春の一日 19

19

眩しい朝日に目を細めながら、
通勤ラッシュの時間帯に駅とは反対の方へ車を走らせ、
大丈夫だろうと思いながらも、
わずかな不安から急いでマンションに戻った。


石川がうちに泊まるようになって初めて一晩外で過ごした。
お留守番をしている子供じゃないないのだから、
一晩ぐらい俺が居なくたってなんてことないんだろうけど、
自分のうちじゃない上、久しぶりに行く仕事に多少なりとも緊張してるだろう。
それで「ぶり返し」たりしてたら大変だ。

ガチャンと大きな音を立てて玄関をドアを開けると、
そこに彼女の靴はなかった。
無事に仕事に行ったようだ。

過保護すぎるか?

そんなことを考えながらリビングに向かった。

テーブルには封筒と段ボール箱が置いてあった。
開けるまでもなく箱の中身は本だと分かっていたので、
先に封筒を手に取った。

「あぁ、クレジットカードね」

再配達の電話を入れいていたことを、石川に話すのを忘れていた。

カード裏に署名しようと、封を切って中身を取り出した瞬間、重大なことに気づく。


「ヤバイ……」


新しいカードが張り付けられている用紙に記載されている氏名。
もちろん、本名だ。

斉藤 葵ノエ。

「はぁぁぁぁ……」

深い深いため息をつきながらしゃがみこんだ。

気づいてない、なんて考えるのは楽観的すぎる。
石川はそういうのちゃんと見てるし、
第一、配達の人が名前を確認する。

「……」

メガネをテーブルに置いて、目頭を押さえた。

バレたことは仕方がない。
なにも悪いことをしたわけじゃないし、聞かれたら話せばいい。

俺の名前こと。


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| 「僕の一日」  | 02:34 │Comments0 | Trackbacks0編集

春の一日 18

18

スーパーに寄り買い物をして部屋に戻ると、
もう出かけなければならない時間になっていた。
週に1~2回、雑貨屋とは別の仕事に出掛ける。

買い物袋を手にリビングに向かおうとする石川を呼び止めた。

「ごめん、昨日言った通りもう行かなきゃ行けない。お弁当はそっちで食べるから」

「友達の仕事の手伝いだよね。わかった」

自分の分のお弁当を受け取りながら言葉を続ける。

「もしかしたら宅配便がくるかもしれない。
 本を注文してるから、届いたらこのハンコ押して受け取ってもらっていい?
 ただ必ずインターホンの画面で相手を確認してから鍵をあけるように。
 よくわかんないものは出なくていいから。
 電話に関しても、前言った通り留守電にしてるから出なくていいよ。
 俺が出て行ったら内鍵をかけるの忘れないで」

シューズボックスの上に置いておいたハンコとこの家のカードキーを手渡す。

「なくさないようにね」

「はい」

「帰って来るのは明日の朝9時前後になると思う。
 石川の出勤時間に間に合わないから電車で行ってね。
 最寄駅までの道はわかるよね?」

「うん、大丈夫」

確認するようにカードキーとハンコを見つめ、小さく頷いた。

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

笑顔で手を振る石川に笑い返し、家を出た。


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| 「僕の一日」  | 03:38 │Comments0 | Trackbacks0編集

春の一日 17

17

着替えや必要なものを取りに石川のマンションに戻った日から4日後の12月2日。
変わらず彼女は俺のところに泊まっていた。
昨日までずっと休んでいたが、
「もう大丈夫だから」と久しぶりに仕事に向かう彼女を車で送った。

俺は休みだったためマンションに戻ってから、
ここ半月散らかし放題だった自分の部屋を掃除し、
忙しすぎて読めずにいた本を5冊一気に読んだ。
溜まっていたことを色々こなしていると、
いつの間にか石川を迎えに行く時間になっていた。

色々といっても掃除洗濯などの家事の一切は石川がしてくれていたおかげで、
いつもよりかなり楽だったし、散らかっていたリビングも片づけられ、
お風呂やトイレもピカピカになっていた。

嫌いでもないが得意でもない家事をやってもらうとかなり助かるし、
食事もバランスよく作ってくれる。
久しぶりの手料理はとてもおいしい。



ショッピングビルのお客様用駐車場に車を停めてパソコンを開き、
石川が来る間、ここ数日分の読んでいなかったメールをまとめてチェックした。

外は既に真っ暗で、時刻は午後6時10分を過ぎたところだ。

パタパタと近づいてくる足音に気づいてバックミラーに目を向けると、
コートも羽織らずに走ってくる石川の姿が映っていた。

「お疲れ様。早いね」

助手席のドアを開けると、息を切らしながら、

「だってわざわざ迎えに来てもらってるのに、待たせるなんて」

と、声を弾ませながら言った。

手にしていたコートとカバンを受け取り、後部座席に置いた。

「どうする?あんまり時間とれないけど、このままどこかに食べに行こうか?」

シートベルトを締める石川の手が止まった。

「いいよ、そんな外食なんて。時間がないならコンビニで何か買ってもいいし」

料理好きだから本当は材料を買って家で作りたいだろう。
それでも構わないのだが、俺はこのあと行かなければならないところがあるため、
いまから料理するのを待っている時間がない。

……それに俺と外で食事をするのを遠慮してるんだろう。

「じゃぁ、近くのスーパーでお弁当買おうか。
 買いたいものがあれば一緒に買っていいから」

「うん、ありがとう」

嬉しそうに笑った。

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| 「僕の一日」  | 02:14 │Comments0 | Trackbacks0編集

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