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秋の一日 7

7

ゆりさんに助けてもらった翌日、まったく同じ電車に乗った。
驚いたのは2週間続いた痴漢が現れなかったこと。
もしかして昨日の一件で警察に相談されたとでも思ったのかな?
そうだと嬉しい。

毎日辛くて仕方なかった満員電車も、
たったひとつの出会いがあっただけで、
こんなにも嬉しいものになるなんて思ってもみなかった。
ここ半年以上、こんなにドキドキしたことなんてなかったと思う。


アルバイトを理由にまったく会ってくれなかった元彼に、
突然の別れを告げられたのは夏休みもあと数日を残すのみとなった9月末。
久しぶりの電話にデートに誘われるのかと期待していたら、
「ごめん、別れよう」と一言。

あまりに突然のことで、手にしていた携帯を落としそうになった。

理由は自分にあるという。

お前のことを嫌いになった訳じゃないし、好きな人ができたわけじゃない。
でも俺が毎日バイトで夏休みの間もまったく会えなかった。
そんなのは付き合ってるって思えないし、
だからと言っていまの自分の生活スタイルを変えるわけにもいかない。
俺は4年生だし、まだ就職先も決まってないし、これからもっと忙しくなる。
だからごめん。

まとめるとこんな感じだった。

他にも色々と謝っていたけれど、あまり覚えていない。
私は「わかった」と受け入れるしかなくて、
通話を切った後、大声で泣いた。

その後は誰とも付き合っていない。
正直、こんな思いは当分したくないと思ったし、
友達と毎日わいわいしているだけで楽しかったから、
彼氏なんていらないと思っていた。

だけど。

この出会いはきっと逃しちゃダメ。
玉砕しても言わないと後悔する。


そんなことを出会ったその日に、しかも痴漢から助けてくれた人に思うなんて、
昨日までの私は考えもしなかった。


「今日会えるかも」、なんて、
心を弾ませながら助けてもらった駅に降りてみたけれど、
あの色素の薄い綺麗な髪をした長身の人影はなかった。

次の日も、また次の日も、
いつも乗る電車よりも30分電車に乗って待ってみたけれど、
それらしき姿はなかった。

通学なのか通勤なのか分からないけど、
毎日決まったところに通っているなら改札口で待っていれば会えるはず。
空振りなのはあの日乗った電車がたまたまだったからという事になる。
そうなるともう会えない確立がかなり高い。


1ヶ月。
1ヶ月だけ頑張ってみよう。
それで駄目だったら仕方ない。
そう決めて毎日改札口で探した。
講義に遅れないために、20分程度しか時間をとれなかったけれど、
日曜日には2時間以上、待ったりもした。

自分の中で決めたその日まであと1週間となった日。

運命の瞬間が訪れる。


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| 「僕の一日」  | 18:01 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 94

想像もしていなかったことが突然起こると、結構疲れてしまう。
お昼ご飯は自分で作ろうと思っていたが、
部屋に戻ると急にぐったりとしてしまい、すぐにソファーに横になった。

『そうじ……』

今朝はあんなにやる気満々だったのに、病院に行っただけでこんなに疲れてしまった。

目を閉じ深く呼吸をすると、さっきの女性が目に浮かんだ。

「好きです」と、あの女性は俺に言ったけど、
俺の何を好きになったというのだろう。

痴漢から助けてあげたから?
そのとき一緒に電車に乗ったから勘違いをした?

そういう素振りは一切しないでいたつもりだったが。

歩さんが俺に対して抱いているであろう感情も、
さっきの女性と似ているものがあるんだと思う。
その気持ちが男嫌いを治す何かの役に立てばいいんだけど、
どうやったらいいのか分からないのは俺の知識不足か、経験不足か。

俺は医者でもなんでもないのだから、分からなくて当然ではあるけれど、
斉藤さんだったらきっとうまく相手をするんだと想像できてしまうあたり、
普段の立ち振る舞いや接客態度のすごさが分かるというものだ。

『いっそ斉藤さんに相手してもらったら克服できそう……』

呟いてみて、「イヤイヤそれは無理だよ」と自分で突っ込んだ。
斉藤さんのまとう空気は歩さんにはきっと強すぎる。


嫌いな空気ではないだろうけど、
あの空気を真正面から受け止めるられるほど、歩さんはまだ強くない。


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| 「僕の一日」  | 02:44 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 93

痴漢から助けたとはいえ、犯人を捕まえたわけでもなく、
ただその場から連れ出しただけ。

強いて言えばこの人から音が聞こえたら助けただけのこと。
感覚が似ているのかもしれないと思ったから。
それだけだ。

だから見返りなんて求めていないし、ましてや出会いが欲しくて助けたわけじゃない。

『本当に気にしないでください。
 このあと用事があるので、すみませんが……』

話をまとめようとすると、「ちょっと待ってください!」と、止められてしまう。

「いまお忙しいなら、今度空いている時間にでも!」

『いえ、大丈夫ですので……』

「じゃぁ、せめて連絡先だけでも!」

『えー……と……』

こんな風にぐいぐいと来られたのはいつ振りだろうか。
この手の人は苦手なのだが……。

「助けてもらったからとか、そういうんじゃなく、
 あの……だから……」

「だから」とはいえ、連絡先を教える理由にはならないし、
この手の人に番号を教えて、俺にとって良いことは何もない。

『今日まで僕を探してくれてたというだけで、
 お礼をしたいという気持ちは伝わりました。
 それだけで十分ですので、これ以上はすみません』

はっきりと拒否の態度を示した。
――のだが。

「あの……好きです。付き合ってもらえませんか?」

そう言って頭を下げたまま動かなくなった。

なんの繋がりもない人に呼び止められて、
突然告白されたことは何度かあったけれど、正直言って困る。
その一言に尽きる。

『……顔、上げてください』

俺の顔を見上げたその頬は真っ赤で、
この人はこの人なりに勇気を出して言ったことなのだと、冷静に考える。

それでも心が揺れることはない。
誰に告白されても、好意を寄せられても。

昔からずっとそうだった。

『すみません。そういうつもりはまったくありません。
 あの時の僕の態度が何か期待させてしまったのなら謝ります。
 でも僕はただあの状況をなんとかしようと思っただけで、 
 それ以外のことはなにも考えていません』

女性の表情が歪み、わずかに目が潤んだ。
うつむいたその姿に申し訳なさを感じるけれど、
傷付けてしまってるかもしれないけれど、俺にどうしろというのだ。
このまま言われるがまま告白を受け入れればいいと言うのか。

『1ヶ月も待っていただいて申し訳ないのですが、
 それはお受けできません……すみません』

「……そう、ですよね」

ぱっと顔を上げてぎこちなく笑った。

「突然すみませんでした……1ヶ月だけ待ってみようって決めてて……。
 もしも会えたら言おうって決めてたんです」

ドラマチックな出会いにあこがれる気持ちを分からないわけじゃないけど。

「お忙しいのに呼び止めてすみません」

『いえ、こちらこそすみません』

「あ、お名前、ゆりさんでしたよね?
 ゆりさんて名字ですか?」

『はい、そうです』

「ステキな名字ですね。
 あ、すみません、名前を言っていませんでした。
 私、里奈といいます。
 先日は助けていただいて本当にありがとうございました」

深々と頭を下げて礼を言う姿を見て、俺も頭を下げた。

『いえ、こちらこそわざわざありがとうございました』

1ヶ月も探してくれたことにお礼を言ってその場をあとにした。
振り返らず、いつもより早歩きで病院へと向かった。


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| 「僕の一日」  | 00:48 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 92

すし詰め状態の電車に揺られ、病院がある駅まで向かう。

いつものように改札口を抜けて外に出たところで、
肩から下げていたカバンが何かに引っかかり、あやうく転びそうになった。
驚いて振り向くと、そこにはひとりの小柄な女性。

「あ、あの!」

その一言を発したあと、女性は俺のカバンを掴んだまま黙り込んだ。
お団子ヘアーをしたその人が誰なのか、まったくピンとこない。

『え……っと、なんでしょうか……』

誰か別の人と勘違いしているんじゃないかと言いそうになったが、
ホストクラブに来ていた人の可能性も捨てきれない。

「私のこと、覚えませんか?」

『え?』

「先月、この駅で助けてもらった……」

『先月?』

この駅は病院に来るときにしか使わない。
この駅を通ったのは1か月前。

『……あ』

石川さんが俺の部屋に来たあの日、
今日と同じような満員電車に乗って確かにこの駅で降りた。
女性の手をひいて。

「思い出してくれましたか?」

『あー、あのときの大学生』

「そうです!あのときはありがとうございました!」

『いえ、気にしないでください』

あの時、俺の耳に届いた音の持ち主。

「ずっとお礼がしたくて……でも連絡先も知らないし」

『……ここを通るのを待っていたんですか?』

「はい!1ヶ月待って会えなかったら諦めようと思っていたんです」

以前に会った時とは違って、ハキハキとした声。
不快な音は聞こえない。

『まさか、この時間ずっと?』

「はい……あ、でも講義には間に合うようにしてました」

1ヶ月もの間、毎日。

『……そう…でしたか。
 あ、じゃぁそろそろ時間ですよね?』

「そうなんですけど……でも!あの!
 よろしければこのあと食事でもどうですか?!」

通勤ラッシュでたくさんの人が流れる時間帯。
大声だったわけではないが俺のカバンを掴んだまま、
何か必死に話している姿は、それだけで人目を引く。

俺が彼女を困らせているような図になっている状態を何とかしないと……。

『えーと、すみません、まずここ避けませんか?
 駅の入り口のど真ん中ですし、邪魔になるので……』

「え?」

俺を捕まえることが第一に目的だったようで、
周囲の視線など気にしていなかったらしい。
はたと気づいて慌てて俺のカバンから手を離した。


携帯電話を持っているのが当たり前になったいま、
ほとんど使われることのなくなった公衆電話の前まで移動する。
俺の後ろをうつむきながらついてくる姿は、
すこし歩さんに似ている。

……いや、似ているか?
正反対の性格のような気もするが。
でも「大学生」という雰囲気と小柄なところははふたりとも同じだ。

「すみません……やっと会えたので、つい……」

『いえ、気にしないでください』

頬が赤みを帯びている。
表情と会話の流れから読み取れるのは感謝というより好意だ。
そういば助けたときに名前を聞かれたっけ。

なんとなく何を言いたいのか想像がついてきて、
早くこの場を切り抜けることを考えた。

とはいえまた来月もこの駅で待ち伏せされたらたまったもんじゃない。

「あの、先日のお礼をどうしてもしたくて……。
 連絡先も聞いていなかったし」

手をひいてホームに降りたあの日のように、女性がうつむいた。


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| 「僕の一日」  | 01:02 │Comments2 | Trackbacks0編集

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