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僕の一日 87

初めて会ったとき俺の声を聞いて肩を震わせた時も、
紅茶を手に嬉しそうに笑った時も、他の客とは違う何かを感じていた。

歩さんも初対面の俺を大丈夫だと感じたのは、口調や仕草だけでなく、
俺にある何かを感じたんだろう。

言葉で言い表すことのできない繋がりを。

斯波隆之と初めて会ったときもそうだった。
駅構内で具合悪くしているのだから、駅員に引き渡せばよかったのに、
しなかったのは、不思議と傍にいて心地よかったから。
連絡先を教えたのは、話してみたいと感じたから。

話した時間や出会い方なんて関係なかった。

自分に似ているとか心に傷があるとか、そういうことも含めて、
歩さんを「可愛い人」と思ったんだ。
ペットボトルを手渡したあのときも。
仕事でもなく、仕事のような対応でもなく、きっと素で話していたんだ。


傍にいて心地よいと思う人が自分に心を許してくれているのを、素直に嬉しいと思った。


俺はもう、とっくにこの人に心を許している。

だからこそ仕事終わりに時間を取るなんて回りくどい方法をとったのだと、
今更自分の行動を理解する。


『今日はもう帰ろう。もうすぐお店もしまるだろうし、
 近くまでタクシーで送るから』

「……でも」

恐るおそる俺を見る目は、真っ赤になっていた。

『連絡先を教えるから、またあとで話を聞くよ。
 今日はまずゆっくり家で眠ったほうがいいと思う。ね?』

伝票立てから二人分の伝票を抜き取り、先に会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」と変わらない明るさでお釣りを渡す店員に会釈をし、
座席からぼーっと俺を見ている歩さんのところに戻り、静かに言った。

『大丈夫だよ。おいで』

手を差し出すと、震えながらもその小さな手を重ねてきた。
軽く手を引いて歩さんを立たせた。

『ほら。大丈夫。
 寒いからコートを羽織って』

手を離して俺がコートを羽織ると、歩さんもうなずいてコートに袖を通した。

『どの辺りに住んでるの?
 僕もタクシーだから途中まで一緒に帰ろう』


歩さんの為に時間を作ろう。
ホストの仕事で早めにこっちに来れるとき、この辺で食事でもしながら話を聞こう。
それで少しずつでも治ってくれるなら、それでいい。
俺に抱いた感情がどんなものでも、いつか自信に変わってくれたなら、
それで良かったときっと思える。

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| 「僕の一日」  | 03:22 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 86

午前0時を過ぎたファミレスの店内は、客の数も減り、
程よい雑音もあって、うたた寝をするにはちょうどいい場所だ。

よれたワイシャツのボタンをはずし、パソコンに必死に何かを打ち込んでいるサラリーマンに、
楽しそうに話をしている恋人たち。
店内を眺めながら、歩さんが話すのを静かに待った。

歩さんに仕事用の携帯でも連絡先を教えれば、この場は素直に帰ってくれるだろう。
あとでメールが来たとしても適当に返事をすればそれで満足するのかもしれない。

でも俺があくまで相手に優しくするのは、その人がお客様だから。
それ以外に優しくする理由はない。
歩さんと連絡を取り合っている余裕があるなら、
確実に店に来てくれる客にメールする方がずっといい。

それはお金に繋がるのだから。

しばらく沈黙が続き、カップに入っていた冷めたミルクティーを飲み干して、
別のドリンクを取りに席を立ちあがると、はじけるように歩さんが顔を上げた。

泣きそうな表情を浮かべて。

『ドリンクを取に行くだけだよ』

「あ……すみません……」

すぐにうつむいてしまったその姿に、気持ちが揺れる。

人に対してこう思う気持ちは悪いものじゃないと分かっているけど、
俺は他人に気を配っている余裕がない。
自分以外の人のことであれこれ考えたりする余裕がないのに、
小さなことをいちいち気にしてしまう癖を、大人になった今も治せずにいる。
だからこそ仕事関係以外の人と滅多に連絡もとらないようにしているのだ。

分かっているはずなのに、こうして時間を作った理由は。

音がしないよう静かに、歩さんの前に温かいミルクティーが入ったカップを置いた。

「あ、ありがとうございます……」

『うん』

座りながら返事をし、自分の分のミルクティーを口に運んだ。

「あの、私……」

艶のある綺麗な黒い髪を耳にかけ、口を開いた。

「美貴にも言ってないんですが、この間まで付き合っていた人に……」

言葉が途切れる。
続けようと口を開くが、声になっていない。
溢れ出てきたのは言葉ではなく涙だった。

『暴力を振るわれていたんでしょ?』

友達の美貴さんにも言えず、きっと親にも言えず、ひとりで抱え込んでいたんだろう。
俺の言葉に無言でうなずく。

『そういうお客さんに会ったことがあるから、
 彼氏がいたって話を聞いてなんとなくそうなんだろうと思ってたよ』

「……」

『男を受け付けないというより、怯えているように見えたから、
 嫌なことがあってダメになったんだろうなって思った』

「わたし……変でしょうか?」

『そう思うなら今ここにいないよ。変だなんて思ったことない』

そう言うと、歩さんの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
あぁ、「つかえ」が取れたんだなと思った。

両手で顔を覆って肩を震わせる姿を見て自然と動いた手が、歩さんの髪に触れようとした。
瞬間、自分のとった行動に驚き、気付かれないよう伸ばした右手をそっと引いた。


何をしようとしたんだ、俺は。


声を殺して泣いている姿を見て、「可哀想に」と思ったのは間違いない。
辛い思いをしたんだろうと。
だけど触れようとしたのは……。

頭をなでるのは簡単だが、
男嫌いと言っている人に対してやっていいことじゃないし、
なにより相手は客だ。
いまこの瞬間はそうじゃなくても、客だった人なのだ。
そんな人に対して、俺はどうしてこんな普通の……。

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| 「僕の一日」  | 14:32 │Comments2 | Trackbacks0編集

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