めてで、
なんだか胸のあたりがくすぐったくって、少し恥ずかしかった。


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| 「僕の一日」  | 02:57 │Comments0 | Trackbacks0編集

冬の一日 1



斉藤さんのマンションに来て6日目の夜、
部屋の鍵とハンコを私に渡して、斉藤さんは出かけて行った。

夜7時。
今から家族そろって夕飯と言う家庭もあると思う。
そんな時間に出かけて、帰って来るのが翌朝9時だなんて。

友達の仕事を手伝いに行っていると言われたけど、
その内容は知らない。
聞いてもはぐらかされるだけ。
明日だって遅番で仕事があるのに……。

日中じゃなく夜に手伝う仕事ってなんだろう。
お店かなぁ?バーテン?
工場とか?ライン作業?
どっちにしても毎日じゃなければお小遣い程度しかならないし、
隠す必要もないと思うんだけど。

「……夜の仕事?」

突然浮かんだ言葉に自分で驚いた。

斉藤さんがそういう仕事をする理由なんて……。

友達が経営者で、カッコイイからって手伝ってくれって言われて、
ホストをやっているとか……。

まさかとは思うけど、それだったら行き先を言わない理由も、
出かける時間帯も説明できるような気がする。
このマンションだってひとりで暮らすには広すぎるし、
家賃だっていくら払っているのか想像がつかない。
社員といえど、そんなに高い給料を貰ってるわけじゃないはず。

どう考えても収入と支出のバランスがおかしい。

冷蔵庫も洗濯機もひとり暮らしにしては大きすぎるし、
家の中にある家具や調理道具も安くないものだと見て分かる。

親に家賃や車の費用なんかを出してもらってる可能性もあるけど、
斉藤さんはそういうの嫌がるような気がする。

でも……ホストをしていれば、この暮らしも納得できる。

斉藤さんならNo.1になれそうだし。



突然バイトを休んだ私を心配して部屋まで来てくれ、
そのまま一緒に斉藤さんのマンションに泊まらせてもらったのが5日前。
こんなに長い間泊まるなんて自分でも思っていなかった。
布団まで買ってもらっちゃって。


着替えを取に行ったとき、本当は悩んだ。
大丈夫と言って斉藤さんのマンションには戻らず、
自分のマンションで休むか。
何回使うかもわからない布団一式を買わせずに済んだし、
仕事だって普通に行っているんだから、
もう自分のマンションに戻ればいいのに。
でも。


“石川、おいで”


あんな声で呼ばれて、
あんな風に優しくされたら、甘えたくなる。

自分はそれを許されているんじゃないかって、思ってしまう。


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| 「僕の一日」  | 03:52 │Comments0 | Trackbacks0編集

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