僕の一日 97

床に張り付いてしまった足に力を込めて、
店内に踏み出そうとしたところに、とん、と背中を押された。
ふわりと足が浮いて、つまずく様に2歩前に歩いた。

「おはよー。なにしてんの?」

驚いて振り返ると、片手をひらひら振りながら笑う相沢さんがいた。

『お、おはようございます』

「調子でも悪いの?顔色悪いよ?」

『いえ、大丈夫です』

「そ?なら行こう。遅刻しちゃうよ」

そう言うと相沢さんは俺の腕を掴んで、ずんずんと店内へ入って行った。
慌てる俺を無視してレジカウンターへ向かう。

「ミサーっ!おはよう!体調はどう?」

「おはようございます!すみません!もう大丈夫です」

「良かった良かった!あと私と有利が入るから、休憩行っておいで」

「はい、ありがとうございます」

一通り会話が済むと、パッと手を離して相沢さんひとりでバックルームへ消えて行った。
呆気にとられている俺を見て、石川さんが優しく笑った。

「おはよう」

その声が耳に入った途端、指先が震えた。

『お、おはよう』

いま俺はどんな表情をしているだろう。
彼女の顔を直視できない。

「ごめんね、連絡するって言ったのに」

『いいよ、気にしないで』

かぶりを振って盗み見るように、彼女に視線を向ける。

「うん?」

首を傾げる姿に、心臓が大きく動いた。

『準備、してくる……』

自分に言い聞かせるような声で呟きながら、
彼女の横をすり抜けて、バックルームのドアを力任せに勢いよく開けた。

『っ……』

バンッと音を立てて閉めたドアを背に、
ずるずると膝から崩れ落ちた。

「どうしたの?」

すでに準備を終えた相沢さんが言った。

『いえ……』

「一緒に売り場に出ようか。待ってるから準備して」


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| 「僕の一日」  | 02:49 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 96

先日「あとで電話するから」と石川さんは言ったけれど、
携帯が鳴ることはなかった。

あまり体調が芳しくなくて寝ていたかもしれないし、
単に忘れていただけかもしれない。
引っかかってしまうのは、斉藤さんのここ数日のいつもと違う言動と雰囲気。
いつもより俺に向けられる空気が冷たい。
何て言えばいいのか、圧倒的な存在感は変わらないまま、
近づき難い距離をさらに遠ざけられたような、そんな感じだ。



雑貨屋の入り口まで来て、足が急に止まる。

まだ客が少ない昼時。
店の奥のレジカウターで作業する彼女の姿。
一週間前と変わらない光景。

彼女が来るのを待っていたはずだった。

なのに。

なにを、怖がっている。


いま、彼女と言葉を交わしたら、自分が酷く傷ついてしまうんじゃないか。

そう感じてしまった。

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| 「僕の一日」  | 01:53 │Comments2 | Trackbacks0編集

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