僕の一日 95

ホストクラブでの仕事が終わるころに降り出した雨は朝まで降り続いた。
始発の電車で部屋マンションに戻り、シャワーを浴びて、
身体に着いた煙草の匂いを落とし、
4時間程の睡眠をとったあと、雑貨屋のバイトへ行く準備をした。

昨日はソファーで休んだあとに部屋の掃除をして、
そのあとにホストクラブの出勤時間までという約束で歩さんと会った。
前回と同じ駅前のファミレスで1時間程度話をしただけだったが、
それでも嬉しそうに話す姿は見ているだけで気持ちが和んだ。

「時間をとって頂いてありがとうございました。
 もし良かったら……また、会ってもらえませんか?」

別れ際に歩さんが言った。

歩さんが俺へ抱いている気持ちの一部を、感じていないわけじゃない。
会話や動作の端々でそれは伝わってきた。
俺自身、歩さんと一緒にいると気持ちが落ち着くし、話をしていて楽しい。

けれど、俺のこの感情は、恋愛のそれではない。

隣に居て疲れないし、可愛いと思うけれど、
それは年下の女の子として、だ。
もしも妹がいたなら、こんな感じなんだろう。
話をしながらそんなことを考えていた。

仮に歩さんから何かしらのアプローチを受けたとき、
どういう態度をとればいいのだろう。

自分から関係を続けることを選んだのに、
最後には傷付けてしまうのだろうか。

にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 01:57 │Comments2 | Trackbacks0編集

春の一日 16

16


閉店間際に駆け込んだ家具店で布団一式とカバーを購入後、
石川のマンションに着替えや身の回りの物をとりに行き、
最後に24時間営業のスーパーに寄って買い出しをした。

「あ、そうだ。部屋はあまってるけど、その部屋暖房ないんだよね。
 どうする?リビングで寝る?」

俺のマンションに戻り、荷物をリビングに運び入れながら聞いた。

「暖房なくても大丈夫だから部屋で寝る」

着替えが入った大きなカバンを抱えた石川が答えた。

「そっか、ちょっと散らかってるから片づけないと……」

「いいよ気にしないから」

「いやいや、床に物が散乱してて、布団敷けないから」

遠慮する彼女に遅い夕飯の準備をまかせ、
リビングの隅で充電が完了しているルンバを抱えて、
物置部屋となっている部屋へ入った。

店で使う大きいなBOOK什器を壁一面置いてるため、
圧迫感があるせいか6畳ある部屋もかなり狭く感じられる。

窓を開けて空気の入れ替えをしながら床掃除をルンバにお願いし、
その邪魔にならないように積み上げられている本を適当に棚に戻していった。
とにかく床さえ綺麗になれば、
あとはそのうち片づければいいし、どうせまたすぐに散らかるのだ。
石川がいる間だけだし。

「……」

いつまで?

彼女はどれぐらいいるつもりなのだろう。
仕事に支障がないなら、あさってには帰るのか。
それとも、もっとここに留まるのか。

長い間ここにいれば、俺自身が動きづらくなるのは間違いない。
週に一度ぐらいの頻度で夜から明け方まで留守にするため、
その間はひとりでここに居ることになる。

ひとりで居るなら自分の部屋に帰った方がいいんじゃないのか。
忙しくて相手もろくに出来ていないのに。

でも彼女がここに居たいと言ったんだ。
だから布団一式買ったわけで。

「……あーもうー……」

石川のことになると、どうしてうまく物事が進まないんだろう。

そもそも体調を崩すから、
あまり有利の世話はしない方がいいって言ったのに、
忠告を聞かないからこんなことになったんだ。
有利だって長い間体調を崩してしまったし、
それにつられるように石川までひどい状態になったり……。

「だからやめろって言ったのに……」

ざわつく感情を抑えようと髪を結んでいるゴムをはずし、
グシャグシャとかきまわした。
メガネをはずして胸元に引っかけ、ポケットから取り出した煙草に火を付ける。

煙草だっていい加減、止めなければいけない。
身体に害しかないし。

「ごはんの準備できたよ。といっても温めただけだけど」

ドアの隙間から部屋の中を覗くようにして、石川が言った。

「あぁ、ごめん。すぐ行くよ」

「あ、煙草」

振り返った俺の顔を見るなり、ムッとした表情をみせた。

「ごめんごめん、すぐ消します」

携帯灰皿にタバコを押し付け、
ドアの前で眉間にシワを寄せる石川の髪をかき回した。

「ちょ、ちょっと」

「ははは、髪の毛ってずっと結んだあとでほどくと、かなり解放感があるよなぁ。
 長い人なんかは特に感じるんだろうね」

「うん、あんまり縛り続けるのもよくないよね」

「やっぱり?でも結ばないと後ろが少し長いんだよなぁ、俺の髪」

「短くすればいいのに、いつもその位だよね」

「結んじゃうとこまめに美容室行かなくてすむし、
 前髪は自分で切れるからね」

後ろの方だけ結べる程度に長く、前の方は自分で適当に切っている。
年齢も考えれば止めた方がいい髪型だ。

美容室に行く時間がなかなかとれないからと、
3年前から今のような微妙な長さを保っている。

「どんな髪型でも似合うからいいよね」

「そう?ありがと」

「長い髪が似合う男の人なんて滅多にいないよ」

「キムタクがいるじゃん」

「あれは別格だよ」

「そうだね。まぁそのうち切りに行くよ。
 さぁ、ご飯食べよう」


こうやって笑顔で一緒にいられるのは、きっと今だけ。

あと少しで一緒にご飯を食べる時間もとれないぐらい、
仕事に忙殺される日々がまた始まるのだから。


にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 03:46 │Comments0 | Trackbacks0編集

春の一日 15

15

泣いたせいで目が真っ赤になってしまったのを気にしている石川を助手席に座らせ、
俺の家に泊まるのに必要な着替えや携帯などをとりに車を走らせた。
助手席に座る姿を見る限りだいぶ落ちつている。
……泣かせたのはオレなわけだが……。

見た目も中身も完璧だね!などと言われることも多いが、
そんな言葉は嬉しくもなんともない。
完璧でいなきゃいけないのか?と言い返したくなる。
他人に大した感心もなく、
ある程度の常識と体裁を気にした態度をとっているだけで何故か完璧扱いされる。
強いて言うなら隙を見せないようにしているだけだ。

当然、機嫌も悪くなるしイライラもするし八つ当たりしたくもなる。
いつもはそれを表に出さないだけで。

ただ、さっきは石川を試したくなったというか、いじめたくなったというか……。
……、いや、違うな、それは言い訳だな。


「部屋に行く前にちょっとニトリに行くよ。閉店ギリギリかな?」

「え?なんで?」

不思議そうに聞いてきた。
声を聞く限り、だいぶ落ち着いたようだ。

「布団一式買おうかと思って。
 俺の分しかないから、泊まるなら必要だかさ」

「い、いいよ!そんなわざわざ買わなくても!」

慌てた様子で手を大きく左右に振った。

「でも夏じゃないから寒いしね。
 ソファーに寝ても疲れ取れないし、
 部屋は余ってるからそこで寝た方がいい。
 それにセットで安いのならそんなにしないはずだから、
 そのくらい別にかまわないよ。
 今度誰か来たときにも使えるし」

「で、でも……」

「気にしないで。いずれ使うものだからさ」

「うーん……」

「悩んでも運転してんの俺だし、
 その格好じゃ石川はお店に入れないだろうから、
 俺一人で買いに行ってくるけどね」

「え?!あ、う、うん。なんか、ごめん」

自分の姿を見て納得したらしい。

部屋着姿に男物の大きなパーカー。
別に外を歩いていけない姿ではないが、
かなり恥ずかしいし、俺もそういう格好で外を歩くのは嫌いだ。

「気にしなくていいよ。
 と言っても、気にしちゃうのが石川の性格なんだろうけど」

「うーん、誰でも気にすると思うよ、布団一式なんて」

「でも、まあ気にしないで。
 俺が買いたいって思うんだから」


信号が黄色になり、静かにブレーキを踏んだ。
隣に座る石川に目をやると、こっちを見て穏やかに笑っていた。

「ありがとう」

無防備な格好で助手席に座り、
そんな風に笑うことがどういう意味があるのかなんて、
きっと考えていない。
運転しているのが俺だから、と安心しているんだろう。

「ほかの人の車に乗って、そんな風に笑わない方がいいよ」

笑い返しながら言った。

「え?」

言葉の意味を理解しかねて首を傾げる。

「男の人の車ってこと」

真顔で言った。
男が運転する車にひとりで乗ることがどういうことなのか、
考えないこともないんだろうけど、
ときどき見せる無防備な姿は「隙」と捉えられしまう可能性がある。
その隙が意図的だと、都合よく相手が考えてしまった場合、
最悪のパターンが想像できる。

「斉藤さんと店長の車以外、2人っきりで乗ったことないし、
 店長のときは後ろに乗ったし、それだって仕事の物を買いに行っただけで……」

「世の中の男なんてだいたいが隙あらばと考えてるからね。
 そのへん君は鈍いから、注意しないとダメだよ」

「はい……」

伏し目がちにうなずく彼女の髪を撫で、緩やかに車を走らせた。


にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 01:50 │Comments0 | Trackbacks0編集

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア