秋の一日 8

8

1ヶ月ぶりの再会に運命を感じたのは私だけだった。


目の前にゆりさんが現れた時は、
「これはきっと何かの縁!」と感じたし、
淡い期待もあって、このチャンスを逃したら後悔すると思った。

けれど結果は一度しか会ったことがないゆりさんに告白をして、断られた。


当然の結果だと思う。
いきなり呼び止められ……というか捕まえられて告白されても、
「誰だよお前」ってなるよね。

綺麗なストレートの髪を揺らしながら改札口を通った姿を見て、
考えるよりも早く足が動いていた。
気が付けば、ゆりさんのカバンを引っ張っていて……。

今思い出すだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
あんな勇気が自分にあったことが信じられない。

けれど、それももう消えてしまった。



一時限目に遅刻寸前で滑り込み、
先生の話を一応聞いているふりをしていたけれど、
頭の中ではフラれたショックと恥ずかしさでパンク寸前だった。
もう誰かに聞いてもらわないと居ても立ってもいられず、
授業が終わると同時に大好きな姉に電話をかけていた。

「お姉ちゃん……なんか、もう人生絶望的……恥ずかしすぎる」

力なく携帯を握り、深いため息と共に吐き出した言葉は、
事情を知らない姉には意味の分からないことだった。

「なにがあったの?」と心配してくれる声に涙が出そうになったけれど、
10分もすれば2時限目が始まる。
泣いてはいられないし、サボるわけにもいかない。
そんなんじゃ授業時間を心配してくれていたゆりさんに申し訳ない。

「思い出すだけで死にそうなくらい恥ずかしいことがあって……。
 話せば2時間はかかるような内容なんだけど……、簡潔に言うと、
 告白して即、フラれた」

一瞬間があって、「えーーーー?!」と、大きな声が耳に響いた。

付き合っていた元彼と夏に別れたことは言っていたけれど、
この1ヶ月で好きな人が出来たことを言っていなかった。
ゆりさんのことを話せば、必然的に痴漢の話もしなくちゃいけないため、
この話だけは誰にも言わないでいたのだ。

「……はぁ、もう、色々ダメだぁ……」

思い出すだけで涙が浮かんでくる。
フラれたから「あ、はい、そうですか、分かりまし」と、
すぐに切り替えられるわけがない。
思い出しただけで涙が出るぐらい、
フラれたことはショックだったし、それだけ本気だった。

「ごめんねお姉ちゃん、今晩にでも話聞いてもらえる?」

携帯の向こうにいる姉にすがる様に言うと、
わずかな間ののち、
「ごめーん、いま忙しくて残業が多いんだ。
 今度時間があるとき電話するから、そのときでいい?
 一週間以内には連絡するから」
と、いつもの明るい声が返ってきた。

「うん、大丈夫、なんとか頑張る……じゃぁね」

そう告げて通話を切った。

「……」

携帯を通して伝わってくる空気の違いを感じ取れるぐらいに、
私たち姉妹は仲が良いし、姉のことは大好きだ。

いま伝わってきたのは、拒絶するような空気。

母親代わりとしても私を助けてくれる姉は、
他人に弱い姿を見せたりしない。
なにかあっても全部自分で片付けてしまい、
他人に甘えるのがとても下手な人だ。

私だってもう大人なのだから頼って欲しいと思うのだけど、
どうにもまだ姉の信頼を得るには、人生経験が足りないらしい。

すべてをさらけ出して心底安心できるような相手が、
姉にいればいいといつも思っているけれど、
今まで一度もそういった類の話は聞いたことがない。

隠しているのか、それともいないのか。


2歳違いの姉は私の憧れで、
こんなにステキな女性はいないんじゃないか、っていうぐらい尊敬している。
もしも彼氏がいないなら、「世の男は見る目がない!」と大声で叫びたい。


本気で姉のことを好きだと言う人が現れてくれることを願いながら、
出来たばかりの心の傷をを癒すために、
今日は友達と飲みに行こうと決めた。




2歳年上の姉、美里お姉ちゃんが大好きな私、石川里奈は、
生まれて初めての一目惚れをした相手が誰を好きかなんて、
このときはまだ考えもしなかった。


大学3年生の12月1日の出来事。


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| 「僕の一日」  | 00:06 │Comments0 | Trackbacks0編集

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